新たな治療展開 ネフローゼ症候群

徳島大学病院

小児科

徳島県徳島市蔵本町

子どものネフローゼ症候群は、どんな病気?

腎臓は、尿(おしっこ)を作り、体に水が溜(た)まらないように調節し、老廃物(体内のゴミ)を捨てています。このとき、誤って大切なものを捨てないことも重要な仕事です。例えば、タンパク質や血液などは非常に大切ですから、腎臓から捨てない仕組みになっています。腎臓の血管は、細かな網目の篩(ふるい)になっていて、タンパクや血液は篩より大きいため、尿に漏れ出ません(厳密には、小さなタンパクは篩を通った後、体内に再び取り込まれます)。ネフローゼ症候群では、この篩の網目全体が大きくなり、大量のタンパクが尿中へ漏れ出て、体から失われてしまいます(図1)。

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図1 ネフローゼ症候群のときの腎臓の働き

タンパクは、血管に水分を保つ働きがありますが、タンパクがなくなると皮膚に水分が逃げ出して浮腫(ふしゅ)(むくみ)が生じます。同時に、尿量も減って不要な塩分も捨てられなくなり、喉(のど)が渇いて水分を取るため、浮腫に拍車がかかります(図2)。

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図2 ネフローゼ症候群の症状

なぜ、ネフローゼ症候群が起こるのかは、よく分かっていません。免疫の異常、具体的には、白血球の一種であるリンパ球(Tリンパ球やBリンパ球)が作る物質が悪影響しているとされています。また、腎臓自体に問題があって、遺伝子検査で原因が明らかになる方もまれにいます。

検査と合併症

診断には①大量のタンパク尿②血中タンパク質の濃度の低下(低アルブミン血症)を尿検査と血液検査で確認します。腎機能の評価、コレステロール、電解質などの異常、感染症の有無などの詳細な検査も行われます。腎生検は、腎臓の一部の組織を採取し顕微鏡で評価する検査法です。子どもの場合、全身麻酔が必要になることも多く、小児の腎臓専門医が担当します。子どものネフローゼ症候群の場合、後述するステロイド薬が有効か無効かによって、発病当初に腎生検を行うかを判断します。腎炎などが強く疑われる場合は、治療前に腎生検を行います。

ネフローゼ症候群の合併症で問題になるのは、感染症と血栓症です。特に、タンパクの中には免疫グロブリンという抵抗力の素が含まれているので、ネフローゼ症候群では、肺炎や胃腸炎が悪化します。重症感染症では、腹膜炎や水痘(みずぼうそう)などで命を落とすこともあります。

また、血液がどろどろの状態になりやすいため血栓症が生じやすく、水分量の調節が大切です。

ネフローゼ症候群――最新の治療

ステロイド薬を大量に毎日内服することが基本治療です。免疫、特にリンパ球の働きを抑える作用があり良く効きます。効果の差によって①ステロイド感受性②ステロイド抵抗性に分類されます。感受性の人の多くは7~10日程度でタンパク尿が消失(寛解(かんかい))します。

注意点は、多くの子どもに非常に良く効く感受性の型ですが、残念なことに、ほとんどの人が再発(タンパク尿が再出現)します。特に、頻回再発といって、最初の半年に2回、または1年に4回以上の再発が多くみられます。ステロイド薬は、肥満、高血圧、糖尿病、白内障、感染症など多くの副作用があるため、再発が多い場合、副作用が課題となります。

ステロイド薬の長期使用による副作用を回避するため、免疫抑制剤が使用されます。特に、Tリンパ球の働きを抑えるシクロスポリンは、ステロイド薬による低身長の改善に効果的です。ただ、免疫抑制剤にも感染症の悪化などの問題があり、シクロスポリンは腎障害がみられるため、長期使用ができません。

そこで、新たな治療戦略として登場したのが、リツキシマブ(商品名:リツキサン)です。リツキシマブはBリンパ球だけを体から消失させる薬です。これは、日本から世界に先駆けて確立した最新の治療法で、2014(平成26)年に保険適用になりました。Bリンパ球がなくなるので、感染症が重篤になる可能性があります。当院では、ステロイド薬を長期に使用する子どもの患者さんにリツキシマブを使用し効果を上げています。副作用の管理が重要なため、小児の腎臓専門医が慎重に経過をみます。

更新:2022.03.04