骨粗しょう症治療の最前線 骨粗しょう症

徳島大学病院

内分泌・代謝内科

徳島県徳島市蔵本町

骨粗しょう症は予防が大切

骨粗しょう症は「骨の強度が全身性に低下し、骨折しやすくなった病態」と定義されており、骨強度の大部分は骨密度(こつみつど)に依存します。骨粗しょう症は年々、患者数が増加しており、既に我が国では人口の10分の1にあたる約1300万人が骨粗しょう症に罹患(りかん)していると推定されています。男女とも骨粗しょう症患者さんの数は加齢とともに増加、70歳以上の女性で約50%、80歳以上の男性で約25%が骨粗しょう症だといわれています。高齢者については椎体(ついたい)(背骨)や大腿骨(だいたいこつ)近位部(太ももの付け根)に骨折が生じると生活の質(QOL)が低下し、寝たきりなどで身体活動が低下すると、さらに骨がもろくなるという悪循環がみられます。

椎体や大腿骨近位部に骨折をしたことがある患者さんは、そうでない人と比較して生命予後(回復経過において、生命維持できるかどうかの予測)が悪化するということも知られています。進行した骨粗しょう症は、骨密度や骨強度の回復に、より長期間の治療が必要となるとともに、骨折のリスクを低下させることも難しくなります。従って、骨粗しょう症は、治療だけでなく予防の重要性も指摘されています。

原発性と続発性の2つのタイプ

骨粗しょう症は主に加齢に伴って起こる原発性と、特定の基礎疾患や病態に伴ってみられる続発性に大別されます。原発性(げんはつせい)骨粗しょう症のほとんどは、女性ホルモン作用の低下に伴う閉経後骨粗しょう症で、同じく原発性に分類される男性骨粗しょう症も加齢による性ホルモンの低下が関与していると考えられています。

一方、続発性(ぞくはつせい)骨粗しょう症では、ステロイド投与、長期寝たきりなどの不動、ホルモン異常などの内分泌疾患、関節リウマチなどの慢性炎症、血液疾患、肝胆道系疾患や胃切除後などの消化器疾患を基礎疾患や病態として想定できます。また、骨密度や骨強度は遺伝的に規定されている面もあります。特に女性で血のつながった母親、祖母に骨折歴がある場合は注意が必要です。

症状――痛みを伴わない骨折に注意

自覚症状

非椎体骨折(背骨以外の骨折)は、ほぼ全例で骨折部位の痛みを自覚し、大腿骨近位部、橈骨(とうこつ)遠位部(前腕の親指側で手に近い部分)、上腕骨、肋骨(ろっこつ)(あばら骨)などに高頻度にみられます。一方、一部の椎体骨折では発症時に疼痛(とうつう)を伴わないこともあるので注意が必要です。椎体骨折がさらに悪化して背骨の変形が進行すると、体の活動制限や内臓機能の低下、腰背部痛のほか、神経の圧迫があると、下肢(かし)の神経疼痛やしびれなどがみられます。

他覚所見

椎体骨折があると、身長の低下や背中が丸くなる円背(えんぱい)がみられます。身長を測定して青年期より2cm以上の低下がある場合や、壁に背を向けて立ち、かかと、腰を壁に付けたときに後頭部が壁から離れるような場合は椎体骨折の可能性が高いです。

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検査――ほとんど外来で可能

X線検査による椎体骨折および骨密度の評価とともに、前述の続発性骨粗しょう症をきたす疾患や病態の検索を行います。これらの検査のほとんどは外来で可能ですが、一部の続発性骨粗しょう症に関する検査は入院が必要になります。

ビスホスホネート製剤が第一選択薬――新規薬剤の開発にも期待

骨粗しょう症予防のためには、体重の維持(過度のやせは危険)、喫煙をしないこと、適度な運動、過度の飲酒をさける、カルシウムやビタミンDの充足が重要です。骨粗しょう症に伴う骨折を防止するためには、早期の治療が有効である科学的根拠が示されています。現在、日本で使用できる骨粗しょう症治療薬は、骨吸収抑制薬、骨形成促進薬、骨代謝改善薬の3つに分類することができ、患者さんの病態に合わせて治療法を選択することができます。特にビスホスホネート製剤は、多数の科学的根拠に支えられた骨粗しょう症治療の第一選択薬です。

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また、治療とともに転倒防止策を行いながら、患者さんの全身状態を考慮した運動やリハビリテーションを継続することも大事です。骨粗しょう症治療薬は、より強力、かつ骨特異的な作用を持つ新規薬剤の開発が急ピッチで進んでおり、今後の展開が非常に期待できる分野です。高齢化社会が進行する我が国において、骨粗しょう症の予防および治療は、生活の質の維持や健康寿命の延長といった観点から今後さらに重要な地位を占めるでしょう。

更新:2022.03.04