症状に合った薬物治療、非薬物治療を実施 認知症

徳島大学病院

神経内科

徳島県徳島市蔵本町

認知症の病気のタイプ

認知症とは、いったん正常に発達した知的機能が持続的に低下し、複数の認知障害があるため社会生活に支障をきたすようになった状態です。数多くの疾患がその原因となりますが、アルツハイマー型認知症、血管性認知症、レビー小体型(しょうたいがた)認知症が頻度的には大部分を占めます(図1)。残念ながら、これらには根本的治療薬(「なおる」治療薬)は開発されていません。

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図1 認知症のタイプ

一方、少数ながら「なおる認知症」というものが存在し、それらを診断するために認知症の検査では血液検査、画像検査を行います。血液検査で診断できる「なおる認知症」には甲状腺機能低下症、ビタミンB12欠乏症、葉酸欠乏症(ようさんけつぼうしょう)などがあり、画像検査で診断できる「なおる認知症」には慢性硬膜下血腫(まんせいこうまくかけっしゅ)、正常圧水頭症(すいとうしょう)などがあります。

アルツハイマー型認知症の症状と診断

認知症の原因として、最も多いのがアルツハイマー型認知症で過半数を占めています。アルツハイマー型認知症は最近のことを忘れるのが特徴です(近時記憶障害(きんじきおくしょうがい))。具体的には、食事を済ませたのにまだ食べていないと訴える、といった症状です。診断はまず本人および介護者から問診を行い、近時記憶障害のあることを確認します。神経学的診察も行いますが、アルツハイマー型認知症では筋力の低下、ふらつき、歩行障害などの身体障害は認められません。改訂長谷川式認知機能検査、Mini Mental State Examination(MMSE(エムエムエスイー))などの簡易認知機能検査で認知機能の状態をスクリーニング(ふるい分けの検査)します。画像検査ではMRIやCTでアルツハイマー型認知症に特徴的な脳の萎縮(いしゅく)がないかを確認します。脳血流検査(SPECT(スペクト))では、脳の萎縮が生じる前からアルツハイマー型認知症で特徴的に低下する部位を特定します。この脳血流検査(SPECT)はアルツハイマー型認知症の早期診断を行うために重要な検査です。

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通常は以上の問診、診察、血液検査、画像検査でアルツハイマー型認知症の診断をしますが、比較的若年の患者さんには、体に負担のかかる腰椎穿刺(ようついせんし)を実施し、脳脊髄液(のうせきずいえき)の成分を詳しく調べ、診断の正確さをより向上させることもあります。

血管性認知症の症状と診断

血管性認知症は脳血管障害(脳梗塞(のうこうそく)、脳出血、くも膜下出血(まくかしゅっけつ))に続いて起こる認知症で、近時記憶障害よりも遂行機能障害(論理的に考え、計画し、結果を予測し、行動するなどの障害)が主な症状になります。画像検査では脳血管病変を認め、神経学的診察では歩行障害などの身体障害を伴うことが少なくありません。血管性認知症では脳血管障害の危険因子である高血圧、糖尿病、脂質異常症(ししついじょうしょう)、心房細動(しんぼうさいどう)、肥満などの生活習慣病を適切に治療することが、発症予防につながります。

レビー小体型認知症の症状と診断

レビー小体型認知症の場合は、初期段階には記憶障害が目立ちません。認知機能の変動、繰り返す幻視(げんし)、パーキンソン症状(動作が遅くなる、手がふるえる、手足が固くなるなど)の現れることが特徴です。さらに起立したら血圧が下がる(起立性低血圧)、排尿困難、尿失禁などの自律神経障害を認めるのもアルツハイマー型認知症との違いです。脳の画像検査に加えて心臓シンチグラフィーを実施して心臓自律神経の障害を確認することも診断の助けになります。

以上の3疾患のケースが多く、かかりつけ医によって診断、治療が行われますが、進行が速い場合や発症が若い(50歳以下)場合には専門医受診をお勧めします。

認知症の治療

認知症の症状は、認知症状と行動・心理症状に分けられます。認知症状としては記憶障害、遂行機能障害、失語、失行、失認などがあります。行動・心理症状には幻覚、妄想(もうそう)、徘徊(はいかい)、不安、焦燥、うつ、暴言、暴力、介護拒否などがあります(図2)。この認知症状と行動・心理症状はそれぞれ影響しあいますが、症状に合った薬物治療、非薬物治療を行います。

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図2 認知症の症状

認知症状に対する薬物療法は内服薬と貼付剤(ちょうふざい)があり、非薬物療法には行動療法、回想法、現実見当識訓練法、音楽療法、運動療法、ペットセラピー、アロマセラピーなどがあります。行動・心理症状では、それぞれの症状に応じた薬物治療を行うことが多いのですが、症状が現れる誘因になった身体合併症、薬剤、環境の変化などを確認し、それぞれに対応する必要があります。

更新:2022.03.04