歯科矯正用アンカースクリューによる治療 矯正歯科

徳島大学病院

矯正歯科

徳島県徳島市蔵本町

歯並び、噛(か)み合わせ、スマイル

はじけるような笑顔からこぼれる、健康できれいな歯。それは、その人の魅力を高め、表情を明るくするばかりでなく、体の健康にもかかわってきます。歯並び、噛み合わせの悪さは、むし歯や歯槽膿漏(しそうのうろう)の原因となるばかりでなく、肩こりや頭痛、体調不良の原因にもなります。歯並び、噛み合わせが悪いからといって、それは致命的な問題とはなりませんが、健康長寿のためには必要不可欠です。

口は食物の入り口で、生きていくための基本的行動の出発点であるとともに、食生活が心の安らぎをもたらし、ストレスを解消する上でもきわめて大切な要素ですから、よく噛めることは身体発達、精神発達の基盤と考えられています。80歳で20本以上の残存歯数を認める、いわゆる「8020(はちまるにいまる)」達成者の噛み合わせを調査すると、受け口などの異常な噛み合わせは存在せず、自身の歯でよく噛み、よく食べ、自身の足でよく歩く、かくしゃくとした方ばかりです。

矯正歯科治療のめざしているのは、こうした健康を害する要因を軽減して、健康的で若々しい口の環境をつくり、維持することです。そして、美しい笑顔は人を明るく、活動的にするばかりでなく、生活の質(QOL)の向上にもつながります。

米国では、小学生の約70%は矯正歯科治療を受けていて、大人になってからの矯正歯科治療は非常に恥ずかしいものでした。一方、日本は矯正歯科治療を受ける小学生の割合はやっと10%に届く程度です。その結果、最近、日本では大人になってから矯正歯科治療を受ける方が増えています。矯正歯科治療といえば、成長期の子どものための治療と考えられがちですが、実際はそんなことはなく、矯正歯科治療に年齢制限はありません。

最新の矯正歯科治療

従来、矯正歯科治療は「痛そう、見た目が怖い、時間がかかる」などのマイナスイメージが強く、特に成人の女性の多くにとって、矯正装置が口に入ることには抵抗感がありました。このような意見を反映し、矯正歯科治療の技術も格段の進歩を遂げ、従来のマイナスイメージを大幅に軽減させました。

現在の矯正歯科治療で使われている装置は歯への負担が軽く、シンプルで外から見えにくいタイプ(審美ブラケット装置/写真1、2)や、歯の裏に付けるので全く見えないタイプ(舌側ブラケット装置/写真3)などもあり、いずれも効率的に歯が移動できます。矯正装置とワイヤーとの間に生じる摩擦を減らすことで、歯の移動時の痛みを軽減し、歯の動きも早くなり、治療期間も短縮できます。

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写真1 歯と同じ色で、外から見えにくいタイプの審美ブラケット装置
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写真2 審美ブラケット装置を使って治療した一例
治療期間2年、治療前に見られた前歯部の叢生(そうせい)と口元の突出感は改善され、すっきりとした口元とバランスのとれた横顔、緊密な噛み合わせが獲得されている
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写真3 歯の裏に付ける、全く見えないタイプの舌側ブラケット装置

歯の移動に対する絶対的固定源として開発された歯科矯正用アンカースクリューは、2013(平成25)年に厚生労働省の薬事承認を受け、2014年4月から保険適用されました(写4)。このアンカースクリューを使うようになって、患者さんの協力なしに、絶対的な固定が得られ、従来、不可能と考えられてきた臼歯の圧下や歯列全体の遠心移動が簡単にできるようになりました。

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写真4 歯科矯正用アンカースクリューの使用例

具体的に言いますと、前歯のガタガタや突出感があり、以前は中間歯(小臼歯)を抜く必要があった症例に対し、すべての歯を後方に移動させ、それを回避できるようになりました。また、笑ったときに歯ぐきが見えてしまうガミースマイル(写真5)になる患者さんに対し、以前は外科手術を適応していましたが、このアンカースクリューを前歯部に植立することで、上顎(うわあご)の前歯をすべて上方に移動させ、効率的にガミースマイルを改善することが可能となりました(写真6)。

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写真5 ガミースマイル。笑ったとき、上顎前歯の露出が大きく、歯ぐきが見える
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写真6 歯科矯正用アンカースクリューを使った上顎前歯の圧下(上方移動)で、ガミースマイルが改善し、スーパースマイルが獲得できました

歯周病や残存歯の少ない患者さんにも挑む

歯科矯正用アンカースクリューを治療計画に組み込むことで、矯正歯科治療における診断が大きく変わり、歯科矯正学のパラダイムシフトが生じています。患者さんの協力に依存しなくても、確実な固定(歯の移動に対する抵抗源)が得られるため、予測性の高い治療ができます。

重篤な歯周組織疾患を伴う患者さんや、既に多くの歯を喪失してしまった患者さんなど、歯の移動に対する抵抗源が確保できず、矯正歯科治療の適応外と考えられてきた症例でも、対応できるようになりました。

更新:2022.03.04