消化器がんの内視鏡治療- ESDの登場で大きく変化 消化器がん
徳島大学病院
消化器内科
徳島県徳島市蔵本町

消化管に発生するがん
消化器内視鏡の診療は口から肛門(こうもん)に至る広い範囲が対象となります。消化器がんの診断、治療の対象も食道、胃、小腸、大腸と多臓器にわたりますが、頻度の高い疾患は、胃がん、大腸がん、食道がんです。これらのがんを合わせると、日本人が罹患(りかん)するがんの約3分の1を占めます。
これらのがんは早期発見できれば手術で根治も可能ですが、実際には発見が遅れて多くの方が、がんで亡くなっています。早期のがんでは自覚症状はなく、早期発見のためには積極的に検診を受けることが大切です。
消化器がんの内視鏡治療
消化器がんの治療は大きく分けて、内視鏡治療と腹腔鏡手術(ふくくうきょうしゅじゅつ)を含む外科治療に分かれます。
内視鏡治療は簡単に言えば、お腹を切らずに治す治療です。大部分の消化器がんは小さなうちに早期で発見できれば、内視鏡治療で根治が可能です。内視鏡治療は消化管の粘膜下層(粘膜の下にある比較的浅い層)から切除する局所治療(その部分だけに行う治療)です。内視鏡治療の対象は、いずれの臓器の場合でもリンパ節転移のない早期がん、もしくはポリープなどの前がん病変(今後がんに変わる可能性があるポリープなど)であり、進行がんやリンパ節転移の可能性が高いがんは対象になりません。
大腸がんを例に説明します(食道がんや胃がんの場合も概ね同様です)。
大腸がんは通常、粘膜層という大腸の一番表層の部分から発生しますが、大きくなると次第に大腸の壁の深い方へと根を張るように増殖していきます(これを浸潤(しんじゅん)と言います)。早期大腸がんとは、がんの浸潤が粘膜下層という大腸壁の比較的浅い層までに、とどまっているがんのことを言い、粘膜内がんと粘膜下層がんに分けられます。
大腸の内視鏡治療は、肛門から内視鏡を挿入し、大腸の内側から行う治療ですので、大腸壁の深い層まで浸潤するがんやリンパ節などの大腸の外の部分までは治療できません。従って、早期大腸がんの中でも比較的浅く、リンパ節やほかの臓器に転移していないものが内視鏡治療の対象となるのです。
粘膜内がんでは転移がないことが知られており、内視鏡で切除することでがんが完全に切除できれば、追加の治療は必要ありません。一方、粘膜下層がんの場合は、リンパ節に転移している可能性が10%前後あるため、慎重な対応が必要となります。内視鏡で切除されたがんは病理検査(顕微鏡で細胞を詳細に見る検査)によって、ポリープやがんの性質や深さなどを調べ、リンパ節転移の危険性を評価します。内視鏡治療の後に、総合的にリンパ節転移の可能性が高いと判断された場合には、リンパ節郭清(かくせい)を含めた外科的手術による追加治療を行います。
内視鏡治療の方法
消化器内視鏡治療は、近年ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術(ないしきょうてきねんまくかそうはくりじゅつ)、図、写真1)という手術法の登場で大きく変化しました。以前から広く行われている治療はEMR(内視鏡的粘膜切除術)といって、内視鏡の先から出した、投げ縄状の電気メスを腫瘍(しゅよう)にかぶせ、締め上げるようにして高周波電流を通電し切除する方法でした。この方法は簡便で、非常に有用な治療なのですが、スネアの中に入らないような大きな病変では一括切除が困難となる問題がありました。一括切除ができないと病変の遺残・再発の頻度が増加したり、病理診断が正確に行えないという問題が起こります。


そこで、考えられたのがESDという方法です。ESDは内視鏡の先からさまざまな形の電気メスを出して、病変の周囲を切開し、粘膜下層を剥(は)いでいくことで、大きな病変でも一括切除が可能になります。当初は胃がんと食道がんで行われていましたが、2012(平成24)年4月1日から大腸に対しても保険適用となりました(大腸ESDは難易度の高い手技であるため、治療を受けられるのは当院のように一定の基準を満たした施設に限定されています)。

検診や人間ドック、内視鏡検査を
繰り返しになりますが、内視鏡治療はあくまでリンパ節転移のない早期がんまでが治療の対象です。早期発見のためには、検診などでがんを早期発見することが重要です。徳島県は検診の受診率が全国的にみても低い県で、多くの方に受診してほしいと思います。検診、人間ドックの受診や近くの内科・消化器内科の先生に相談の上で内視鏡検査を積極的に受けることをお勧めします。
更新:2022.03.04