食物アレルギーの治療最前線 食物アレルギー

徳島大学病院

小児科

徳島県徳島市蔵本町

食べることをめざした食物アレルギー診療

食物アレルギーとは、体を守るはずの免疫システムが食べ物によって過剰に反応し、体に不利益な症状が起こることです。典型的な食物アレルギーは、原因食物を摂取して2時間以内にじんましんや咳(せき)、呼吸困難、腹痛、嘔吐(おうと)、重症例では血圧低下や意識障害といったアレルギー症状を引き起こします。

このような症状を起こさないためには、原因となる食物を食べないことが基本ですが、正しい診断に基づいて不必要に除去し過ぎないことが、栄養バランスを保つ上で大切です。

乳幼児期の食物アレルギーの三大原因は鶏卵、牛乳、小麦で、これらは成長とともに治ることが多いと考えられています。しかし、学童期までこれらの食物アレルギーが続いた場合、自然に治る確率は低くなります。鶏卵や牛乳、小麦は私たちが日頃口にする食事やお菓子にもよく使用されていることから、これらを長期間除去することは生活の質にも大きな影響を与えます。

しかし、食物アレルギーと診断された場合でも、量の調整や調理の工夫によって食べることが可能な場合があります。不要な食物除去を減らすことは、小児期の成長発達の点からも大切です。

また、アレルギーの原因食物を、腸がアレルギーを起こす物だと認識しなくなる仕組みは、口から食べることで発達することが知られています。近年、少量の原因食物をアレルギー症状なく食べられる場合には、定期的に食べる方が完全除去を続けるよりも早期に食物アレルギーが治る可能性も報告されています。

このような観点から、当科では鶏卵、牛乳、小麦で即時型反応を認める小児に対し、食べることをめざした食物アレルギー診療に積極的に取り組んでいます。

経口負荷試験が診断と治療方針決定に必須

食物アレルギーの診断のためには、何をどのくらい食べたか、食べてから症状が出るまでの時間、どんな症状が出たかなどを詳しく確認して、原因食物を推定します。

次に、原因と推定された食物の特異的IgE抗体の存在を、血液検査あるいはプリックテストという皮膚テストで調べます。ここで、特異的IgE抗体が陽性となった食物にすべてアレルギーがあるということにはならない、という点に注意が必要です。

食物アレルギーの確定診断には、原因と疑われた食物を実際に病院で少量ずつ摂取し、アレルギー症状の有無を調べる経口負荷試験が必要です。経口負荷試験は、食物アレルギーの確定診断のほかに、診断後に一定期間の除去を続けた食品の除去解除時期を決めるときにも行います。

当院では、このほかにもアレルギー症状を起こさずに食べることができる量の確認や、入園・入学の際に園や学校で食物アレルギーに対してどんな管理が必要かを調べる目的にも、経口負荷試験を行います。

経口負荷試験を基に自宅での摂取方法を計画

当院での経口負荷試験は、原則、入院して行っています。経口負荷試験で摂取する食品の量や摂取間隔は、過去のアレルギー症状が現れたときの状況や、特異的IgE抗体値などを参考にして決定します。経口負荷試験で現れたアレルギー症状を点数化して重症度を決め、経口負荷試験で最後に摂取した量と合わせて、自宅での摂取が可能かの判定や、摂取開始量の決定を行います(表)。

表
表 摂取開始量/ゆで卵白・牛乳・うどん換算
小林貴江 他.日小ア誌2013;27:179-187を一部改変

自宅では、週に3~7回のペースで決められた量を摂取し、5~10回無症状で食べることができれば、スケジュール表に沿って計画的に増量します。増量のペースや目標量は、患者さんの摂取状況やライフスタイルによって調整し、自宅で無理なく安全に摂取できるようにしています。管理栄養士による栄養指導も取り入れ、摂取可能な加工品や二次製品の紹介、調理法やレシピに関するアドバイスを行っています。

一方、除去の継続が望ましいと判断した重症例は、アレルギー症状が現れたときのアドレナリン自己注射器を含めた対応の指導や確認が大切です。年少の重症例は、定期的に経口負荷試験を行い、アレルギーが自宅で摂取を開始できる状態に改善してきたかを確認します。

学童期以降は、現在の除去レベルが日常生活に大きな支障のある場合などには、経口免疫療法という治療も考慮されます。しかし、経口免疫療法はすべての患者さんに有効ではないこと、治療中にはアレルギー症状をほぼ発症すること、長期予後が不明であることなどから、現時点ではどんな患者さんに行うべきか、慎重な判断が必要です。

更新:2022.03.04