高周波・電磁波治療の臨床試験 歯根尖の炎症(根尖性歯周炎)
徳島大学病院
むし歯科
徳島県徳島市蔵本町

歯根尖の炎症病変とは?
歯に穴が開いた虫歯から端を発し、口の中の病原細菌が歯の中へ深く侵入していくと、歯髄(しずい)(歯の中の神経や血管を主体とした組織)や歯の根の先とその周囲に細菌感染による炎症が波及し、さらに進行すると、歯を支える骨が溶け、膿(うみ)が溜(た)まり、歯肉が腫(は)れてきます(図1)。

このように、細菌による感染した状態を放置すると、炎症が広がり、歯を支える骨が溶け、歯が動いたり、歯の噛み合わせの状態が不安定になり、歯の寿命も短くなり、口の中の機能や審美性に大きな影響が出てきます。
歯の根の治療(歯内療法)とは?
このような細菌感染による歯根の中や先端とその周囲の炎症病変(歯根尖の炎症病変、根尖性歯周炎)に対する治療として、歯内療法(根の治療)が必要となります。この歯内療法の二つの大きな目的として「根の中の感染源(病原因子)の除去」と「再感染を防止するための緊密な充填(じゅうてん)・封鎖」が挙げられます。
しかし、根の中の構造は、木の幹から多くの枝が分かれているように非常に複雑で、さらに肉眼では根の中を直視できないことや根の先端周囲にも細菌が塊を形成していることなどから、治療困難または痛み・腫れや膿が止まらないなどの症状が持続する難治性病変となる場合も少なくありません(図2)。

そこで、2014(平成26)年4月から難治性の病変に対して、一般的なX線撮影による平面的な画像に加えて、立体的に歯や根とその周囲の病変部の構造を把握できる歯科用コーンビームCT撮影が保険適用となりました。また、歯科用顕微鏡(マイクロスコープ)を使うことによって、これまで観察が困難であった根の中のより深い部分までも観察することが可能となりました。
さらに根の中を充填・封鎖する材料にも改良が加えられ、より歯質と接着するものも応用されています。殺菌効果などを目的とした根の中へのレーザー照射法や超音波を利用した洗浄方法なども開発されて既に応用されています。
しかし残念ながら、歯の根の中の構造の複雑性や根の彎曲(わんきょく)、根の中だけでなく根の周囲への長期に及ぶ細菌感染状態などの理由と、器具や薬剤の到達性やレーザー光の直進性などの制限から、現在の歯内療法にも限界があります。
このような難治性の病変には、外科的な治療法が選択されてきました。この外科的処置は、局所麻酔下で歯肉を切開して骨と根の先端を露出させ、根の先端を3mmほど切除し、その切断面を詰め物で封鎖するという方法です。
しかしこの方法は歯肉を切り、一部骨を削る外科的な処置に加え、根の長さが短くなるという欠点があります。特に超高齢社会を迎えた現在、患者さんにとって体に負担の少ない治療が医療分野でも望まれています。
歯根尖の病変に対する高周波・電磁波治療
当科は、これまでに電気メスなどで医療分野でも長く使用されている高周波・電磁波照射に着目して、培養した細菌や細胞を使った基礎的な研究を行い、その殺菌効果と骨芽細胞の活性化効果を明らかにしました。
現在、当科では、このような難治性の歯根尖の病変に対する新しい非外科的治療法の開発をめざして、当院臨床研究倫理審査委員会の承認を得て、2010年1月から「歯根尖病変部の殺菌による抗炎症効果と歯周組織の治癒促進を目的とした高周波・電磁波治療に関する臨床試験」と題した治療を行っています(図3)。

その治療方法は、歯の根の先あるいはその周りにX線で比較的広範に及ぶ炎症あるいは歯を支える骨の吸収像の見られる歯に対して、通法による器具と薬剤を使った清掃・消毒を行った後、根の中を詰める直前の最終段階に、局所麻酔下で根の先の周り、ならびに根の管の中に高周波・電磁波を照射します。
その後、直ちに通法により根の中を詰めます。よって、高周波・電磁波照射の処置は、根を詰める直前1回だけで、歯肉・骨や根を削るといった外科処置は必要としません。
ただし、この臨床試験をするためには幾つかの基準があり、ペースメーカーなどの体内植え込み型医用電気機器を使用していたり、重度の全身疾患を持つ患者さんや重度の虫歯や歯周病がある歯は除外されます。このように、すべての症例に対して適応・有効であるとは限りませんので、診査や治療の可否と臨床試験については担当医に相談してください。
更新:2022.03.04