きょしょくしょう

拒食症

基礎情報

概要

拒食症(きょしょくしょう)は、単に「食べたくない」という病気ではありません。客観的には誰が見ても痩せているのに、脳が「自分はまだ太っている」と誤った信号を送ってしまうため、鏡に映る自分が実際よりも太って見えてしまう病気です。この認識のズレが生み出す「太ることへの耐えがたい恐怖」が、過度な食事制限へと駆り立ててしまいます。

日本でも、若い年代を中心に摂食障害が増えています。拒食症では、食事を極端に減らすことでエネルギー不足になり、体重が大幅に減ってしまいます。さらに、体重が落ちた後も「まだ太っている」「もっとやせないといけない」という思い込みが強く、低栄養状態が続きやすいのが特徴です。重症化すると、生命に関わるほどの合併症が出るケースもあるため、早期発見と適切な治療が重要となります。

図
図:拒食症

拒食症の原因

拒食症は、単純なダイエットや食べ過ぎ・食べなさすぎといった問題ではありません。以下のように、いくつかの要因が重なり合って発症すると考えられています。

1.心理的要因
自尊心(じそんしん)が低く、自分の体型や体重に対して強い不安を抱く
「やせていないと価値がない」という思い込みや完璧主義的な性格
ストレスや不安感を、食事制限や体重管理によってコントロールしようとする
2.社会的要因
やせていることが美しい、あるいは望ましいとされる社会的風潮
SNSやメディアにおける体重・体型へのプレッシャー
学校や家庭での人間関係のトラブルやいじめなど、心理的な負荷
3.生物学的要因
遺伝の影響やほかの家族が摂食障害をもっているなど家族の病歴
セロトニンなどの脳内の神経伝達物質のバランスの乱れ

進学や人間関係の変化など、自分の力ではコントロールできないストレスに直面したとき、「体重をコントロールすること」で心の安定を保とうとすることがあります。痩せることで「自分は頑張っている」「自分をコントロールできている」という達成感を得ようとしてしまうのです。このように、上記のような要素が組み合わさって、自分の体重や食事を極端にコントロールする行動が続き、拒食症へと発展する場合があるといわれています。

拒食症の症状

拒食症の症状は、身体面と精神面の両方であらわれます。以下に主な症状を紹介します。

1.著しい体重減少
自適正体重(※1)を大幅に下回っていても、本人は「まだ太っている」と感じる傾向があります。
2.極端な食事制限
カロリーを気にしすぎたり、食事の回数や量を極端に減らしたりします。中には「低カロリーな食材だけしか食べない」など、異常に偏った食事をとるケースもあります。
3.体型・体重に対するゆがんだ認識
鏡で見る自分の姿や体重計の数字を正しく受け止められず、実際よりも太っていると思い込んでしまいます。
4.月経異常
女性の場合、極端にやせることでホルモンバランスが乱れ、生理不順や無月経(むげっけい)になることがあります。
5.心身の不調
低栄養状態やエネルギー不足による疲れやすさ、めまい、冷えなど
抜け毛、肌荒れ、爪のもろさなど外見的な症状
気分の落ち込み、集中力の低下、不安感の増大
6.過度な運動
食事を減らすだけでなく、やせるために長時間の運動を無理に行うことがあります。

栄養が極端に不足すると、体は命を守るために省エネモードに入ります。その結果、生理が止まる、脈が遅くなる(徐脈)、血圧が下がるといった変化が現れます。これらは、体があらゆる機能を削って、必死に心臓や脳を守ろうとしているSOSです。

