脳神経の変性で起こる疾患 不随意運動症(パーキンソン病・ジストニア)
徳島大学病院
脳神経外科
徳島県徳島市蔵本町

脳の働きと脳深部刺激療法
「不随意運動症」という言葉をお聞きになったことがありますか?不随意運動症とは麻痺(まひ)などがないにもかかわらず、意図した運動がうまくできなくなる(震える、足がすくむ、筋肉が緊張する)状態で、パーキンソン病や本態性振戦(ふるえ)、ジストニアなどの疾患が含まれます。脳では運動や行動をコントロールするため、体の働きに関するたくさんの情報が電気信号によって細胞から細胞へと伝えられています。不随意運動症はこれらのうち、幾つかの情報が正しく伝わっていないために起こります。特に、大脳基底核と呼ばれる脳深部の神経核の異常と関連が深いことが分かっています。
難治性のパーキンソン病や本態性振戦、ジストニアなどの不随意運動症に対する治療法として脳深部刺激療法(Deep Brain Stimulation:DBS)という外科治療が近年注目を浴びています(表)。DBS療法は、この大脳基底核の特定の部位に電極を挿入して、心臓のペースメーカーとよく似た刺激バッテリーを胸部に埋め込み、持続的に脳を刺激することで神経活動を調整する治療法です(図1、2)。DBS療法は体外から刺激条件を調節することで、症状の進行や刺激の副作用に対応して刺激を変えることが可能です(調節性:図3)。また脳を破壊しないため刺激を中止すれば、ほぼ元の状態に戻すことができます(可逆性)。皮膚感染やバッテリー交換を要するなどのデメリットもあり、手術適応の決定には内科と外科の専門家の連携と、慎重な判断が必要です。




適応について
どのような不随意運動症でも、まず初めに薬物治療を行いますが、薬の効果が思うように得られなかったり、副作用が強い場合には外科手術を行うことも治療の選択肢の一つとして挙げられます。手術が最もよく行われるのはパーキンソン病です。パーキンソン病に対するDBS療法は20年以上の歴史があり、これまでに世界中で10万人以上の患者さんがDBS療法を行い、高い評価を受けています。日本では2000(平成12)年から保険適用となり、これまでに8000人以上が治療を受けています。DBSが考慮されるのは①十分な薬物治療を行っても、症状の日内変動(ウェアリング・オフやオン・オフ現象)が大きい場合②薬物誘発性の不随意運動(ジスキネジア)のために、うまく体がコントロールできない場合③薬物でコントロール困難な強い振戦がある場合④薬の副作用(精神症状、消化器症状)が強く薬物治療が困難な場合、などです。一般に若年者で、薬物(L-ドーパ)に対する反応が良好な患者さんほど高い手術効果が期待できます。重度の認知症やそのほかの精神疾患を合併した例では、期待できないため適応外となります。

治療効果――国内有数の症例数
一般的にパーキンソン病の場合、運動機能が手術前に比べて60~70%程度改善します。パーキンソン病に対するDBS療法の刺激部位として、現在、最も選択されているのは大脳基底核の一つである視床下核(ししょうかかく)という場所ですが、ここを刺激した場合、術後の抗パーキンソン病薬の減量が可能となります。従って、術前に薬物の副作用があった場合には薬物減量によって、それを軽減することもできます。しかし、その一方で術後の体重増加や情動異常(抑うつ症、躁症状(そうしょうじょう))なども報告されています。DBS療法の効果は5年以上は持続することが明らかになっていますが、無動や姿勢保持障害は次第に悪化していくことが分かっています。
ジストニアに対する治療に関して、当院は国内でも有数の症例数を誇っています。これまでに約70例のジストニア患者さんにDBS治療を行い、平均的な症状改善度は60%と良好な結果を上げています。
ひとつ強調しておかなければならないことは、DBS療法は症状を軽減させるものであり、不随意運動症そのものを治す治療ではないと言うことです。従って、手術後も薬物治療を継続することが必要で、DBS療法との「二人三脚治療」となります。薬物治療を主に行っている神経内科医と私たち脳神経外科医が共同で治療をすることが大切です。
当院は神経内科と当科が協力して治療をする体制を整え、不随意運動症の治療に良い環境です。不随意運動症と診断されて数年が経過し、薬の効果が持続されなくなったため生活に支障がきたされている方は、当科もしくは神経内科の専門医に相談することをお勧めします。
更新:2022.03.04