最新の集学的治療に取り組む 膵腫瘍

徳島大学病院

消化器・移植外科

徳島県徳島市蔵本町

膵がんは難治性の高いがんの一つ

膵腫瘍には浸潤性膵管(しんじゅんせいすいかん)がん(一般的な膵がん)以外にも膵管内粘液産生性腫瘍や粘液性(漿液性(しょうえきせい))嚢胞腫瘍(のうほうしゅよう)、内分泌腫瘍などがあり、それらの頻度は増加しています。

一般的な膵がんは年間約3万2000人が罹患(りかん)しますが、そのうち9割近くの患者さんが亡くなっている最も難治性の高いがんの一つです(死亡数男性5位、女性4位)。治療法は外科治療、化学療法(抗がん剤)、放射線療法の3つがあります。外科治療が最も有効な治療法とされていますが、肝、肺転移や隣接する血管を巻き込んで切り取れないほど進行して切除できない患者さんも6割以上に認められます。

また切除できても再発する可能性が高く、外科切除を行った患者さんの2年生存率は37%となっています。さらに切除適応でない患者さんには化学療法や放射線療法を行いますが、2年生存率は7%と低下します。

このような悪性度の高いがんには、外科治療だけでなく化学療法や放射線療法を組み合わせた「集学的治療」が必要です。

また、そのほかの腫瘍は通常は良性で発見されることが多いのですが、診断が遅れると悪性に変化するケースもあります。良性腫瘍には、でるだけ患者さんの負担を軽減した治療(低侵襲治療)が望ましく、腹腔鏡手術(ふくくうきょうしゅじゅつ)で治療します。

当院での膵腫瘍の手術数は年々増加しており、全国でも症例数の比較的多いハイボリュームセンター(多数例を手術する施設)です(図1)。また肝胆膵高度技能指導医1人、専門医3人を配し、それらすべてを組み合わせた治療法によって、膵腫瘍に対する治療成績の向上をめざしています(図2)。

グラフ
図1 当院の膵切除術の推移
フローチャート
図2 当院の膵腫瘍に対する治療

膵腫瘍に対する外科治療

膵がんの外科治療を中心とした集学的治療

膵周囲の解剖について「図3」に示します。一般的に肝、肺転移や主要な動脈(特に固有肝動脈〜腹腔動脈や上腸間膜動脈)に浸潤がある場合には外科治療以外の治療法を選択します。膵がんは周囲リンパ節転移や動脈周囲を取り巻く神経叢(しんけいそう)に浸潤しやすいことから、がんの取り残しがないようにがんを含めた膵臓とともに周囲リンパ節・神経叢を開腹手術で切除します。また膵がんのできる部位によって手術方法が異なります。

イラスト
図3 膵周囲の解剖

膵頭部にがんがある場合は、膵頭部とともに十二指腸(胃の一部を含む)・胆管・胆嚢(たんのう)を含めて切除します。門脈にがんの浸潤がある場合は、合併切除して再建します。切除後には膵臓・胆管・消化管(胃や小腸)の再建が必要になります。膵体尾部(すいたいびぶ)にがんがある場合は、膵体尾部とともに脾臓(ひぞう)(脾静脈を含む)も切除します。この場合は消化管の再建を必要としません。

さらに膵がんは再発する可能性が高いことから、再発予防のため約半年間抗がん剤を投与します。これまでゲムシタビンの静脈注射が推奨されていましたが、最近では、S-1という内服薬(錠剤)の治療によって、さらに2年再発率を約20%も抑えることが報告されています。当院でも膵がんには積極的に外科治療を導入するとともに、術後抗がん剤を併用した集学的治療を行っています。

膵良性腫瘍の腹腔鏡手術

当院では、できるだけ低侵襲を心掛けた手術をめざすために、特に膵体尾部に腫瘍がある場合は、腹腔鏡手術を積極的に導入しています。腫瘍が比較的大きい場合は膵がんと同じ、腹腔鏡下に膵体尾部とともに脾臓も摘出しますが、それほど大きくなく、重要な血管に接していない場合は、脾臓や脾静脈を温存します。

開腹手術と比べて手術の傷も小さく(図4)、臓器も温存できることから、患者さんの負担軽減につながります。また再発予防のための抗がん剤を使用する必要はありません。

イラスト
図4 開腹手術と腹腔鏡手術の創の違い

膵がんに対する化学療法、放射線療法

切除が適さない患者さんの治療法は大きく分けて、抗がん剤による化学療法や抗がん剤との併用による化学放射線治療が推奨されています。

化学療法はこれまでゲムシタビン静脈注射とS-1内服治療だけしか有効な治療法として確立されておらず、それぞれ単剤による効果は1~2割の患者さんにしかみられていませんでした。

2013(平成25)年末からはオキサリプラチン・イリノテカン・5-FUによる複数の抗がん剤を併用したFOLFINOX(フォルフィリノックス)療法が開発され、4割近い患者さんに効果が得られるようになりました。さらに2014年末にはゲムシタビン・新規パクリタキセル製剤による併用療法が承認され同様の効果を得ています。当院でもいち早く、これらの治療法を積極的に行っています。化学放射線療法は肝転移などを認めず、周囲血管のみにがんが浸潤する場合に行います。

これまで切除適応とならない膵がんに対する治療法は限られていましたが、最近になって、選択肢が増えています。患者さんのがんの状況に応じて、これらの治療法を選択することが可能になるとともに、切除適応でないと診断された場合でも化学療法などの効果でがんが小さくなれば手術ができるようになります。

更新:2022.03.04