脳卒中センターで全国屈指の脳卒中治療を実現

徳島大学病院

脳神経外科

徳島県徳島市蔵本町

国立大学初の脳卒中専門病棟を設置

脳卒中は、がん、心臓病と並ぶ3大疾患と呼ばれる。患者数は約150万人、毎年、新たに50万人が罹っているという国民病だ。血管が詰まる脳梗塞(のうこうそく)、血管が破れる脳出血と、くも膜下(まくか)出血の3つの病気の総称だ。脳梗塞が約6割を占める。巨人軍終身名誉監督の長嶋茂雄さん、元サッカー日本代表チーム監督のイビチャ・オシムさんたちがこの病に襲われた。

重篤な場合は死に至り、命が助かっても、言語障害や手足の麻痺(まひ)などの重い後遺症が残ったり、寝たきりになってしまう場合が多い。

最近では、肺炎に死因3位を譲っているが、肺炎による死亡者の中には、脳卒中が原因で寝たきりになった人も含まれているといわれ、対策が強く求められる。

徳島大学病院は、そんな脳卒中の治療に力を入れ続けてきた。国立大学附属病院としては、日本で初めて、1999(平成11)年、脳卒中の専門病棟である「ストロークケアユニット(SCU)」を設置し、積極的に緊急の脳卒中患者を受け入れてきた(写真1)。

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写真1 SCUの医療チーム

脳神経外科准教授の里見淳一郎医師は、こう説明する。

「脳卒中は、早期に発見し、早く治療すればするほど、経過が良くなることが分かっています。1990年代に北欧中心の幾つか研究によって、専門病棟を構えて、診た人と診てない人では、明らかに診た人の方が入院期間も短縮になって予後(回復経過)も非常に良いということが分かったのです。当科では、いち早く専門的な設備での脳卒中治療を実施してきました」

「ストロークケアユニット」は、2006年に脳卒中センターへと組織変更、脳卒中の治療に対して、脳神経外科のスタッフのみならず、神経内科、放射線科、集学治療部、循環器科、リハビリテーション部門の医師、看護師、技師たちがチームとなって24時間態勢で診療にあたっている。

MRI、超音波、血管撮影、CTなど最新鋭の画像診断装置による精密な画像診断から、薬物療法、手術、治療後のリハビリテーションまで、全国屈指の高度な治療が手厚く用意されている(写真2、3)。

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写真2 3D-CTA画像
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写真3 MRI、MRA画像

脳卒中の治療は一刻を争うため、連携にも力を注いでいる。病院内の連携、病院間の連携、専門医と開業医の連携など、さまざまな連携が求められる。県内の中心的病院として要となってきた同院はネットワークにより連携を図ってきた。

i-strokeTokushimaの導入で、強固になる連携システム

さらに、チームの連携を最大限スムーズにするツールとして、2012年4月導入したのが、i-stroke Tokushima(徳島脳卒中遠隔画像診断治療補助システム)というスマートフォンを用いた医療ネットワークだ(図1)。東京慈恵会医科大学と富士フィルムが共同で開発したシステムで、同院は、国立大学病院としては初めて採用した。

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図1 i-stroke Tokushima システム図

脳卒中センターのスタッフ同士が、病院内にいても、病院外にいても、診療・治療のための画像も含めた患者情報を、リアルタイムで共有できるシステムである。

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写真4 脳卒中センターの症例検討会

「例えば、当直医のもとに緊急で患者さんが運ばれた場合、その患者さんの病状について、画像も含め、スマホでスタッフ全員に一斉送信すると、学会で海外にいる医師、休日をとっている医師、院内外で仕事をしている医師がその情報を見て、ツイートで次々に治療方針に対する意見が当直医のもとに集まります。同時に全員が相互の意見を確認することができます。手術画像もリアルタイムで見ることができ、高画質であるため、誤診も防ぎ、最善の治療を実行することができるのです。これまで350例を発信しています」(写真5)

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写真5 スマートフォンから画像を確認する医師

このシステムは、治療を適切に即座に行えるという患者へのメリットはもちろんのこと、当直医のストレスを軽減し、離れた場所で患者の病状の度合いが分かるため、休日に出勤することを防げ、医師たちの勤務負担も軽減しているという。

現在、同センター内だけで実施しているシステムだが「今後は、ほかの病院との連携も深めていきたい」と里見医師は話す。

「まず、県立病院との連携を始めていきます。県南部や県西部の医療過疎地域の場合には、写真を送ってもらい、緊急を要する場合は、ドクターヘリを派遣するなど、臨機応変な対応ができます」

その後は段階的に、民間病院、地域の診療所などともリアルタイムの連携が取れるようにすることが目標だという。

「脳卒中は待ったなし。いつでもどこでもアクセスできる端末で、やりとりできることが大きなメリットです。診療所からの急患についても状況に応じて判断し、受け入れることができるようになるでしょう。交信した症例がすべて蓄積されることで、後日、症例を検証したり、研修医たちへの教育的なメリットもあります」

これまでも、地域遠隔医療システム、インターネットを介した医師間の症例検討会(図2)、地域連携パスによる急性期から回復期、維持期の管理などが実践されてきた。i-stroke Tokushima が加わると、脳卒中医療は、さらに広がりと厚みをみせるだろう。

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図2 インターネットによる症例検討会

脳卒中専門医の育成が将来の課題

今後、脳卒中センターがめざしているのは、脳卒中専門医の育成だ。「現在、脳卒中を診る医師が全国的に少ないのです。特に地方では、ほとんど脳神経外科の医師が脳卒中を診ています。心臓の場合は、まず循環器内科の医師が診ますが、脳は神経内科(脳専門の内科)の医師が診るケースは非常に少数です。しかし、脳卒中を診ることのできる医師を増やすことは、社会的に急務だと思います。当センターは、できるだけ専門医を育てていきたいと考えています。脳には多くの専門領域があります。その中で、脳卒中はあらゆる専門領域のベースとして勉強するべきだと考えています」

大学病院内では、専門に特化して診療することが可能だが、一般病院へ赴任すると圧倒的に脳卒中の患者さんを診るケースが多いという。

里見医師は「脳卒中をきちんと診る医師がいることは、超高齢社会の現在において、医療経済だけでなく社会経済をも救うことになります。患者さんの寝たきりが10年、15年続くということは、医療費に限らず、介護にあたるご家族や周囲の人々に与える経済的損失は計り知れないでしょう」と力説する。

同院を中心に、主力病院との連携、県内のあらゆる地域の病院との連携など、医療側の態勢を整えるとともに、県民に対する脳卒中の予防と早期発見・治療の大切を啓発していくことも重要だという。

「県民の皆さんに脳卒中の怖さを理解していただきたいと思います。『片側の顔面と手足が動かない、しびれる』『片目が見えない、二重に見える』『言葉が出ない、人の話が理解できない、ろれつが回らない』といった症状が現れたら、一過性脳虚血発作(TIA)を疑って、すぐに病院を受診してください」

更新:2022.03.04