特発性血小板減少性紫斑病
概要
免疫性血小板減少症(めんえきせいけっしょうばんげんしょうしょう、以下「ITP」)は、以前は特発性血小板減少性紫斑病(とくはつせいけっしょうばんげんしょうせいしはんびょう)と呼ばれていました。血液中の血小板(けっしょうばん)(※1)が何らかの原因で減少し、皮膚や粘膜に出血による赤い斑点が現れやすくなる病気です。
人間の体には、ケガなどで出血した際に血を固める仕組みがあります。その中心となるのが血小板です。ITPでは、自分の免疫系(めんえきけい)(※2)が誤って血小板を攻撃してしまうため、血小板の数が減って出血しやすくなるのが特徴です。
日本においては、ITPは指定難病の一つに位置づけられています。年齢や性別に関わらず発症する可能性がありますが、子どもの場合はウイルス感染後に一時的に発症して自然に回復することもあり、大人に比べて経過が良い場合が多いといわれています。
※1:血を固めるために必要な小さな細胞
※2:ウイルスや細菌などの外敵から体を守る仕組み
免疫性血小板減少症の原因
ITPの原因は、免疫系が誤作動を起こして自分の血小板を異物とみなし、攻撃してしまうことにあります。通常であれば体を守るはずの免疫細胞が、なぜ血小板を攻撃するようになるかは明確にはわかっていません。これを「自己免疫性疾患(じこめんえきせいしっかん)」と呼び、ITPもその一つに含まれます。
一部では、ウイルスや細菌に感染したあと、何らかのきっかけで体の防御システムが乱れ、誤って血小板を壊してしまうという説もあります。とくに子どもの場合は、風邪などのウイルス感染ののちにITPを発症するケースが報告されています。また、大人で発症する場合には、免疫に影響を与える別の病気(たとえば自己免疫性疾患の一種である全身性エリテマトーデスなど)との関連が指摘されることもあります。
免疫性血小板減少症の症状
ITPの主な症状は、出血しやすくなることです。具体的には、次のような症状がよくみられます。
- 1.皮下出血(ひかしゅっけつ)
- 皮膚の下にできる出血が原因の、紫色や赤色のあざ(紫斑〈しはん〉)が、腕や脚などに突然現れることがあります。軽い打撲(だぼく)でも大きなあざができるため、最初は「ぶつけた覚えがないのに、あざができる」といった程度で気づかれる方も少なくありません。
- 2.点状出血(てんじょうしゅっけつ)
- 皮膚や粘膜に小さな赤い点が集まるように出血斑が現れることを指します。とくに足のすねなど、血管に負担がかかりやすい部位に現れることがあります。
- 3.鼻血や歯ぐきの出血
- 鼻血がよく出る、歯ぐきから出血しやすいなどの症状がみられます。鼻をかんだときに出血が止まりにくいと感じた場合には注意が必要です。
- 4.月経(げっけい)の増加
- 女性の場合、月経時の経血量が増えることで気づくケースもあります。普段よりも出血量が多い、経血が長引くといった症状が続く場合には、早めに医療機関を受診しましょう。
これらの症状はいずれも血小板の不足が原因で起こるもので、出血症状が強くなると、頭の中など体の深部でも出血が起こり得るため、早めの受診と対策が大切です。

免疫性血小板減少症の検査・診断
ITPを診断するためには、まず血液検査で血小板の数を調べます。正常範囲よりも血小板が著しく減少している場合、ITPを疑います。ただし、血小板の減少はほかの病気(たとえば白血病など)でも起こり得るため、ITP特有の原因や免疫の異常を確認する検査が行われます。
- 1.血液検査
- 完全血球計算(CBC):赤血球や白血球、血小板などの数を測定します。ITPでは血小板が低値になりますが、赤血球や白血球は比較的正常であることが多いです。
- 抗血小板抗体(こうけっしょうばんこうたい)(PB-IgG):免疫系が血小板を攻撃する際にできる抗体(※3)の有無を確認します。
- 2.骨髄検査(こつずいけんさ)
- 血液をつくる骨髄(こつずい)の状態を調べる検査です。骨髄から血液細胞が正常に産生されているかどうかをチェックし、血小板がきちんと作られているのに破壊されているケース(ITP)なのか、もともと作られていないケースなのかを見極めます。
- 3.画像検査
- 他の病気を除外するために、超音波やCTなどの画像検査が行われることもあります。
総合的にこれらの検査結果を踏まえ、医師が「自己免疫が原因で血小板が減少している」と判断できれば、ITPと診断されます。
※3:異物を攻撃するたんぱく質
免疫性血小板減少症の治療
ITPの治療は、血小板の数がどの程度減少しているか、出血症状がどのくらい重いかによって異なります。無症状や症状が軽い場合は、経過観察が選択されることもありますが、出血リスクが高い場合には以下のような治療が行われます。
- 1.薬物治療
- ステロイド(免疫の働きを抑える薬):免疫系による血小板の破壊を抑える目的で使われます。プレドニゾロンなどが代表的です。
- 免疫グロブリン大量静注(IVIG〈アイブイアイジー〉):集めた免疫グロブリン(※4)を静脈に点滴することで、血小板破壊を抑制します。重症の出血や緊急時に用いられることが多いです。
- 免疫抑制薬(めんえきよくせいやく):ステロイドで効果が得られない、あるいは副作用が強い場合に追加で使われることがあります。
- 2.脾臓摘出(ひぞうてきしゅつ)
- 免疫細胞が多く集まる脾臓(ひぞう)を手術で取り除く方法です。脾臓は血小板を破壊する主要な場であると考えられており、摘出により血小板数が増えるケースがあります。ただし、手術にはリスクもあるため、慎重に検討されます。
- 3.トロンボポエチン受容体作動薬
- トロンボポエチンは血小板を増やすホルモンで、慢性的に血小板が少ない方に用いられることがあります。
治療のゴールは、必ずしも「正常な血小板数を完全に回復させる」ことではありません。出血のリスクを抑えて、生活の質を保つことを目標としているため、医師と相談しながら最適な治療法を選択していきます。
※4:抗体としての機能と構造をもつタンパク質
免疫性血小板減少症の合併症
ITP自体で命にかかわることはまれですが、血小板が著しく減少すると、脳出血など重篤な出血を起こす可能性があります。また、治療で使われるステロイド薬によって、骨粗しょう症(こつそしょうしょう)(※5)や感染症リスクが高まる、副腎不全(ふくじんふぜん)(※6)などの副作用が現れることもあります。
脾臓摘出を行った方は、脾臓がなくなることで感染症全般のリスクが高まるとされます。そのため、インフルエンザや肺炎球菌などのワクチン接種が推奨される場合があります。
※5:骨がもろくなる病気
※6:体のホルモンバランスが崩れる状態
免疫性血小板減少症の予防
ITPは、自己免疫性疾患のため、はっきりとした予防策は確立されていません。ただし、ウイルスや細菌感染が発症のきっかけとなることがあるため、以下のような一般的な感染対策が役立つ可能性があります。
- こまめな手洗い
- うがい
- 規則正しい生活リズムや十分な睡眠
- インフルエンザワクチンなどの定期的な予防接種
また、すでにITPの診断を受けている方は、血小板を減少させる恐れがある薬剤(たとえば解熱鎮痛薬の一部など)の使用を医師に相談したり、激しいスポーツなどで大きなケガをしないように注意したりするといった工夫が大切です。
更新:2026.05.13
