歯周病に対する再生治療 歯周病

徳島大学病院

歯周病科

徳島県徳島市蔵本町

歯周病は組織が破壊され骨が溶ける病気

歯周病は、口腔内(こうくうない)にいる歯周病細菌の感染によって引き起こされる慢性炎症性疾患です。歯周病細菌にはジンジバーリス菌など十数種類あり、歯垢(しこう)の塊の中にバイオフィルムという集団をつくって増殖します。これらの細菌が歯と歯ぐきの境界部から歯肉組織に侵入すると、歯肉組織では、白血球などの防御因子が集積し炎症反応が起こります。口腔ケアが不十分な場合には、歯垢中の細菌はどんどん増殖し、炎症反応が拡大して組織破壊が起こった結果、歯周ポケットが形成されます。

「写真1」に歯周病の病態を示しています。歯周組織の炎症が歯ぐきに限局している場合を「歯肉炎」、歯周ポケットができ組織の破壊がみられる場合を「歯周炎」と呼んでいます。歯周炎の特徴は歯の周りの骨(歯槽骨)が炎症の結果、溶けてしまうことです。歯槽骨量が減少すると歯は周りの支持を失って、ぐらぐらと動揺し、最終的には歯が移動したり抜け落ちたりします。その過程で、歯ぐきが繰り返し腫(は)れたり、ものが噛(か)めなくなったりして苦痛を味わうことになります。何より健やかな食生活を営めなくなることで、人生の楽しみも奪われてしまいます。このように、歯周病は骨が溶ける病気なのです。「写真1」のX線写真からも骨が大きく減っているのが分かります。

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写真1 歯周病の種類と病態

歯周病の一般的な治療法

皆さん、歯科医院で歯科衛生士に歯みがき指導を受けた経験があるかと思います。歯周病治療の第一歩は、歯垢を取り除くプラークコントロールから始まります。完璧に歯垢を除去できれば歯周病の原因を駆逐できますが、歯と歯の間や歯ぐきとの境界部、奥歯の届きにくい部分などを含めて100%歯垢を除去できる人はまずいません。しかし、歯科衛生士の適切な指導を受ければ80%程度の歯垢除去は可能になります。

また、歯周ポケット内に潜む歯周病細菌を自ら除去することも困難ですので、ポケット内の治療は歯科医や歯科衛生士に委ねることになります(写真2)。

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写真2 歯周病科スタッフ

歯周ポケットをなくすためには、歯石など歯の付着物を除去し歯の表面を滑らかにすること(スケーリング・ルートプレーニング)、歯ぐきの内側に存在する炎症軟組織を除去すること(キュレタージ)、歯周ポケットに薬剤を注入することなどが一般的に行われています。これを歯周基本治療と呼んでいて、一般の歯科医院で最も頻繁に行われている治療です。以上の治療でよくならない場合には、歯周外科手術を行うことになります。歯周外科手術は、一定のトレーニングを受けた歯科医(とくに歯周病専門医)によって行われます。「写真3」に歯周病治療によって改善した臨床例を示しています。赤い歯ぐきがピンク色に変わり、締まった感じになっているのが分かります。

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写真3 歯周病治療によって改善した口腔内の状態(56歳男性)

線維芽細胞成長因子による歯周組織再生療法

重度の歯周炎は、通常の歯周外科治療を行っても、失われた歯周組織、特に歯槽骨が元通りに回復することは期待できません。現状では、残っている歯周組織を健康な状態に戻し、その状態で口腔内の機能回復を図るのが一般的な治療です。そこで、失われた歯周組織を何とか元通りに回復させようとするのが歯周組織再生療法です。歯周組織再生療法には数種類の方法がありますが、ここでは私たちが10年以上取り組んできた線維芽細胞成長因子(FGF-2)による再生療法を紹介します。

GF-2は細胞成長因子の一つで、血管新生作用、コラーゲン合成促進作用、骨形成促進作用などがあり、皮膚科領域では床ずれ防止のためのスプレー薬としてすでに実用化されています。

歯周病領域では、歯周外科手術の際に、欠損した組織の周囲にFGF-2を局所塗布し、術後に失われた組織が回復することを期待します。私たちは、歯周炎患者さんに対するFGF-2の臨床治験を繰り返し行い、データを積み重ねてきました。この臨床治験は全国20施設で行われた結果、FGF-2の再生力が証明されました。特に歯槽骨の再生に優れた効能があったことから、現在、実用化に向けて厚生労働省に医薬品申請が行われている最中です。「写真4」に、その臨床例を示しています。手術後9か月目に歯の周りの骨が劇的に再生しているのが分かります。今後は、このような薬剤が、歯科の臨床現場で早期に応用されることが、おおいに期待されているところです。

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写真4 FGF-2による歯周組織再生療法の1例(52歳女性)
手術後9か月目に大臼歯部の周辺に著しい骨の増加が認められます

更新:2022.03.04