最新テクノロジーを駆使した外部放射線治療法 強度変調放射線治療

徳島大学病院

放射線治療科・口腔外科

徳島県徳島市蔵本町

治療成績の向上と副作用の減少

1990(平成2)年代以降、次々と登場したハイテク装置によって、放射線でがんを治す能力は格段に向上し、放射線治療は切らずに治すがん治療として注目されるようになってきました。放射線治療の方法の一つは、体外からエネルギーの高い放射線をがんに照射する外部放射線治療で、「リニアック」と呼ばれる装置を使って行います。

当院は最新のリニアックを3台設置し、年間に700人以上の外部放射線治療を行っています。リニアックを使った最新の外部放射線治療法に強度変調放射線治療(IMRT)があり、2008年から保険が適用されています。IMRTではコンピュータの計算に基づき空間的、時間的に不均一な放射線強度を持つビームを多方向から照射することによって(写真1)、病巣部に最適な線量分布をつくることが可能で、従来の治療と比べて腫瘍(しゅよう)の線量を増加させ正常組織の線量を低減できることから、治療成績が向上し副作用も減っています。現在、IMRTが多く適用されている疾患は脳腫瘍、耳鼻咽喉科(じびいんこうか)領域・口腔(こうくう)領域のがん、前立腺(ぜんりつせん)がんです。

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写真1 脳転移に対するIMRTの線量分布図。多発する脳転移に対しピンポイントで高い線量(赤色)が照射されている

多発するがんの脳転移にも有効

がんが脳に転移した場合、3~4か所までで3cm以下のサイズであれば、後出の定位放射線治療が有効ですが、転移の数が増えると対応できません。IMRTでは転移が多数ある場合でも「写真2」のように、がんの部分だけに線量を集中して照射することによって高い確率でがんを消すことが可能です。

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写真2 耳鼻咽喉科領域のがんに対するIMRTのコンピュータによる計画

治療は1日1回、10回/2週間までの回数で終了します。1回の治療時間は15分程度で、苦痛は全く感じませんので、高齢者や体調の悪い患者さんでも受けることが可能です。治療後は新たながんの出現や、治療部位にまれに生じる脳のダメージをチェックするため、定期的な検査が必要です。

耳鼻咽喉科領域・口腔領域のがんでは、機能温存のメリット

耳鼻咽喉科領域・口腔領域のがんの場合、がんの近くにある正常臓器の機能を損なうことなく治療することがとても重要になります。がんを治療した後でも、治療前と同じようにおしゃべりしたり食事をしたりできることが放射線治療の最大のメリットです。IMRTは、がんの近くにある唾液腺(だえきせん)への影響を軽減させることで、従来の放射線治療では不可能だった唾液分泌機能の温存も可能となり、つらい口の渇きや味覚障害などの後遺症を減らすことができるようになりました。治療は1日1回で30~35回の治療を6~7週間かけて行います。

当院では専門の歯科医によって、放射線治療で生じる口腔内の炎症などのトラブルをきちんと管理することで、さらに副作用の少ない放射線治療をめざしています。

前立腺がんでは、早期から進行がんまで適応

IMRTは、早期から局所的に進行した前立腺がんまで治療することができます。従来の外部放射線治療では、治療後に排便時の出血を生じることが20%くらいありましたが、IMRTは近くにある直腸の線量を低く抑える(写真3)ことで、出血の頻度を5%以下に抑えることが可能となりました。副作用を抑えることができるようになると、照射線量を増やせることで、がんを治せる確率も向上します。

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写真3 前立腺がんに対する線量分布図。従来の放射線治療(a)と比べ、IMRT(b)では背側にある直腸の線量が低減されている

外来通院での治療が可能ですが、約2か月の治療期間が必要となります。治療中は排尿の回数が増える頻尿(ひんにょう)という副作用が高頻度で現れますが、治療が終了すれば徐々に改善します。

更新:2022.03.04