小児期に手術を受けて成人になった患者さんの治療 成人の先天性心臓病
徳島大学病院
心臓血管外科
徳島県徳島市蔵本町

小児期の治療の進歩によって、先天性心臓病患者さんの9割以上が成人期(18歳以上)に達するようになり、近年、成人の先天性心臓病患者数が急増しています。健診や診断技術の進歩で未治療のまま成人を迎えた先天性心臓病の患者さんは少なくなりました。しかし、いまだに高齢になって発見される場合もあり、小児期に手術(心内修復術)を受けていても、術前の病変が残存(遺残症)していたり、術後に新たな問題(続発症)を生じたりすることもあります。
成人先天性心疾患の種類と問題点
成人期に問題となる先天性心臓病の代表的なものを「表」に示します。心房中隔欠損症(しんぼうちゅうかくけっそんしょう)や心室中隔欠損症のような単純な心疾患の場合、小児期の適当な時期に手術を受けていれば、成人になって大きな問題が生じることはほとんどありません。

一方、ファロー四徴症(しちょうしょう)や完全大血管転位症、フォンタン手術を受けた単心室症などのような複雑な心疾患の場合、小児期は順調に経過した方でも成人になって年齢を重ねると遺残病変や心不全、不整脈などの続発症を生じる場合があり、近年、大きな問題となっています。
当科における成人先天性心疾患
当科では、この30年間で成人期に手術を行った先天性心疾患の患者さんは約100人を数えます。このうち、未治療の心房中隔欠損症が約6割を占めるものの、今後はファロー四徴症や単心室疾患のような、さまざまな複雑心奇形の遺残・続発症の増加が考えられ、次に述べるような手術治療が行われています。
成人期に達したファロー四徴症
多くの症例が、小児期までに最終手術として心室中隔欠損閉鎖と右室流出路再建が行われていますが、成人期になると易疲労感(いひろうかん)(疲れやすい)や息切れ、動悸(どうき)などの症状が現れることがあります。再建した右室流出路や肺動脈の再狭窄(さいきょうさく)や肺動脈弁の逆流などが原因となり、右心室や右心房に負荷がかかって右心不全や頻脈性不整脈を生じるためです。
この場合、右心室機能が損なわれないうちに治療をすることが重要で、心エコー検査や心カテーテル検査により右室容量や右室圧が一定の基準を超えた場合は、症状が軽い場合でも手術を含めた早期治療を勧めています。右室流出路や肺動脈の狭窄は、カテーテルによる治療(バルーン拡張術)をまず試みますが、効果が不十分な場合は手術による狭窄解除が必要です。肺動脈弁逆流は、手術で人工弁(生体弁)による弁置換が必要になります。
ただ、若年者は置換弁の耐久性が問題となったり、挙児希望の女性の場合は人工弁のワーファリンによる抗凝固療法を避けることが求められます。
当科は、このような若年者には長期の弁機能維持が期待されるバルサルバ洞とGore-Tex(ゴアーテックス)弁付きの人工血管(京都府立医科大学から提供)を用いることで、より良い術後のQOL(生活の質)をめざしています。
単心室疾患におけるフォンタン手術後の問題点
フォンタン手術とは、血液を送り出す心室が一つしかない単心室疾患群において、上・下大静脈を直接肺動脈につなぐ機能的な根治術です。この手術のおかげで、以前は修復不能と考えられていた複雑心奇形の生命予後は格段に向上しました。しかし、術後の体静脈圧が高いことなどから成人期に不整脈や蛋白漏出性胃腸症(たんぱくろうしゅつせいいちょうしょう)、肺動静脈瘻(はいどうじょうみゃくろう)、肝硬変などの合併症や続発症が問題となっています。
私たちは、これらの問題を減らすためフォンタン術式の改良を行ってきており、現在では心外導管を使った上下大静脈肺動脈吻合法(ふんごうほう)(TCPC法)を主として行うようになりました(図)。この術式により不整脈の原因となる心房に対する負荷の軽減と、よりスムーズな血液循環、遺残チアノーゼの減少で、合併症や続発症の軽減につながることが期待されます。また、TCPC法以前のフォンタン手術を受けている患者さんに前記の症状が現れた場合は、術式を心外導管を使ったTCPC法へ変換することがあります。

当院での成人先天性心疾患に対する診療体勢
先天性心疾患では特有の解剖学的・血行動態的問題があるため、治療にあたって、それらに対する理解と経験が必要になります。当院は、小児循環器内科を中心に、成人循環器内科と心臓血管外科が診断から治療まで綿密な連携を取って診療にあたっています。
更新:2022.03.04