強迫性障害の治療 強迫性障害

徳島大学病院

精神科神経科・心身症科

徳島県徳島市蔵本町

強迫観念と強迫行為

強迫性障害は、過剰な不安が自分の意志に反して繰り返し浮かび、それを打ち消すための行為を繰り返し行ってしまう疾患です。汚れが付いているのではないかと不安になり、手洗いや拭き掃除を繰り返す、自分の不注意で事故が起きるのではないかと不安になり、ガスの元栓やかぎを何度も確認するというのが典型的な症状です。物の位置が左右対称でないと気になって並べ替えを繰り返す、大切なものを捨ててしまうのが心配で、何も捨てられずに溜(た)め込んでしまうという病型もあります。

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汚れがついているのではないかと不安になり、手洗いや拭き掃除を繰り返す
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ガスの元栓やカギを何度も確認する

このしつこく浮かぶ嫌な考えを「強迫観念」、不安を打ち消そうとして繰り返す行為を「強迫行為」と呼びます。ほとんどの患者さんは、自分の強迫観念をばかばかしいものと分かっているのに、強迫行為をやめることができないのです。最近の調査によると、強迫性障害の有病率は2~3%で、10歳代から20歳代の思春期青年期に発症することが多いといわれています。

強迫性障害の原因

以前は、心理的なストレスや環境の影響が大きく、治りにくい疾患といわれていました。1980年代中頃からセロトニンという脳内伝達物質の再取り込み阻害作用の強い抗うつ薬が、強迫性障害に効果的だということが知られるようになり、また、脳の代謝や血流の研究から、患者さんの脳では特定の部位に異常が起きていることが疑われるようになりました。最近では、強迫性障害の患者さんの脳では、神経伝達物質の働き方に変化が起きていると推定されています。

そうした変化を起こしやすい遺伝的体質とストレスなどの環境要因が複雑に関与して発症するものと考えられ、何が原因なのか特定することはできません。患者さんの中には、親の育て方や学校でのストレスが原因ではないかと思っている方がいますが、それは多々ある要因の一つに過ぎません。原因をあれこれ考えるよりも、脳の機能に起こっている変化を正常に戻すことを第一に考えて、治療をすることを勧めています。

詳しい問診による診断

繰り返し浮かんでくる強迫観念を不快なものと感じて、ばかばかしいと分かっていても強迫行為をやめられない。こうした自我違和感が強迫性障害の特徴です。しかし、子どもの場合は、この自我違和感があいまいなことが多く、症状の本質が何であるかをよく見定めないと、診断を誤ったり、過剰な診断をしてしまったりすることがあります。

例えば、正常な発達過程でも幼児には儀式的なルール、限局したこだわりや収集癖などがみられることがあります。発達障害や統合失調症でも繰り返し行為がみられることがあります。初診時には、時間をかけて詳しい問診を行い慎重に診断を行います。

SSRIと認知行動療法による治療

選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)という副作用の少ない抗うつ薬を適切に使うことで、多くの強迫性障害の患者さんに改善がみられるようになってきました。現在、日本で販売されているSSRIは4種類。そのうちパロキセチンとフルボキサミンは強迫性障害の保険が適用されます。

SSRIを強迫性障害に使用するときは、うつ病に使うときよりも高用量が必要で、効果が現れるまでの時間も、うつ病より長くかかることから、SSRIが強迫性障害を改善する仕組みは、うつ病のときとは違うことが推定されています。

認知行動療法というトレーニングを薬物療法と並行してすることも大切だと考えられています。行動療法では、意図的に不安刺激に触れてみること(曝露(ばくろ))と、その際に生ずる不安や衝動を制御すること(反応妨害)を組み合わせた曝露反応妨害法という手法が使われます。

具体的には、強迫観念を引き起こす刺激を弱いものから強いものまであらかじめ提示してもらい、弱い刺激から順番に触れてみて強迫観念が引き起こされても、強迫行為を行わない練習を行います。

強迫性障害は、神経質や潔癖症など性格の問題とみなされて病気と認識されないこともありますが、きちんと治療すれば改善が期待できます。早めに精神科医に相談することが大切です。

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写真 精神科神経科・心身症科スタッフ

更新:2022.03.04