くろいつふぇると・やこぶびょう

クロイツフェルト・ヤコブ病

基礎情報

概要

クロイツフェルト・ヤコブ病(以下、CJD)は、大変まれではありますが、脳の組織が急速に傷ついてしまう重い病気です。主な原因は「プリオン(感染性たんぱく質)」という、特殊なたんぱく質が脳内で異常に増えることだとされています。一般的な認知症が数年かけて進行するのに対し、CJDは「数ヶ月単位」で急速に症状が悪化し、意思疎通ができなくなるほど進行が早いのが最大の特徴です。

極めてまれにもかかわらず、とても深刻な病気であることから、早期に正しい理解を持って対策を講じることが大切です。

クロイツフェルト・ヤコブ病の原因

CJDの原因は「プリオン」という感染性たんぱく質です。プリオンは、ふつうの細菌やウイルスとはまったく異なる性質をもっています。プリオンが体内に入ると、脳の中にある正常なたんぱく質を次々に変化させ、異常化したプリオンが蓄積することで、脳の神経細胞が次々と破壊されて脱落していきます。その結果、脳の組織に無数の小さな穴が開き、顕微鏡で見ると「スポンジ(海綿)」のようなスカスカの状態になってしまいます。

プリオンが体の中に入る経路には、いくつかの種類があります。

1.散発性(さんぱつせい)CJD
原因がはっきりしないタイプで、CJDの中でも最も多いとされています。高齢者に発症しやすい傾向がありますが、まれに若い年代でも起こることがあります。
2.遺伝性(いでんせい)CJD
親から子へプリオンをつくりやすい遺伝子変異が受け継がれた場合に発症します。家族にCJDの人がいる場合は、このタイプの可能性があります。
3.感染性(医原性(いげんせい))CJD
医療行為(手術で使った器具の消毒不足など)や、ヒト由来の硬膜(こうまく)(※1)移植によってプリオンが移ることがあります。ただし、近年は医療器具の消毒法や手術手順が厳格に管理されているため、この経路での発症は非常に少なくなっています。

※1:脳を包む膜

クロイツフェルト・ヤコブ病の症状

CJDの症状は脳の機能が急速に低下することによって起こり、次のような変化が現れます。

1.認知機能の低下
もの忘れがひどくなったり思考力の低下が目立ちます。日常の会話が難しくなったり、理解力が急に落ちたりする場合があります。
2.運動機能の障害
体がうまく動かせない、手足がふるえる、筋肉がかたくなるなどの症状が出ます。歩行時にバランスが取れなくなったり、よろけたりすることもあります。
音や光、あるいは体に触れられた際のわずかな刺激に対して、体や手足が「ビクッ」と大きく跳ね上がるような動き(ミオクローヌス)が頻繁に見られるようになります。これはCJDを疑う重要なサインの一つです。
3.視力の低下や錯視(さくし)(※2)
視界がぼやけたり、ゆがんで見えたりする場合があります。
4.人格や行動の変化
感情の起伏が激しくなったり、いらいらしやすくなることがあります。

これらの症状は、発症後数か月から1年ほどの比較的短い期間で急速に悪化することが多いです。進行度には個人差がありますが、病状が進むと寝たきりに近い状態になることも少なくありません。

図
図:クロイツフェルト・ヤコブ病

※2:実際にはないものが見えること

クロイツフェルト・ヤコブ病の検査・診断

CJDは早い段階では、ほかの認知症(にんちしょう)(※3)とよく似ているため、診断が難しいことがあります。次のような検査を組み合わせて、総合的に判断します。

1.脳波検査
頭につけた電極で脳の活動を計測する検査です。CJDでは、特徴的な脳波パターン(周期性同期性放電)が見られることがあります。
2.MRI検査
脳の断面を撮影して、異常があるかどうかを調べます。CJDでは一部の脳の領域に特有の信号変化が見られることが多いです。
3.脳脊髄液(のうせきずいえき)検査
腰の部分から脊髄液(せきずいえき)(※4)を少量採取し、プリオン関連たんぱく質の検出などを行います。
4.遺伝子検査
家族内でCJDが疑われる場合、遺伝性CJDの可能性を調べるために行うことがあります。

CJDは、その性質上、確定診断が難しい病気です。医師はこれらの検査結果を総合して、総合的にCJDの可能性を評価します。

※3:記憶・思考力が落ちてしまう病気
※4:脳と脊髄を包む液

クロイツフェルト・ヤコブ病の治療

現在のところ、CJDを根本的に治す方法は見つかっていません。しかし、症状を和らげたり、病状の進行による苦痛をやわらげたりする対症療法(たいしょうりょうほう)(※5)が行われています。

1.薬物療法
CJDを直接治す薬はありませんが、不安や抑うつ(※6)などをやわらげる薬、けいれんを抑える薬などを使って、少しでも生活の質を保つようにします。
2.リハビリテーション
運動機能の低下が著しい場合、理学療法士などの専門家によるリハビリを行います。ただし、進行が早いため、できるだけ早めに始めることが望ましいとされます。
3.生活サポート
進行につれ、本人が日常生活で必要な食事や入浴などを自力で行うのが難しくなる場合があります。家族や介護職員の協力を得て、できるかぎり快適に過ごせる環境を整えることが大切です。

プリオンは特殊な感染性を持っていますが、通常の日常生活(握手、抱擁、同じ食器の使用、入浴など)で家族に感染することはありません。過度に隔離する必要はなく、標準的な衛生的配慮があれば、自宅での介護も可能です。

※5:症状を軽くする治療
※6:気分の落ち込み

クロイツフェルト・ヤコブ病の合併症

CJDが進行すると、寝たきりに近い状態になることが多く、そこから別の病気を合併しやすくなります。たとえば、長期間ベッドで寝たきりになることによって褥瘡(じょくそう)(*7)や肺炎が起こりやすくなります。また、食事をのどからうまく胃に送れなくなることにより、誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)を併発するリスクも高くなります。

※7:皮膚が圧迫されて床ずれができること

クロイツフェルト・ヤコブ病の予防

CJDは、原因となるプリオンが特殊なたんぱく質であるため、一般的な消毒や加熱では死滅しにくい性質があります。一方で、次のような点に注意することで、医療を通じたプリオン感染のリスクを下げることができます。

医療器具の厳重な消毒管理
外科手術で使用する器具などは、プリオンに対して有効とされる高温高圧滅菌を行う必要があります。
硬膜などヒト由来の組織の適切な検査
移植用に提供されたヒト由来の材料は、安全性を確保するために厳密な検査を行います。

一般の生活でCJDを予防するために特別な行動をとる必要はほとんどありません。ただし、家族に遺伝性CJDの方がいる場合は、必要に応じて医師やカウンセラーと相談し、遺伝子検査を受ける選択肢も考慮するとよいでしょう。

また、万が一輸血や手術などで感染した可能性がある場合などのために「プリオン病サーベイランス委員会」という専門家組織による診断支援体制が整っています。こうした専門の相談窓口もありますので、お一人で悩まず相談されてください。

更新:2026.10.30