原発性脳腫瘍と転移性脳腫瘍の2つのタイプ 脳腫瘍

徳島大学病院

脳神経外科

徳島県徳島市蔵本町

脳腫瘍は基本的に脳組織から発生する原発性脳腫瘍と、ほかの臓器(肺や大腸など)から脳に転移してきた転移性脳腫瘍に分けられます。原発性脳腫瘍の中で最も多いのが神経膠腫(しんけいこうしゅ)(グリオーマ)25%、髄膜腫(ずいまくしゅ)(メニンジオーマ)25%、下垂体腺腫(かすいたいせんしゅ)17%、神経鞘腫(しんけいしょうしゅ)11%となっています。原発性脳腫瘍は小児期から高齢者まで、すべての年齢で発生します。

神経膠腫(グリオーマ)

神経膠腫は脳に発生する悪性脳腫瘍の代表例です。一般に、この腫瘍は正常脳組織内に染み込むように発育していきます(「浸潤性」に発育)。このため腫瘍の中心部から離れた部位では、正常組織との境界が不鮮明になり、外科手術ですべてを摘出することは困難です。

当科では、正常脳組織をできるだけ温存し、腫瘍をできるだけ切除する目的で、ナビゲーションシステムを導入しています(写真1)。車のナビゲーションと同じで、手術中に今、切除している部位が、術前に撮影した画像のどの部位になるかがテレビモニター上で分かるため、運動神経などを温存しながら、腫瘍を最大限に摘出できます。

写真
写真1 ナビゲーションシステム

また、5-アミノレブリン酸(5-Ara)という脳腫瘍に取り込まれる蛍光色素と専用の手術顕微鏡を使って、腫瘍を光らせて、切除しています(写真2)。手術ナビゲーションと蛍光色素を使うことで、悪性脳腫瘍の摘出率は上昇しています。術後は放射線治療と抗がん剤治療が必要な場合もあります。

写真
写真2 蛍光色素と専用の手術顕微鏡を使った手術

髄膜腫(メニンジオーマ)

髄膜腫は良性脳腫瘍の代表例です。髄膜は脳を覆っている膜の総称、従って髄膜腫はどこでも発生します。通常は、脳実質を圧迫する形で発育し、脳との境界は明瞭で、発育も非常に緩やかです。50~60歳代をピークとした成人に発生しやすく、女性の方が男性より発生率が2倍高いといわれています。90%以上が良性ですが、悪性髄膜腫も少ないながらあります。最近では、CTやMRIが普及したこともあり無症状の髄膜腫が発見されることも多くなっています。

無症状で、小さな髄膜腫は手術せずに経過観察しますが、症状がある場合は治療の必要性があります。基本的には全摘出で治癒が期待できます。当科では、手術で腫瘍を摘出するときには、手や足に電極を付けて、脳の運動野を電気刺激することで運動神経を保護できる術中モニタリングを行い、安全に髄膜腫の摘出を行っています。

下垂体腺腫

下垂体腺腫とは脳下垂体にできる脳腫瘍です。脳下垂体は頭蓋骨(ずがいこつ)の底部のトルコ鞍(あん)という1cm程度の骨の凹みにある組織で、体のホルモンの調整をしています。下垂体腺腫はそのほとんどが良性で、発育速度は遅く、脳以外への転移は極めて珍しいものです。小児に発生することは極めて少なく、髄膜腫同様に成人に発生する脳腫瘍の代表例です。

下垂体腺腫は、ホルモンを産生する腺腫(ホルモン産生腺腫)とホルモンを産生しない腺腫(ホルモン非産生腺腫)に分類できます。両者の比率は50%対50%です。昔は頭蓋骨を開ける開頭手術で摘出していましたが、現在では特殊な症例を除いて、ほとんどで蝶形骨洞(ちょうけいこつどう)という鼻を経由する方法で手術しています。

この方法はハーディ法といい安全性が高く、トルコ鞍内の腫瘍を確実に摘出でき、侵襲も少ない方法です。最近では、視認性に優れた神経内視鏡を使って腫瘍摘出を行い、さらに安全で摘出度が向上しています。

定位的脳腫瘍生検術

脳腫瘍が発見され、脳組織の深い場所や、切除することによって話すことができなくなったり、手足の麻痺(まひ)が現れたりするような非常に大事な部分に腫瘍がある場合、当科では、レクセル式定位脳手術装置(写真3)を使って、腫瘍の組織診断を行っています。コンピューターで計算された座標に、正確に針を誘導できるので、大事な部分にダメージを与えず、腫瘍組織の一部を正確に摘出でき、病理診断できます。

写真
写真3 レクセル式定位脳手術装置

更新:2022.03.04