徳島県唯一の施設 母子の救命救急センター
徳島大学病院
総合周産期母子医療センター
徳島県徳島市蔵本町

妊娠は病気ではない?
「妊娠は病気ではない」。こんな言葉が昔からあります。「元気な赤ちゃんが生まれてきて当然」と思っている方もいるかもしれません。古い記録を見ると、1900(明治33)年には出産で亡くなる妊婦さんの数(妊産婦死亡率)は、10万出産あたり436人(229出産に1人)だったそうです。生まれたばかりの赤ちゃんが亡くなる割合を新生児死亡率といいます。1899年には、1000人の赤ちゃんが生まれたら77.9人(13人に1人)が亡くなっていたそうです。
その後の医療の発展によって、日本の妊産婦死亡率は10万出産あたり3.8人(2011年、26315出産に1人)、新生児死亡率は1000人あたり1人(2012年)と世界トップクラスになっています。しかし、助かった方の中にも命の危険にさらされた赤ちゃんやお母さんたちがたくさんいるわけで、やはり、妊娠出産は母児にとっては命がけといわざるを得ません。
母児の最後の砦(とりで)
当院は徳島県唯一の総合周産期母子医療センターとして指定されており、母体・胎児集中治療室(MFICU)を含む産科病棟および新生児集中治療室(NICU、写真1)を備えています。

総合周産期母子医療センターとは、母児の救命救急センターで、妊娠中は合併症(高血圧・糖尿病や自己免疫疾患、精神疾患など)を持つ妊婦さんや出生後治療が必要な赤ちゃん(外科疾患、心疾患など)の妊娠出産を産婦人科が中心に、内科や精神科などの関連各科の協力を得て管理します。
生まれた後に治療が必要な赤ちゃんは、新生児科を中心に小児循環器科、小児外科、眼科などの専門医が治療を行います。
また、母体搬送や新生児搬送といって他院で管理中の妊婦さんに突発的に起こった病気(切迫早産、胎児心拍の異常、産後出血など)や生まれた後に調子が悪くなった赤ちゃん(呼吸障害など)に対して24時間緊急対応しています。
産婦人科医、小児科医、麻酔科医、手術部スタッフが常に待機し、母体搬送や新生児搬送を受け入れており、徳島県の母児の最後の砦となっています。
診療実績
2014年の分娩(ぶんべん)総数は641件です。低リスク妊娠に加えて合併症妊娠や多胎妊娠(たたいにんしん)などの高リスク妊娠を診ています。
妊娠中は、通常の妊婦健診に加えて、出生前診断としての羊水検査や超音波検査を行っています。また母体血による新型出生前診断(NIPT)も行っています。
横隔膜(おうかくまく)ヘルニア、食道閉鎖などの小児外科疾患や心構造異常などの循環器疾患、水頭症などの脳外科疾患、口唇口蓋裂(こうしんこうがいれつ)などの口腔外科疾患(こうくうげかしっかん)などを各診療科と連携して、妊娠中の診断から治療まで一貫して行っています。
緊急母体搬送は年間100件程度を受け入れています。またNICUでは、年間約200人の入院を受け入れています。約半数が早産となった赤ちゃんですが、特に当院では妊娠28週未満の早産の赤ちゃんが多いのが特徴です。
分娩は母体の負担が少ない経膣(けいちつ)分娩を基本としていますが、高リスク妊娠が多いということもあり、年間約200件の帝王切開を行っています(写真2)。麻酔科医と手術部スタッフが院内待機し、必要な場合は速やかに帝王切開を行うことができます。また大量出血などが発生した場合でも、輸血部や放射線部、集中治療部と連携し迅速な対応が可能です。

院内助産制度「ひなた」
こうした専門的な周産期診療に加えて、一般的な妊娠分娩管理に対する新たなアプローチも行っています。院内助産制度「ひなた」では、低リスク妊婦の方を対象に助産師が中心となって妊娠分娩、産後の管理を行い、女性が本来持っている分娩と育児に対する力を最大限に引き出す取り組みを行っています。もちろん緊急時には、産婦人科医や小児科医がすぐに駆け付ける体制で連携をとっています(写真3)。

更新:2022.03.04