“寛解”をめざして IgA腎症

徳島大学病院

腎臓内科

徳島県徳島市蔵本町

自覚症状なく発症

「IgA腎症」は慢性腎炎といわれるものの中で、その大多数を占める疾患です。特に自覚症状がなく発症し、発見のきっかけは一般検診での尿タンパクや尿潜血の陽性所見です。感冒症状や消化器症状があるときに肉眼的血尿が出ることがあり、それもIgA腎症を疑わせるエピソードです。

発症年齢は子どもから大人までさまざまで、その予後(回復経過)も非常に悪いものから比較的良好なものまで幅広い疾患です。この疾患を放置すると、腎機能が自覚症状のないまま徐々に低下し、血圧上昇、吐き気などの消化器症状や全身倦怠感(けんたいかん)、むくみ、息切れが現れたときには、既にほぼ腎機能廃絶に陥っていて、治療不可能、腎代替療法(透析、腎移植)となる可能性があります。

尿検査、血液検査、腹部超音波検査で検討、腎生検で確定診断

一般に検診でタンパク尿、尿潜血で発見された患者さんが紹介で訪れ、受診します。尿タンパクや潜血は腎臓だけでなく、膀胱(ぼうこう)やほかの部位から出ても不思議ではなく、まずは尿中の赤血球や白血球、細胞成分などを遠心分離機にかけて集め、顕微鏡で観察します。この所見で「図1」にあるような変形赤血球や円柱という所見があれば、腎臓に何らかの異常があることを疑います。

画像
図1 遠心された成分を顕微鏡でみた所見
イラスト

また、腎臓の予後に影響する尿タンパクの排泄量(はいせつりょう)を検討します。さらに血液検査で腎臓に病気を起こす特殊な病気が隠れていないかどうか、そして腎臓の現在の機能を調べるため、血清クレアチニンという値を調べます。最後に腎臓は長期に病気が続くと徐々に小さくなる傾向があるため、その形態や大きさを調べるために腹部超音波検査を行います(図2)。これらの検査で腎疾患なのか、ほかの部位の疾患なのか、ある程度見分けることが可能です。

写真・イラスト
図2 腹部超音波検査

しかし、確定診断には「腎生検」という、腎臓の組織を採取する検査が必要です。採取した組織に、特殊な染色を施行したり、さまざまな顕微鏡で観察したりします。この検査では、「写真」のように背部の肋骨(ろっこつ)と腰の間にある腎臓を超音波検査で場所を確認しながら組織を採取します。皮下に局所麻酔を投与する痛みや、細菌が体内に入り込んでしまう危険性もさることながら、比較的多量に出血する可能性が否定できないため5~7日程度の入院の上で行います。従って、腎臓が既に小さくなっている人、血をサラサラにするような薬を飲んでいる人、腎臓が一つしかない人、検査中に指示に対応できない人、検査後の安静が守れない人――など腎生検ができない患者さんもいます。

写真
写真 腎生検

治療/扁桃摘出術とステロイド投与

IgA腎症は、喉(のど)から出る熱(扁桃(へんとう)の炎症)によって、悪化する可能性があり、患者さんによっては扁桃摘出術を勧める場合があります。患者さんの状態にもよりますが、ステロイドという薬を投与する場合があります。ステロイドは細菌感染にかかりやすくなる、血糖・血圧が高くなる、胃に悪い、骨や目に悪いなど多様な副作用があるため、マスクや手洗い、うがいで細菌予防をしたり、ほかの副作用の予防薬を同時に服用したりしながら半年~2年かけて減量します。

美容的には顔が丸くなったり、吹き出物が出やすくなったりすることが高頻度にあるものの、急に服用を中止すると血圧低下などの生命にかかわる危険性があり、必ず担当医と相談の上で服用量を調整することが求められます。

2015年1月に難病指定

IgA腎症は2015(平成27)年1月から難病指定の疾患となりました。早期発見し、適切な時期に適切な治療を行うことで、高い確率で病勢を長期に抑制することが可能です。逆に、治療が遅れると治りにくくなります。無治療だと40歳程度で腎機能が廃絶するような状態になることもありますが、早期治療によって、生涯腎機能が維持できるような状態にすることが可能です。定期的に検診を受け、尿タンパク、潜血両方陽性、もしくは、尿タンパクが2+以上であれば、自覚症状が全くなくても、まずはかかりつけ医の受診をお勧めします。かかりつけ医で再検し、同様の値が続くようなら精密検査の対象となり、当院などの医療機関へ紹介の形で受診方向となります。若くて元気でも腎臓の病気は起こるので、精査が必要です。自身の将来がかかっています。手遅れにならないうちに対応することをお勧めします。

更新:2023.03.10