歯に関連した腫瘍の一貫的治療 歯原性腫瘍

徳島大学病院

口腔外科

徳島県徳島市蔵本町

歯に関連した腫瘍とは?

口の中に発生する腫瘍の中で、歯が形成される過程の細胞が原因となって発生する(歯に関連した)腫瘍を歯原性腫瘍と言います。発生する場所は、ほとんどが上顎(うわあご)か下顎の骨の内部です。歯原性腫瘍とは聞きなれない病名で、特殊な腫瘍だとの印象を持たれるかもしれませんが、珍しい病気ではなく、当科でも多くの患者さんの治療を行っています。ほとんどが良性です。しかし、歯原性腫瘍は再発しやすく、まれにがんになってしまう可能性があります。

症状は?

症状は上顎や下顎の痛み、腫(は)れ、噛(か)み合わせのずれ、歯並びの乱れなどです。初期の段階ではほとんど症状がなく、歯科治療時に撮影したX線でたまたま腫瘍が見つかることが多く、比較的多くの患者さんが無症状のうちに経過しています。腫瘍が発見される年齢は10歳代から60~70歳代まで、幅広い年齢層です。

歯原性腫瘍は組織型によって多くの種類があります。その中で、最も代表的な歯原性腫瘍がエナメル上皮腫です。比較的大きくなったエナメル上皮腫のX線写真を「写真」に示します。エナメル上皮腫は下顎に発生することが多く、無痛性に大きくなるため、巨大化して骨が薄くなり、骨折して発見される場合もあります。

写真
写真 エナメル上皮腫(矢印の部位)のX線

検査はX線撮影を行います。血液検査では診断ができません。X線で腫瘍の位置、大きさ、歯との関係を明らかにし、腫瘍の一部を採取して行う病理組織検査で、組織型の診断をつけてから治療を行います。

治療法は?

主に手術になります。効く薬はありません。手術方法の選択は組織型、腫瘍の大きさ、画像所見、年齢、再発の有無などによって決定します。手術の方法には、形態や機能の温存を考慮した顎骨(がっこつ)保存法と根治性に重点を置いた顎骨切除があります。腫瘍が小さい場合に行う顎骨保存法は、口の中から切開して腫瘍を取り除くため、後遺症はほとんどありません。

しかし、腫瘍が大きい場合に行う顎骨切除では、口の外から切開し、広い範囲の顎骨と歯を取り除きます。歯と歯を支える土台となる顎の骨がなくなることで、大きな後遺症が残ります。顎の骨をチタン製のプレートでつなげて入れ歯を作っても、うまく噛むことはできません。食べ物を噛む、話すなどの機能的喪失に加えて、顔貌の変形などによる審美的障害、唇のしびれなどの後遺症は患者さんに大きな精神的ダメージを与えます。若年者にとってはなおさらです。

顎の骨がなくなったら、どうするの?

顎の骨は体のほかの部位にない独特の形態をした骨で、咬合(こうごう)を支持する重要な役割を担っています。最近、多くの医療分野で再生医療が臨床応用されてきていますが、現在のところ、再生医療で顎の骨を作ることはできません。従って、顎骨切除をした場合、手術による顎の骨の再建を行います。顎の骨を再建する手術には大きく分けて2通りあります。

1つ目は、患者さん自身の骨(脚の骨、肩の骨あるいは腰の骨)などをなくなった顎の骨の部位に移植する方法、もう一つはチタン製のメッシュ状のトレーと患者さん自身の骨髄海綿骨(こつずいかいめんこつ)(骨内の組織)を欠損した部位に置き、骨を造成する方法があります。以上の方法で、顎の骨を作ります。

さらに、骨と共になくなった歯を取り戻すために、骨が出来た後、チタン性の歯科インプラント(人工歯根)を埋め込む必要があります。移植した骨の骨質、骨幅などに問題なければインプラントの埋め込みは可能です。インプラントが埋め込まれると、その上部に歯を作製します。インプラント治療によって、自身の歯で再び食事を噛むことができるようになります。

イラスト
図 歯原性腫瘍の一貫的治療の流れ

最後に

歯原性腫瘍は無症状に骨の中で大きくなるため、自身で腫瘍を発見することは困難です。小さな手術で済ますには、かかりつけの歯科医院でむし歯、歯周病の治療時に撮影したX線で早期に発見してもらうことが重要です。

更新:2022.03.04