高度な内視鏡手術PED法で治療 腰痛

徳島大学病院

整形外科

徳島県徳島市蔵本町

日本人の受診理由の第1位は腰痛です。日本人の80%は生涯に一度は腰痛を経験するといわれ、国民病ともいえます。代表的疾患として、青壮年期腰痛の主な原因である腰椎椎間板(ようついついかんばん)ヘルニア、そして中高齢の腰痛に多い腰部脊柱管狭窄症(ようぶせきちゅうかんきょうさくしょう)が挙げられます。これらの疾患に対する当院の内視鏡治療を紹介します。

腰椎椎間板ヘルニア――国内有数の内視鏡手術

1996(平成8)年頃からヘルニア治療として内視鏡の応用が始まりました。1998年にMicroendoscopic Discectomy(MED法)が日本に上陸し、急速に広まりました。当院では2000年以降MED法を行っていますが、全身麻酔で約2cmの切開を要しました。その後、内視鏡手術はさらに進化し、2002年米国で経皮的・内視鏡手術(Percutaneous Endoscopic Discectomy:PED法)が始まり、2003年に日本に上陸しました。

PED法は局所麻酔で8mm切開と、MED法よりさらに低侵襲(体に負担の少ない)であり、当院では2013年12月からPED法を開始しました。現在、日本整形外科学会で、経皮的内視鏡PED手術の技術認定医は18人で、非常に高度な技術を必要とします。

一般的なPED法では、後外側より進入します。「写真1」の症例は、数年前に椎間板ヘルニアを発症し、他院で従来の方法でヘルニア手術を受けて、正中(体の左右の真ん中のライン)に7cmの大きい切開創がみられます。同部位に再発したため、局所麻酔のPED法が行われました。PED法の皮切(切開)は8mm、正中(体の左右の真ん中のライン)から8~10cm外側です。「写真2」のような金属性のカニュラをヘルニア近くに挿入し、摘出します。一塊として摘出できることもあります(写真2)。

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写真1 従来法とPED法の切開部の比較
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写真2 一塊として摘出されたヘルニア

この手術は局所麻酔で、術後2時間から歩行でき、県内の方の場合は翌日退院も可能です。県外の患者さんの場合は、術後2~3日間経過観察入院する場合もあります。職場復帰は、デスクワークであれば退院後には可能であり、軽作業だと術後4~5日で職場復帰しているケースもあります。重労働やスポーツ復帰は6~8週間後で、背筋への侵襲も小さく、スポーツ選手のヘルニア手術にはきわめて適しています。

2014年は、徳島県内だけではなく、北海道や千葉、神奈川、愛知、大阪、和歌山、岡山、島根、香川など他府県からトップアスリートが当院でPED法を受けています。「写真3」は椎間板ヘルニアに対して、PED法手術を行ったハンドボール日本代表選手の術前後のMRI画像です。

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写真3 PED術前後のMRI

腰部脊柱管狭窄症――高齢者にやさしい手術

腰部脊柱管狭窄症は、人生50年と言われていたころ、ほとんど問題となることはなかった疾患ですが、高齢化社会とともに注目されてきた疾患です。60歳以上に多くみられます。

腰部脊柱管狭窄症患者のMRIを示します(写真4)。腰部脊柱管が加齢とともに狭窄し、右のように脊髄神経を強く圧迫します。症状としては、下肢痛(かしつう)、腰痛、下肢のしびれなどに加え、間欠性跛行(かんけつせいはこう)という特徴的症状が生じます。間欠性跛行とは、歩行開始では下肢のしびれは少ないが、歩行とともにしびれが増強し立ち止まるというものです。その際、背中を丸くする円背(えんぱい)姿勢をとると、しびれも軽減し、再び歩行を開始できます。

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写真4 腰部脊柱管狭窄症患者のMRI

日常生活に支障が及ぶ場合、手術が必要とされ、当院では、脊椎内視鏡MED法を使用した片側進入両側除圧手術を行い、全身麻酔で約1横指(2㎝)の皮膚切開で脊椎内視鏡(写真5)を使用します。小さい皮膚切開で、背筋群の剥離(はくり)も少なく、高齢者にもやさしい術式です。「写真6」のように除圧後、左右の神経根と中央の硬膜管除圧が確認されます。術後、ドレーン(誘導管)を留置し、血腫(けっしゅ)による合併症を予防します。

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写真5 内視鏡使用での片側進入両側除圧術
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写真6 片側から両側の神経根が除圧可能

基本的には術後48時間留置します。術後翌日から離床できますが、積極的な歩行開始は、ドレーン抜去後が望ましいです。「写真7」の89歳の男性は、後方除圧によって、農業に復帰しました。円背とならず良い姿勢での歩行が可能となり、間欠性跛行も消失しました。

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写真7 89歳男性 術前後のMRI

腰痛治療における内視鏡手術を解説しました。早期社会復帰が可能な、体にやさしい術式です。

更新:2022.03.04