※1:身長や年齢などで基準となる体重

拒食症の検査・診断

拒食症の診断には、身体状態のチェックと精神面の評価が欠かせません。医療機関を受診すると、主に以下の手順で検査・診断が行われます。

1.問診・視診
医師や臨床心理士が、食生活や体重の推移、精神状態などを詳しく聞き取ります。また、体型や皮膚の状態など外見の確認も行います。
2.身体検査
身長・体重・体温・血圧・脈拍などを測定し、身体が危険な状態に陥っていないかを確認します。
3.血液検査・尿検査
栄養状態やナトリウムやカリウムなどの電解質バランスの異常、貧血などを調べます。ホルモン検査を行うこともあります。
4.心理評価
摂食障害に関わる心理的要因を把握するため、アンケート形式のテストやカウンセリングを行い、精神科医や臨床心理士が診断に協力します。
5.他の病気の除外
甲状腺(こうじょうせん)やほかの内分泌(ないぶんぴつ)系の病気、うつ病など別の病気が原因で体重が減っている可能性も考慮し、総合的に判断します。

拒食症の治療

拒食症の治療では、体重と栄養状態の回復をはかることと同時に、ゆがんだ認識やストレスなどの心理的要因にもアプローチすることが大切です。

1.栄養管理
管理栄養士や医師の指導のもと、少しずつ安全に体重を増やしていきます。急激な体重増加は体への負担が大きくなる場合もあるため、段階的に食事量やカロリーを調整します。
2.心理療法
認知行動療法(にんちこうどうりょうほう)自分の思考パターンを見直して、食事や体型に対する誤ったとらえ方を修正し、健康的な行動を身につけます。
対人関係療法(たいじんかんけいりょうほう)家族や友人など周囲とのかかわり方を改善し、ストレスや不安を減らすことで症状をやわらげることをめざします。
3.薬物療法
拒食症そのものを「薬だけで治す」という方法は確立していませんが、うつ症状や不安感が強い場合には抗うつ薬などが補助的に処方されることがあります。
4.家族療法・家族のサポート
思春期の患者さんの場合、家族全体で治療に取り組むことで、より効果的なサポートが得られます。親や兄弟、姉妹が病気の正しい知識をもち、一緒に治療に参加することが望ましいといわれています。
5.入院治療
体重が極端に低い、急激に体重が落ちている、あるいは心拍数や血圧が危険なレベルにあるなど、医学的にリスクが高い場合には入院して専門的な治療を受ける必要があります。

治療は、一気に体重を増やすことではなく、まずは「食べても大丈夫だ」という安心感を少しずつ育てていくことから始めます。栄養の回復と並行して、公認心理師や医師との対話を通じて、痩せていること以外の自分の価値を一緒に見つけていきます。ご家族も、焦らずにその歩みを支えていくことが大切です。

拒食症の合併症

拒食症を放置すると、身体に深刻なダメージが生じることがあります。主な合併症としては、以下のようなものが挙げられます。

1.低栄養状態による免疫力の低下
風邪や感染症にかかりやすくなったり、体力が低下したりします。
2.骨粗鬆症(こつそしょうしょう)
長期間の栄養不足によって骨がもろくなり、骨折しやすくなるリスクが高まります。
3.心臓や血管への負担
電解質異常や栄養不良が長引くと、不整脈や心不全などの心臓トラブルにつながるおそれがあります。
4.生理不順や不妊症
女性ホルモンが十分に作られない状態が続くと、妊娠できなくなるリスクも考えられます。
5.精神的合併症
うつ病や不安障害、強迫性障害(きょうはくせいしょうがい)(※2)を併発することがあります。

※2:何度も確認しないと落ち着かないなどの症状

拒食症の予防

拒食症は、一度発症すると長期的な治療やサポートが必要になる場合があります。以下の点に注意して、予防や早期発見を心がけましょう。

1.正しい情報の理解
やせすぎを良しとする社会的な風潮やSNSの情報に過度に影響されず、栄養バランスや適正体重について正しい知識をもつことが重要です。
2.ストレス対策
学校や家庭でのストレスが引き金になることもあります。運動や趣味などで上手に気分転換をはかり、必要があれば周囲に相談しましょう。
3.家族や友人の早期発見
体重を急激に落としていたり、食べ方がおかしいと感じたら、早めに声をかけ、専門の医療機関を受診するよう勧めることが大切です。
4.無理なダイエットの回避
短期間でやせようとする極端なダイエットは、リバウンドや摂食障害につながるリスクがあります。安全かつ健康的な方法で体重を管理しましょう。

更新:2026.09.25