がんに対するピンポイント治療 定位放射線治療

徳島大学病院

放射線治療科

徳島県徳島市蔵本町

小さながんを狙い撃ち

がんの放射線治療で最も理想的な照射方法とは、がんの病巣にだけ放射線を照射して、周りの正常な組織に当たる放射線をゼロにすることですが、実際に放射線治療で使われるX線は体の中を通り抜けていきますので、X線の通り道となる病巣の手前や反対側の放射線をゼロにすることはできません。

そこで、X線をいろいろな方向から照射して病巣に放射線を集中し、周囲の正常組織に対しては放射線を分散させることによって影響をできるだけ少なくする方法を定位放射線治療と言います。この治療を実現するには①体の中の病巣の位置を正確に把握する技術と②その病巣に対し、正確に照射する技術が必要になります。

近年、放射線治療の技術が進歩し、定位放射線治療を可能にするさまざまな技術が開発され、より正確に、より簡便に行えるようになってきました。ここでは当院で行っている定位放射線治療について紹介します。

治療の対象となるがん

定位放射線治療の対象となる主ながんとしては脳転移、肺がん、肝臓がんなどが挙げられます。いずれの場合もサイズの小さいがんに良い適応です。例えば、脳転移であれば病巣の大きさが2cm程度まで、肺がんであれば肺の末梢(まっしょう)(外側寄り)にある3cm程度までの病巣がこの治療に適しています。

それ以上に病巣が大きい場合でも、治療の回数を増やして対応することがありますが、症状が強く現れているような大きな脳転移や、間質性肺炎(かんしつせいはいえん)を併発している肺がんなど、定位放射線治療を行うべきではない場合もあります。担当医とよく相談をして方針を決める必要があります。

治療の実際

当院で実際に行っている定位放射線治療の方法について紹介します。治療を行う際は、治療の約1週前に一度外来を受診して、放射線治療の準備を行います。治療計画用のCTの撮像、頭や胸を固定するための器具を作成します。

治療自体は外来での治療も可能で、脳転移の場合は1個の病巣につき約20分の1回治療、肺がんの場合は約50分の照射を4回(4日間)行います。治療中じっとしている必要がありますが、照射中に痛みなど感じることはありません。

脳転移の治療は、以前は頭部を金属のフレームに固定するため、局所麻酔をして頭部をピンで固定する必要がありましたが、2011(平成23)年から、当院に最新の外部放射線治療装置(リニアック)が導入され、ピン固定の不要なマスク固定となりました(写真1~3)。これによって局所麻酔が不要となり、患者さんにとって痛みのないマスク固定だけの非常に楽な治療となりました。

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写真1 最新の外部放射線治療装置(リニアック)ノバリスTX
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写真2 マスクによる頭部の固定で痛みのない治療が可能
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写真3 多方向からの照射で病巣に放射線を集中

効果と合併症

期待される治療効果は、病巣の大きさにもよりますが、脳転移であれば60~90%、肺がんであれば80~90%程度の治療効果が得られます。一方、この治療に伴う合併症としては、脳であれば治療後しばらくして脱毛や吐気などがみられることがあり、まれですが遅発性に脳壊死(のうえし)が発生することがあります。一方、肺の場合は病巣の周囲に肺炎を起こすことがありますので、治療後も定期的な経過観察が必要です。

この治療の最大のメリットは、治療中の患者さんへの体の負担が非常に少ないということです。高齢や併存疾患などの理由で手術が受けられないような患者さんでも、放射線治療の台の上で仰向きにじっとしていることができる方なら基本的に治療を受けることは可能です。

高齢者やほかに病気を持っているなどの理由で手術ができない場合でも、定位放射線治療は可能なことがありますので、一度、担当医にご相談ください。

更新:2022.03.04