ハイブリッド手術 体に負担の少ない高度な手術
徳島大学病院
手術部
徳島県徳島市蔵本町

現代の外科治療では、手術後の「生活の質を落さない」を目標とした治療法が選択されるようになっています。そのためには低侵襲化(体に負担の少ない)が重要です。近年のX線診断と治療医療機器の開発や進歩を背景とする血管内治療と併せたハイブリッド手術について紹介します。
近年、種々の内科治療と組み合わせた体に負担の少ない血管内治療が行われています。特に脳、頸動脈、心臓・血管などの領域で発展し、多大な恩恵をもたらしています。くも膜下(まくか)出血予防の脳動脈瘤(のうどうみゃくりゅう)に対するコイル塞栓術(そくせんじゅつ)、頸動脈硬化症(けいどうみゃくこうかしょう)に続発する脳梗塞(のうこうそく)予防のステント留置術、狭心症(きょうしんしょう)や心筋梗塞(しんきんこうそく)治療の冠動脈フーセン/ステント治療は、20世紀末から21世紀初頭にかけて標準医療として発展してきた代表的なものです。
「ハイブリッド」と言えば、エンジンと電気モーターを走行条件によって効率的に選んで走行するハイブリッドカーをイメージされると思います。ハイブリッド手術は「外科手術と血管内治療のそれぞれの得意分野を組み合わせて行い、体への負担を少なくしながら最大の効果を得ようとする」ものです。当院では2015(平成27)年度中にハイブリッド手術室が設置され、稼働できる予定です。特に次の疾患については、具体的な保険診療として、その恩恵をお届けできるようになると思います。
腹部、胸部の大動脈瘤や大動脈解離のステントグラフト治療
2007年から行っている保険医療です。健常者でも、もともと直径が2~3cmある太い大動脈では、動脈硬化によってできた粥腫(しゅくしゅ)が壊れ、壁内に出血したりして壁が弱くなると、膨れて瘤(こぶ)ができます。よく発症する部位は、大動脈が大きく弧を描いて走行する遠位弓部の胸部大動脈と、腎動脈が枝別れした後の腹部大動脈です(図1~3)。



通常は脚の付け根の5cm長の小切開で露出した大腿動脈から施行します。大腿動脈から入れたカテーテルにステントグラフトを小さくして内挿し、瘤の部分まで運び、押し出します。するとステントグラフトは瘤の前後に自然拡張し、橋渡しするように着地します。
開胸、開腹したり、人工心肺を使用したりする必要がなく、手術時間も短く、高齢者や心臓、肺、腎臓などの重要臓器機能の低下している患者さん、がん治療を受けている患者さんたちにも、負担が小さいという点からお勧めできる治療法です。
経カテーテル的大動脈弁置換術
超高齢社会のわが国では近年、心臓弁膜症、なかでも加齢変性による大動脈弁狭窄症(きょうさくしょう)が増加の一途をたどっています(図4)。中・高度大動脈弁狭窄症は全人口の約5%に達するといわれています(図5)。


その自然予後は極めて悪く、高齢故に、併存疾患を抱える人が少なくなく、標準的手術である通常の人工弁置換手術が適応されない人も多くみられます。こうした患者さんに適応されるのが経カテーテル的大動脈弁置換術で、大腿動脈や心尖部(しんせんぶ)からアプローチし、経カテーテル的に大動脈人工弁を植え込むものです(図6~8)。今年度中に施設申請して、来年度には保険診療ができるようにしたいと思っています。



今後、肺がんや消化器がんなどに対するCTガイド下手術など、ハイブリッド手術室を利用した高度な先進医療が登場すると期待されています。ハイブリッド手術の潮流は急速に広がり、主流になるものと思われます。
更新:2022.03.04