時代の最先端をいくロボット手術が治療の道を拓く
徳島大学病院
泌尿器科
徳島県徳島市蔵本町

四国でいち早くロボット手術を導入
がん治療の最前線で大きなトピックスの一つにロボット手術がある。手術支援ロボット「ダヴィンチ」による手術が、2012(平成24)年4月、前立腺がんに対して保険適用となった。
ダヴィンチはメスやハサミ、鉗子(かんし)などを装着したロボットのアームを、執刀医がコンソールと呼ばれる、患者が寝る手術用ベッドから離れたブースの中で、3D画像を見ながら遠隔操作で行う手術だ。従来の腹腔鏡手術(ふくくうきょうしゅじゅつ)をロボットの支援下に行う手術である(写真1)。

現在、最もロボット手術と密接な関係にあるのが、保険適用が認められたことでも分かるように、前立腺(ぜんりつせん)がんだ。男性特有の病気として急増している前立腺がんの治療において、ロボット手術は大きく寄与している(写真2)。

徳島大学病院は、2011年10月に四国でいち早くダヴィンチを導入し、最初に前立腺がん手術を行った。泌尿器科教授の金山博臣医師はこう説明する。
「ダヴィンチは、鉗子やハサミ、持針器に関節があり、自由自在に動くため、前立腺のように骨盤の中の狭い空間にある臓器に対して行う手術では、膀胱(ぼうこう)と尿道を縫ったりする細かい作業がスムーズで確実にできます。骨盤内は血管や神経が数多く走っている部位なので、血管の損傷を防ぎ、出血量を抑制することができます。さらに、神経温存もでき、尿失禁などの合併症を抑え、男性機能の保持と早期回復、正確で安全な手術ができます。患者さんの大多数は手術翌日には自力歩行し、食事や流動食を取ることができるようになります。術者が見る画面も3D(立体)の高画質で、お腹を開けて行う手術と全く違わない手術部位を拡大して鮮明に見ることができるのです」(写真3、4)


泌尿器科では、1例目以降も臨床研究的に手術を行い、2012年4月に保険適用になってからは、手術が適応できる前立腺がんについては100%ダヴィンチによる手術を実施している。ロボット手術の技術認定を受けたスタッフは7人と充実しており、2015年6月1日時点で206例を数える(写真5)。

「患者さんに負担が少ないことはもちろん、術者にとっても座りながら、無理な姿勢を取ることなく手術ができることで、ストレスが少なく、結果的に良好な手術ができます。若い先生たちへの手術の教育的指導にも向いています」
触覚がないのが難点とも言われるが、通常、20例手術を経験すれば、慣れてスムーズにできるようになる。「若い先生たちはコンピューターゲームに慣れており、シミュレーターによるトレーニングもできるので上達が早い」という。
ロボット手術は腎がん、膀胱(ぼうこう)がんへ
泌尿器科のほかの病気では、腎がんについてもダヴィンチによる、部分切除が可能になっている。
「最近、腎がんについては、小さいがんも見つかるようになりました。以前なら腎臓を全部摘出していたところですが、今は、部分切除をしています。腎臓は2つあるものの、1つを取ると腎機能が落ちます。それによって、ほかの病気を誘発して寿命が縮まるようでは意味がありません。できるだけ温存する方針を取り入れています」
現在、腎がんに対するロボット手術は保険適用外のため、同科は、厚生労働省から先進医療の認定を受け、手術だけ実費で、通常診療は保険診療という方法を取り入れてきた。この先進医療は、全国十数施設で実施され、蓄積された約100例の手術症例が、現在の治療に比べて成績が良いかどうか、分析されている最中だ。
現在は、自由診療でないと手術を受けることはできない。だが、結果次第では2016年4月頃をめどに、保険適用になる可能性もあるという。
「腎がんの手術は、腎動脈を止めて行うため、患者さんの腎機能を保護するためには、血流を止めている時間を極力短くしたいのですが、ダヴィンチを使うことで手術時間の短縮が可能となります」
さらに、同科は膀胱がんについてもロボット手術を実施している。「膀胱がんは、前立腺がんと手術手技が似ているので、将来は保険診療ができるようにと願っています。今後、先進医療が行われる場合は積極的に参加する予定です」
前立腺がんには小線源療法も不可欠
現在、前立腺がんで、前立腺の中にがんが留まっている進行度の場合は、小線源療法という放射線治療も選択できる。
通常の放射線は体外から照射するのに対し、放射線源を直接、前立腺の中へ埋め込む内照射という方法である(写真6)。超音波で前立腺の形を確認しながら、コンピューターで立てた治療計画に基づいて、会陰部(陰のうと肛門(こうもん)の間)から長い針を刺して、そこからヨウ素125という放射線源を密封したカプセルを前立腺に50~100個埋め込む。そこから放射線を放出してがんを撃退するという仕組みだ(写真7)。


「当科では、ダヴィンチによる手術とほぼ同数の治療を実施しています。年齢や患者さんの状態、がんの状態、前立腺の大きさなど、さまざまな病状を考慮して、それぞれの治療のメリットとデメリットを患者さんに説明して、希望も聞きながら、治療法を決めています」
県民にとってより良い医療を
腎細胞がんの進行がんに対しては、昨今、分子標的薬(ぶんしひょうてきやく)という薬が注目されている。がんに栄養を運ぶ血管を遮断し、がんを兵糧攻めにする新生血管阻害薬や、がん増殖にかかわるタンパクをブロックするこの分子標的薬が治療の中心となっている。
金山医師は、これらの新薬の治験にも積極的に参加し、患者が最新の薬物療法の恩恵を得られることにも尽力している。さらに、県民に対して、泌尿器の病気についての認識を高めてもらうために、分かりやすい啓発活動も折に触れて行っている。
特に、急増する前立腺がんの早期発見・早期治療については、その大切さを強く訴える。
「前立腺がんは、高齢化と食生活などの要因によって発症するがんで、年々増えています。しかし、早期がんであれば、説明してきたとおり、ロボット手術をはじめ、治療の選択肢が豊富にあり、適切な治療を早く受ければ、ほぼ死亡することはないがんといえます。PSA(前立腺特異抗原)検査を受ければ、自覚症状がほとんどなくても、早期発見が可能です。PSAは前立腺に現れる腫瘍(しゅよう)マーカーで、これを調べれば、前立腺の異常を把握できます。手軽に行える血液検査ですから、男性は50歳を過ぎたら、ぜひ年に一度は検診を受けていただきたいと思います」
更新:2022.03.04