患者一人ひとりに合った質の高い治療を提供 悪性リンパ腫・多発性骨髄腫
徳島大学病院
血液内科
徳島県徳島市蔵本町

悪性リンパ腫
症状――リンパ節腫大、発熱、寝汗、体重減少など
悪性リンパ腫(リンパ腫)は、リンパ組織内の細胞ががん化し、全身の臓器を侵していく悪性腫瘍(しゅよう)です。この病気は、がん化したリンパ球がリンパ節などで増殖し、さまざまな全身症状が現れます(図1)。主な症状は、首や脇の下などのリンパ節の腫(は)れ、発熱、体重減少、寝汗などがあります。また血管内リンパ腫といわれるリンパ節が腫れずに発熱や神経障害などを伴うリンパ腫もあります。

診断――画像検査、組織検査
リンパ腫の診断には、画像検査、組織検査が重要です。画像検査は、リンパ腫の全身的な広
がりを調べるために、CT、FDG-PET/CT、MRI検査などを行います(写真1、図2)。確定診断のために、腫瘍部の組織を採取し、病理学的に診断します。リンパ腫は、B細胞性、T細胞性、NK/T細胞性などに分けられ、さらに組織型や細胞遺伝学的な特徴によって数多くの種類に分類されています。


治療――抗がん剤、放射線療法、抗体療法、移植療法
リンパ腫の治療法は組織型、病変部の広がりによって治療法が異なります。リンパ組織は全身に広がっているため、全身的な治療としては抗がん剤治療が行われ、組織型によっては、抗体療法も追加されます。逆に、病変が限られた場所にある場合は放射線治療を行うことや、組織型によっては、無治療経過観察を選択する場合もあります。また、再発例や一部の初発例に対し、治療成績の向上のため、大量の抗がん剤治療を併用した自家末梢血幹細胞移植(じかまっしょうけつかんさいぼういしょく)を行います。
当科での取り組み
徳島県内のほかの施設との緊密な連携を図って、シームレスな(垣根の低い)患者治療体制を確立しています。当科では各種抗がん剤治療や抗体療法、移植適応が認められる若年者の患者さんには、自家末梢血幹細胞移植や同種移植療法を実施しています。低悪性度B細胞リンパ腫については、放射免疫治療薬ゼバリンの投与も行います。移植療法や治療強度の強い化学療法は感染リスクを減らすために、無菌環境の細胞治療センターで行っています。
多発性骨髄腫
主な症状――腰痛、貧血、腎障害
多発性骨髄腫(骨髄腫)は、形質細胞という白血球の一種ががん化した、高齢者に多い悪性腫瘍で、高齢化とともに患者数は増える傾向にあります。この病気は、脊椎(せきつい)、肋骨(ろっこつ)、腸骨(ちょうこつ)などの骨の中(骨髄)を好んで広がり、Mタンパクと呼ばれる異常タンパクが多量に産み出されます。この結果、造血が低下し、貧血が進行し、次第に骨が溶かされ、骨痛や骨折が起きます。また、骨髄腫細胞によって多量に産み出されたMタンパクが腎臓に沈着し腎障害を起こします。腰痛、倦怠感(けんたいかん)がよくみられる症状ですが、症状がなく発見される例も増えています(図3)。

診断――血液検査、尿検査、骨髄検査などで診断
骨髄腫の診断のためには、骨髄から骨髄液を採取して形質細胞の割合を調べ、タンパク分画、免疫電気泳動という検査で、血液や尿のMタンパクの存在を調べます。また、X線、CTやMRIで脊椎の圧迫骨折などの骨病変がないか全身の骨を調べます。骨髄腫の診断を満たし、貧血、腎障害、骨病変などがあれば、治療を開始します。
治療――新規治療薬で生命予後が延長
治療は①骨病変や血球減少などによる症状を緩和するための治療(写真2)②抗がん剤による治療――の2つに分けられます。①は、骨髄腫に対する根本的治療ではありませんが、苦痛を取り除き生活の質を改善するために重要です。骨病変に対する薬物療法、骨痛に対する疼痛(とうつう)対策(鎮痛剤、放射線療法)や貧血に対する輸血療法などを行います。

②は、Mタンパクを産み出している形質細胞を標的とした治療です。新規治療薬といわれるボルテゾミブ、レナリドミド、サリドマイドなどの抗がん剤が登場し、治療成績は大幅に改善しています。また、65歳以下で心臓や肺などの臓器機能が保たれていれば、自家末梢血幹細胞移植が行われます(図4)。

当科での取り組み
当科では、新規治療薬による寛解(かんかい)導入療法や自家末梢血幹細胞移植を積極的に行っています。骨病変に対する薬物療法(ビスフォスフォネート製剤、抗RANKL抗体)の際には歯科医師による口腔(こうくう)ケアを行い顎骨壊死(がっこつえし)を予防しています。さらに日本骨髄腫患者の会を通じて、骨髄腫の治療を受けている患者さんや家族との交流会も定期的に実施して、患者一人ひとりの病状に合った質の高い治療が行えるように心掛けています。
更新:2022.03.04