内視鏡で体にやさしい手術 関節の痛み
徳島大学病院
整形外科
徳島県徳島市蔵本町

小さな傷で治す内視鏡
膝(ひざ)が痛くて歩きにくい、肩が痛くて腕が上がらない、また肘(ひじ)や足首の痛みでスポーツに支障を感じている人はいませんか?整形外科には、こうした症状で悩んでいる多くの患者さんが受診します。大半の患者さんは薬や注射、リハビリテーションによって症状が良くなってきてはいるものの、すっきりと良くならない人もいます。良くならない人には手術を勧めますが、できれば大掛かりな手術はしたくないと思われるのではないでしょうか。
内視鏡は、こうした要望に応える手術法です。例えば、最もよく行われる膝では、「写真1」に示すように1㎝程度の切開を3か所加えることで行えます。切開を加えたところから内視鏡と切除・縫合といった処置をする器具を挿入します。内視鏡は関節の内部を拡大して観察できるので、関節の隙間や奥の方に関しては、大きく切開する手術よりも優れています。「写真2」は肘の関節の隙間にある小さな遊離体(ネズミとも呼びます)ですが、内視鏡を使うと簡単に見つけることができます。さらに筋肉を傷つけることが少ないので、術後の痛みも軽く、リハビリテーションも早く進めることができます。最近はQOL(生活の質)を高めたいと願う中高年が増えていること、東京オリンピックに向けてスポーツ熱が高まっていることもあって、内視鏡治療の対象となる患者さんが増えています。


内視鏡手術の適応
内視鏡手術の長所はご理解いただけたと思います。次に、特にどのような患者さんに勧められるのか説明します。X線などの検査で骨や関節の形が比較的保たれ、傷んでいる所がピンポイントである患者さんが最も良い適応になります。手術前に薬や注射、リハビリテーションを十分に行った上で決定すべきであることは言うまでもありません。ただ、早期のスポーツあるいは職場への復帰を強く希望される場合は、時期を逸さず早急に手術を受けることを勧めています。既に関節が著しく傷んだ患者さんの場合は、人工関節など、ほかの手術を勧めます。こうした判断は患者さん自身ができるものではなく、専門医の診断が必要ですから、気になる方は、ぜひ整形外科を受診してください。
内視鏡手術の実際――国内有数の肘の手術
内視鏡手術は処置内容によって異なりますが、多くは1~2時間で終了します。実際の処置内容について説明します。
まずは膝の半月板です。「写真3」は痛みによって膝の曲げ伸ばしに制限があり、階段昇降ができなくなった症例です。内視鏡で観察すると半月板が断裂して、関節の中ではさまれていました。はさまれた部分を切除することで、痛みは消失し日常生活にも支障を感じなくなりました。半月板は本来重要な役割を担っていて、残せるものなら残したい組織です。従って、若年のスポーツ選手たちの場合は、半月板を元の位置に戻して縫い合わせています。こうした切除や縫合といった処置は股関節や肩でも行っています。

次は靭帯です。スポーツ選手は膝の靭帯を痛めることが多く、痛めた場合にはスポーツ活動が著しく制限されます。元のレベルへの復帰をめざすなら靭帯の再建術が勧められます。再建術は太ももとすねの骨に穴を開けて、自分の腱を移植するのですが、正確な穴を開けるには内視鏡を使わなければなりません。「写真4」は実際に再建された靭帯です。靭帯再建術を受けられた患者さんの大半は、術後10か月程度で元のスポーツレベルに復帰しています。

特殊な内視鏡手術に肘の手術があります。肘の内視鏡手術は熟練を要し、国内でも行える施設が限られていますが、当院は豊富な手術実績があります。多くは野球、ソフトボール、テニスや柔道など肘をよく使うスポーツ選手ですが、慢性的な痛みを抱えている一般の方々にも適応されます。肘では縫合したり再建したりといった複雑な処置内容はなく、もっぱら傷んだ部分のクリーニングを行います。先にも述べたように、小さな切開で関節の奥までしっかり観察し、痛みの原因となっている部分を確定し、状況に応じた処置を行っています。「写真5」は剥(は)がれかかった軟骨によって痛みが生じて、ボールを投げられなくなった野球選手で、内視鏡で切除し無事、野球への復帰を果たしました。

当院では、肩、肘、股、膝、足関節など、運動器にかかわる主な関節の疾患に対し、内視鏡での体にやさしい手術治療を心掛けています。関節の痛みで困っている方は、ぜひ受診してください。
更新:2022.03.04