顔に傷をつけない顎の骨折の治療 顎の骨折

徳島大学病院

口腔外科

徳島県徳島市蔵本町

顎の骨折の治療の難しい点

骨折の治療は、一般に整形外科で行われます。しかし、顎の骨折の治療の多くは口腔(こうくう)外科で行います。理由は、顎の骨には歯があり、噛(か)み合わせに関係するからです(図)。整形外科の先生に叱られるかもしれませんが、例えば、足の骨が1cmずれて治っても、さほど大きな問題はないかもしれません。

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図 顎の骨と噛み合わせ

しかし、顎の骨が1cmずれてしまうと顔が歪(ゆが)んでしまいます。口の中は非常に敏感で、上下の歯の間に髪の毛が1本入っても分かります。顎の骨は1mmずれてくっついてしまうと大変なことになります。物を噛み切れないため、食べられなくなります。

そこで、顎の骨折の治療は、骨のずれを治すだけではなく、噛み合わせを正確に治すことが求められます。

もう一つ大事なことがあります。それは顎の骨は顔の一部であるということです。骨折を治すには、当然、顔を切開して骨折部分を手術する必要があります。足だったら、少々、大きな切開をしても目立ちませんが、顔はそうはいきません。当科では、できるだけ顔を切開せずに、口の中の切開を利用して骨折の治療を行うように努めています。

顎の骨折の治療法

顎の骨折の治療法は、二つに大別されます。手術をせずに歯を利用して骨を固定する非観血的治療(ひかんけつてきちりょう)と手術による観血的治療があります。

誰しも、できれば手術はしたくないものです。骨のずれの少ない場合や骨折線が1本の場合は、手術をしない方法を選択できます。

非観血的治療

まず、患者さんの歯並びに合わせて太い金属線を曲げ、その金属線を細いワイヤーで歯に巻き付けます。上顎と下顎に、それぞれ太い金属線を巻き付けた後、上顎と下顎をワイヤーで固定して、口が開かないようにします(顎間固定、写真1)。

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写真1 顎間固定

患者さんには、この状態で2~4週間、生活していただきます。この方法の欠点は、歯がないとできないことと、長期間の入院が必要になることです。

観血的治療

ずれた骨を元の位置に戻して、金属プレート(金属の板)とネジで固定します。以前は、顔にメスを入れて手術をしていましたが、現在、当科では特殊な手術手技や内視鏡などの最新の器具を使用して、ほとんどの症例を口の中の切開で手術を行っています(写真2)。

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写真2 金属プレートとネジで固定

口の中から手術を行えば、顔に傷が残らないだけではなく、唇が動きにくくなるという障害が生じにくい利点もあります。手術は難しくなりますが、患者さんには、よりやさしい治療法といえます。骨のずれが大きい場合や、多数の骨折線がある場合は手術が必要です。

さらに最近は、体の中で溶けてなくなるプレート(吸収性プレート)も症例に応じて使用しています(写真3)。金属プレートを使う場合は、手術の1年後くらいにプレートを取り除く手術が必要になりますが、吸収性プレートは取り除く必要がありません。

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写真3 吸収性プレートによる固定

顎の骨折は、骨のずれが少ないときには、X線に写りにくいため診断が難しいことがあります。顎を強打した後に、顎や顎の関節部分の痛み、物が噛みにくいという症状がある場合は、口腔外科の専門医を受診することをお勧めします(写真4)。

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写真4 口腔外科スタッフ

更新:2022.03.04