不整脈から心臓と脳を守る 不整脈と心房細動

徳島大学病院

循環器内科

徳島県徳島市蔵本町

不整脈と心房細動

不整脈とは、心臓の電気の流れの異常によって引き起こされる疾患です。それに伴い、心拍数が極端に速くなったり遅くなったり、あるいは文字通り不整になる場合に動悸(どうき)や胸苦(きょうく)などの症状が現れます。ひどい場合は、失神や突然死に至ることもあります。「心房細動」は比較的起こりやすい不整脈で、加齢に伴って増加し、日本国内に潜在的な人も含め100万人以上の患者さんがいるといわれています。心房細動では、心房が数多くの不規則な電気の空回り(渦)を起こし、結果的に脈が乱れるようになります。

最初は発作が時々起こる発作性(一過性)ですが、そのまま放っておくと、ずっと心房細動が続く慢性(永続性)に変化していきます。心房細動はすぐに命にかかわるような不整脈ではありませんが、放っておくと危険な状況を引き起こすことがあります。一つは、心房が震えるため、その中の血液がよどんでしまい血液の塊(血栓)が、できやすくなることです。この血栓が血液の流れに乗って脳の血管を閉塞(へいそく)させると脳梗塞(のうこうそく)になります。

実際、心房細動をそのまま放置した場合、年間に約5%の患者さんが脳梗塞になることが知られています。もう一つは、心不全で、脈が速くなって心臓が空打ちした状態となることが主な原因です。突然、脈が乱れた状態が続くときは心房細動を疑います。心房細動をはじめとして、発作時に心電図をとることが不整脈診断では最も重要です。発作時に心電図をとらえられない場合や発作頻度をみたいときには、1日分の心電図を記録するホルタ―心電図を行うことも多いです。

心房細動の治療

心房細動が発症した場合の治療法としては①脳梗塞予防のために血液をサラサラにする薬を服用する(抗凝固療法)、②症状を改善し心不全を予防するために、脈を正常の規則正しいリズムに戻すか心拍数を調節する(減らす)、ということが中心となります。ただ、すべての心房細動が脳梗塞を起こすわけではなく、リウマチ性心臓弁膜症、心不全、高血圧、高齢者(75歳以上)、糖尿病、脳梗塞の既往といった危険因子を持った人が積極的な抗凝固療法の対象となります。

②については、従来は薬物療法と電気ショック(電気的除細動)しかありませんでしたが、これらは対症療法で心房細動を根治させるものではないため、心房細動の進行を止めることは、なかなかできませんでした。心房細動の根治療法として最近注目を集めているのがカテーテル・アブレーション(心筋焼灼術(しんきんしょうしゃくじゅつ))です。

心房細動のアブレーション(心筋焼灼術)

カテーテル・アブレーションとは、カテーテル(直径2mm程度の細い管)を脚の付け根から心臓まで挿入し、不整脈発生部位にカテーテルを当てて高周波の熱で焼灼する方法です(図1)。心房細動の多くが肺静脈付近から異常な電気的興奮が現れ、左心房に伝わり電気の渦をつくることによって生じます。

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図1 心筋焼灼術(カテーテルアブレーション)の実際

よって、カテーテルを用いて肺静脈の周囲を焼灼して、この異常な電気信号が肺静脈から心房に伝わらなくさせること(電気的肺静脈隔離術)で心房細動を治します(図2)。さらに、心臓の位置情報と電気的情報を3次元的に表示する機器(3次元マッピングシステム)が開発され、アブレーションの成績向上・安全性向上につながっています。アブレーションによって動悸などの症状がなくなり、生活の質が改善することはもちろんですが、最近では、アブレーションを受けることで脳梗塞の発症率が心房細動のない人と同程度になるという報告も多数あります。

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図2 心房細動のアブレーション(心筋焼灼術)の模式図

当科は、2014年に50人以上の心房細動患者さんにアブレーション手術を行いました。同手術での入院期間は4~6日で、手術時間は3~5時間です。ただし、手術時間の大半は静脈麻酔(点滴による麻酔)を使用して、眠っている間に治療を行います。心房細動アブレーションの欠点は再発が多いことですが、当科では、発作性心房細動の場合、1回の手術で約70~80%の方が再発なく経過しています。

更新:2022.03.04