透析療法ともう一つの選択肢、腎移植 慢性腎不全
徳島大学病院
泌尿器科
徳島県徳島市蔵本町

慢性腎不全の治療は透析療法か腎移植
我が国の慢性腎臓病、慢性腎不全の患者さんは年々増加しています。2013(平成25)年12月時点で、透析療法を受けている患者さんは30万人を超えています。高齢化や糖尿病の増加に伴い、今後も増えることが予想されます。
慢性腎不全の治療法には、透析療法(血液透析、腹膜透析)と腎移植(献腎移植、生体腎移植)があります。透析療法では、体内に蓄積される尿毒素や水分の除去は可能です。が、長期間の透析で、透析アミロイドーシス、腎性骨異栄養症、副甲状腺機能亢進症(ふくこうじょうせんきのうこうしんしょう)、動脈硬化といった不可逆的な合併症は避けられません。
その点で腎移植は慢性腎不全に対する治療法としては理想的と言えます。継続的な少量の免疫抑制剤の服用は必要ですが、健常者と同様の生活が送れます。移植した腎臓の働きで造血・骨代謝に関連した内分泌作用も改善します。
しかし、日本での慢性腎不全の治療をみてみますと、圧倒的に血液透析が多く、腎移植はようやく年間1000例を超えたに過ぎません。原因の一つは、日本では脳死下・心停止下での献腎提供数が、欧米に比べて少ないことが挙げられます。
このため日本での腎移植は、生体腎移植が9割、献腎移植が1割と、生体腎移植が大きな比率を占めています。もう一つの原因は、腎移植に関する情報が、医療者以外の一般の人に十分広がっていないことが挙げられるのではないでしょうか。
生体腎移植に関するさまざまな疑問
Q.血液型が違うので腎移植はできない?
生体腎移植の場合、手術前にさまざまな準備ができます。血液型が異なっても、移植前に血液型に関係する抗体を除去または産生(さんせい)を抑制(よくせい)することで安全に腎移植が可能になります。
Q.腎臓を提供してもらったら、提供者(ドナー)自身の健康が低下してしまうのでは?
ドナーの適応については、移植に際し慎重に検討します。既に腎機能に余力がなく、提供すると著しく腎機能が低下してしまう場合は、事前の検査で判別し適応外とします。そのほか腎臓以外の臓器の状態、がんや感染症の有無などさまざまな基準から、ドナーに健康被害が出ないように、十分注意して適応を判断しています。
Q.ドナーは誰でも良い?
生体腎ドナーは、6親等内の血族、配偶者および3親等内となっています。親子間での生体腎移植以外に、最近では夫婦間での腎移植も増えています。
Q.腎移植はいつするのが良い?
腎移植を行う時期に決まりはありません。ただ、透析療法開始から早期に移植を行う方が、長期透析合併症を回避する意味でも勧められます。また近年、慢性腎不全末期になってしまった時点で、透析療法を経ずに行う腎移植(プリエンプティブ腎移植)も徐々に増えています。

ドナー腎採取術と腎移植術
健常者であるドナーの手術は、できるだけ低侵襲(体への負担が少ない)でなければなりません。従って腎採取術は、開腹手術ではなく、小さな穴を数か所開けて行う体腔鏡下手術(たいくうきょうかしゅじゅつ)で行っています。皮膚・筋肉を大きく切って開腹しないので、術後の痛みが軽く、体力が早く回復します。
一方、腎臓を移植する患者さん(レシピエント)は、開腹手術で行います。通常、自分の腎臓はそのままで、提供してもらった腎臓を新たに下腹部に移植します。生体腎移植の場合は、移植した直後から腎臓が働きだし、ほとんどの方が術後からは透析療法を全く行わず腎機能が改善していきます。移植治療に特有の拒絶反応や術後感染症は注意が必要ですが、現在は免疫抑制剤の進歩によって、治療成績は非常に良くなっています。
腎移植に関する情報不足から、なんとなく「腎移植は大変な治療」というイメージが強く、敬遠されている慢性腎不全の患者さんや、ご家族に少しでも腎移植について理解していただき、透析療法ともう一つの選択肢として、腎移植が身近なものになればと思います。

更新:2022.03.04