痙性斜頚
概要
痙性斜頚(けいせいしゃけい)は、首まわりの筋肉が意図しない形で強く収縮してしまう病気です。筋肉や神経の異常によって、首が横や前後にねじれるように傾いたり、首の周囲がピクピクと痙攣(けいれん)を起こしたりする状態です。
この病気は、首や肩に大きな負担をもたらすため、日常生活でも苦痛を感じることが多いといわれています。日本での正確な患者数は明らかではありませんが、神経難病の一種として、全国の大学病院や専門医療機関で診察・治療が行われています。発症年齢は若年から高齢まで幅広いですが、中年以降の女性にやや多いと報告されることがあります。
痙性斜頚の原因
痙性斜頚の原因は、まだ完全には分かっていません。ただし、以下のような要因が関係している可能性が指摘されています。
- 1.脳内の神経伝達物質(しんけいでんたつぶっしつ)の異常
- 脳の中にはドーパミンやアセチルコリンなど、筋肉を動かす指令を調整する化学物質があります。これらの働きが乱れると、筋肉が過剰に収縮しやすくなると考えられます。
- 2.遺伝的要因
- 家族にジストニア(※1)やパーキンソン病(※2)など、神経の異常にかかわる病気がある場合、痙性斜頚になりやすい体質が受け継がれる可能性があります。
- 3.ほかの病気や薬の影響
- 脳卒中(のうそっちゅう)(※3)や脳外傷などで脳機能に障害が生じたり、精神科で処方されるドパミンの働きを調整する薬を長期間使用したりすると、二次的に痙性斜頚を発症することもあります。
- 4.ストレスや環境要因
- 精神的な負荷や過度な疲労が症状を悪化させる例もあり、一度発症するとストレスがさらに首の緊張を高めるという悪循環に陥りやすいとされています。
※1:筋肉が勝手に縮み、姿勢や動きが乱れる病気
※2:脳の神経細胞が減って身体がうまく動かなくなる病気
※3:脳の血管が詰まったり破れたりする病気
痙性斜頚の症状
痙性斜頚では、首まわりの筋肉が無意識に強く収縮し、以下のような症状が現れます。症状の強さや出方は人によって異なります。
- 1.首のねじれや傾き
- 首が横や斜め、あるいは前後に大きく傾いた状態で固まるようになります。自分の意志ではまっすぐに保つのが難しくなるのが特徴です。
- 2.首や肩の痛み
- 常に筋肉が緊張しているため、首から肩にかけて重苦しい痛みやこわばりを感じることがあります。
- 3.不随意運動(ふずいいうんどう)
- 自分でコントロールできない動きが起こります。首がピクピクと動いたり、小刻みに震えたりすることがあります。ときには肩や背中にも広がる場合があります。
- 4.日常動作の困難
- 食事や読書をするときにうまく頭の向きをキープできなかったり、周囲の人と会話をするときに視線が定まらず負担を感じたりするなど、生活に支障が出ることがあります。
これらの症状は、疲れや精神的ストレスなどによって悪化しやすいといわれています。反対に、リラックスしている状態や横になっているときには、比較的症状が軽くなることがあるのも特徴です。

痙性斜頚の検査・診断
痙性斜頚が疑われる場合、神経内科や脳神経外科、あるいはリハビリテーション科などを受診します。主な検査や診断の流れは以下のとおりです。
- 1.問診と視診・触診
- 発症時期や症状の変化、家族に同じような病気があるかなどを詳しく聞き取ります。首の動きを医師が観察し、筋肉の緊張度を触診で確認することもあります。
- 2.神経学的検査
- 筋力や反射、触覚・痛覚などの感覚、協調運動(きょうちょううんどう)(※4)の異常がないかを調べます。他の神経疾患と区別するために重要です。
- 3.画像検査
- MRI検査:脳や頸椎(けいつい)(※5)に異常がないかを確認します。脳卒中や腫瘍(しゅよう)など他の原因が疑われる場合に必要です。
- CT検査:骨や脳の一部に問題がないかを調べます。MRIより短時間で撮影できますが、細かい軟部組織(※6)の情報はMRIに劣ることがあります。
- 4.血液検査
- 代謝異常(※7)やホルモンバランスの乱れなどが原因になっていないかを確認するために行われることがあります。
他の病気を除外しつつ、首の筋肉が過剰に収縮してしまう状態を総合的に判断して、痙性斜頚と診断するのが一般的です。
※4:手足を器用に動かすこと
※5:首の骨
※6:筋肉や皮膚、脂肪、血管、神経などの組織のこと
※7:体内の物質のやりとりの異常
痙性斜頚の治療
痙性斜頚の治療は、症状の緩和を目的に行われます。完全に治すことが難しいケースもありますが、適切な治療により症状を軽くして生活の質を向上させることが可能です。
- 1.薬物療法
- ボツリヌス毒素注射:筋肉の過度な収縮を抑える効果があります。注射した筋肉にだけ作用するため、副作用が比較的少ないとされています。一定期間ごとに繰り返し注射を行う必要があります。
- 内服薬:筋肉の緊張を和らげる薬や、ドーパミンの働きを調整する薬などが処方される場合があります。ただし、効果や副作用には個人差があります。
- 2.理学療法(りがくりょうほう)
- 専門のリハビリスタッフの指導のもと、首や肩のストレッチや筋力トレーニングを行います。症状が強い場合は、痛みをとりながら運動をサポートする方法を取り入れることもあります。
- 3.装具(そうぐ)の使用
- 頸椎コルセットなどを装着し、首の動きをサポートすることで筋肉の緊張を軽減する場合があります。ただし、長期間使用すると逆に筋肉が弱まることもあるため、医師の指示に従うことが大切です。
- 4.手術
- 重症で薬や注射の効果が十分でない場合、脳深部刺激療法(のうしんぶしげきりょうほう)(※8)などが検討されることがあります。ただし、手術はリスクも伴うため、慎重に判断されます。
※8:脳の特定の部位に電極を埋め込み、電気刺激を与えて症状を抑える方法
痙性斜頚の合併症
痙性斜頚自体は命にかかわるものではありませんが、長期的に首の筋肉が過度に緊張していることで、以下のような問題が起こる場合があります。
- 肩こりや背中の痛み
- 首の姿勢が崩れることにより、肩や背中の筋肉も疲労しやすくなります。
- 精神的ストレス
- 症状の目立ちや不自由さから、不安やうつ状態を引き起こすこともあります。
- 仕事や学業への支障
- 首の動きが制限されるために、パソコン作業や読書などが困難になる場合があります。
こうした合併症を軽くするためには、早めの治療と周囲の理解が欠かせません。
痙性斜頚の予防
現在のところ、痙性斜頚を完全に予防する方法ははっきりと分かっていません。しかし、次のような点に気を配ると、症状の悪化を防いだり、発症リスクを低減できる可能性があります。
- 適度な休息とストレスケア
- 睡眠不足や精神的な疲労は、筋肉の緊張を高める原因になります。リラックスできる時間をつくり、ストレスをうまく発散する工夫が重要です。
- 姿勢の改善
- スマートフォンやパソコンを長時間使用する際は、首や背中への負担が大きくならない姿勢を意識しましょう。
- 定期的な運動
- 軽めのストレッチやウォーキングなどで筋肉の柔軟性と血行を保つと、首や肩のこわばりが軽減されやすくなります。
更新:2026.05.13
