世界唯一の睡眠中の顎運動測定器 歯ぎしり
徳島大学病院
かみあわせ補綴科
徳島県徳島市蔵本町

無意識下での強い噛(か)みしめ
歯ぎしり(ブラキシズム)は①ギリギリと音がするグラインディング②カチカチと噛むタッピング③音がしない、ぐっと噛みしめるクレンチングの3種類に分類され、それぞれが混在することもあります。
歯ぎしりのときには、上下の歯が接触して不快な雑音が生じることが多く、これが歯ぎしり発見の糸口になります。厄介なのはクレンチングで、雑音が出ないので発見が遅れがちになり、ぐっと噛みしめるために噛む力が強いのです。
一般に、歯ぎしりは寝ているときに起きると考えられていますが、実は、睡眠中に起きるものと、日中に起きるものの2種類あります。両方とも自覚がないにもかかわらず、持続的に筋肉が緊張し、強い力が顎(あご)や歯などに作用し、歯ぎしりの回数が多いと次のような問題点を引き起こします。
- 起床時に顎や肩の筋肉に痛みや疲労を感じる
- 筋肉の肥大、顎のこわばり、口が開けにくいなど顎関節症(がくかんせつしょう)を引き起こす
- 上下の歯をすり合わせることによって、歯が削れてすり減ったり、歯が折れたり、被せもの(補綴装置(ほてつそうち))が壊れたり、外れたりする
- 歯周病に罹患(りかん)している人では歯の動揺がさらに大きくなってしまう
- 口の中の骨がごつごつと膨らんでくる(写真2)

睡眠中は意識がないので、家族の気付きによって歯ぎしりを自覚することが多いようです。睡眠中の歯ぎしりは乳歯が生えてくる頃から始まり、成人で約10%の有病率といわれています。これは年齢とともに減少しますが、歯のない方でも歯ぎしりは起こります。性別による差はありません。
日中の歯ぎしりは、噛みしめている意識がなく、友人や歯科医に指摘されて自覚することが多いようです。噛みしめに至らなくても持続的に上下の歯を接触させていることがあり、この不必要な上下の歯の接触が顎関節症や肩こりの原因になることもあります。
日中の歯ぎしりの問題点は噛む力は弱くても長時間にわたって筋肉が緊張し続けることです。
問診やアンケート、口腔内(こうくうない)診査などで診断
日中の歯ぎしりの診断は自分自身でできますが、睡眠中の歯ぎしりの診断は難しく、問診やアンケート、口腔内診査によって診断します。

診断には、睡眠中の歯ぎしり音や噛みしめを自覚していて、これがほかの医学的な要因(精神心理的疾患、薬品の影響など)によるものではなく、次の項目が1つ以上あてはまる場合に、睡眠中の歯ぎしりと診断できます。
①異常な歯のすり減り②起床時の顎の不快感、疲労、痛み、口が開けにくい③強い噛みしめによる筋肉の肥大。
詳しい診断は、ポリソムノグラフを使った睡眠測定が必要ですが、日本では、現在まで、研究レベルにとどまっています。当院には世界で唯一の睡眠中の顎の動きが測定できる装置があります。
認知行動療法や歯科用スプリント、薬物治療
歯ぎしりの治療法として、認知行動療法があります。利点は副作用がないことで、暗示療法やリラクゼーション、ストレス管理などがあり、リラックス法や睡眠衛生の教育を行うことで歯ぎしりを減らすことが可能です。
歯科用スプリント(写真3)を製作することで、歯ぎしりを減らせるだけでなく、直接上下の歯が接触することを防ぐことができるため、すり減ってしまった歯の保護や歯ぎしり音を減らすことが可能です。関節症などの痛みをコントロールすることもできます。

ただし、いびきや睡眠時無呼吸(すいみんじむこきゅう)を悪化させる可能性もあるため、いびきがある人には慎重に適応しないといけません。
薬物療法として、筋弛緩薬(きんしかんやく)、鎮静剤、自律神経抑制剤などがあります。また、逆流性胃食道炎(ぎゃくりゅうせいいしょくどうえん)があると歯ぎしりが起こりやすいため、胸焼けなどの症状がある場合には胃酸抑制剤も有効です。
さらに、研究レベルでは、ボツリヌス毒素を筋肉に注射することで歯ぎしりが減少することが明らかになりつつあります。
更新:2022.03.04