せきずいそんしょう

脊髄損傷

基礎情報

概要

脊髄損傷とは、脳と身体をつなぐ脊髄が損傷してしまう病気のことです。脊髄は背骨とも呼ばれる脊椎(せきつい)の中を通っている太い神経のかたまりで、脳からの命令を手足や内臓など全身へ伝えたり、反対に体の感覚情報を脳へ送り返したりする大切な役割を担っています。もし脊髄がけがや病気などによって傷つくと、手足の動きや感覚が失われたり、排せつや呼吸がうまくできなくなったりすることがあります。

日本でも、交通事故や転倒事故、スポーツ中のけがなどが原因で、毎年多くの人が脊髄損傷を起こしています。脊髄損傷の治療では、脊髄を完全に元どおりに治すことはまだむずかしいとされています。しかし、治療法やリハビリテーションは年々進歩していて、適切なサポートによって生活の質を高めることは可能です。また、日常生活の中で事故を防ぐ工夫や、早めの受診によって悪化を防ぐことも大切です。

脊髄損傷の原因

1.外傷
交通事故
バイクや自動車、自転車などの衝突事故で強い衝撃を受けると、背骨の一部が折れたりずれたりして脊髄を傷つけることがあります。
転倒・転落
高所からの落下や階段・段差での転倒によって、背骨に大きな負荷がかかり、脊髄を圧迫してしまう場合があります。
スポーツによるけが
激しいスポーツや相手と体をぶつけ合う競技で首を強く曲げたり伸ばしたりすることで、脊椎が壊れて脊髄が傷つくことがあります。
2.非外傷性
感染症や炎症
背骨や脊髄に感染や炎症が起きたりすると、そこを通る神経がダメージを受けてしまうことがあります。
腫瘍やがん
背骨や脊髄にできた腫瘍によって神経が圧迫され、障害が出る場合があります。
変形性脊椎症など
加齢などにより背骨の形が変わったり、ヘルニア(※1)などの病気で脊髄が圧迫されたりすることがあります。

※1:椎間板(ついかんばん)が飛び出す状態

図
図:脊髄損傷

以前は交通事故が主な原因でしたが、近年は高齢者の転倒による損傷が急増しています。もともと首の骨(頚椎)に変形がある場合などは、少し転んで首をひねっただけでも脊髄を傷つけてしまうことがあるため、転倒の予防が非常に重要です。

脊髄損傷の症状

脊髄損傷で現れる症状は、損傷した場所や程度によって異なります。

首(頚髄)を傷めると手足すべての動きが、腰(腰髄)を傷めると足の動きや排せつ機能に影響が出ます。また、完全に神経が切れてしまった「完全損傷」か、わずかに機能が残っている「不全損傷」かによっても、その後の回復の可能性が異なります。

一般的には、以下のような症状がみられます。

1.運動麻痺(まひ)
手や足が動かしにくくなる、あるいはまったく動かせなくなることがあります。けがの部位が首の近くだと、両手足が同時に麻痺することもあり、腰のあたりの脊髄が損傷すると、下半身のみ麻痺するケースもあります。
2.感覚障害
皮膚の感覚が鈍くなったり、触っているのに感覚がわからなかったり、逆に軽く触れるだけで痛みを強く感じたりする場合があります。
3.排せつ障害
膀胱(ぼうこう)や腸のはたらきをコントロールする神経も脊髄を通っているため、損傷によって尿や便をうまくコントロールできなくなることがあります。
4.呼吸障害
首のあたり(頸髄〈けいずい〉)が損傷すると、呼吸を助ける筋肉がうまく動かなくなり、呼吸がしづらくなることがあります。
5.痛みやしびれ
損傷した部位によっては、断続的に痛みやしびれが起こることがあります。これは神経から発信される異常な信号が原因です。

脊髄損傷の検査・診断

脊髄損傷が疑われるときには、専門の整形外科医や脳神経外科医が以下のような検査を行います。

1.身体診察
まずは、手足の動きや感覚、反射などをチェックし、どの部分に障害があるかを確認します。
2.画像検査
レントゲン
背骨の骨折やずれを確認します。
CT検査
レントゲンの断面写真で、骨の細かい状態をより詳細に調べることができます。
MRI検査
骨だけでなく、脊髄や周辺の軟部組織(※2)・神経の状態まで詳しくわかります。
3.神経学的検査
針を使った軽い刺激や温度刺激、触覚のテストなどを行い、神経のどの部分にどのくらい障害があるかを調べます。
4.血液検査
非外傷性の脊髄損傷の場合、感染症や炎症の有無、ほかの病気との関連を調べるために血液を検査することがあります。

※2:臓器や骨組織を除く筋肉や皮膚及び皮下組織、血管、末梢神経などの総称

脊髄損傷の治療

脊髄損傷を完全に元どおりに回復させる治療法は、現在のところ確立していません。しかし、さまざまな方法で症状の悪化を防ぎ、生活の質を上げることが可能です。

1.急性期(けがをした直後)の治療
安定化
脊髄への追加のダメージを防ぐため、首や背中を固定したり、背骨のずれを矯正したりします。
高用量ステロイド投与
事故直後、脊髄の炎症を抑える目的で使われることがあります。ただし、副作用もあるため、慎重に行われます。
2.手術
骨折や背骨の変形がひどい場合には、手術によって背骨の位置を整えたり、金属の固定具を入れたりして、神経の圧迫を軽減することがあります。
3.薬物療法
痛みやしびれなどを和らげるために、鎮痛薬や筋肉のけいれんを抑える薬などを使います。また、排せつ障害がある場合には、膀胱のコントロールを助ける薬が処方されることもあります。
4.リハビリテーション
理学療法士や作業療法士が中心となって、筋力や関節の動きを維持・向上させる訓練を行います。また、車いすや歩行器の使い方、着替え、入浴などの日常生活動作の練習を行い、自立した生活を送れるようサポートします。
リハビリの目的は、残された神経の機能を最大限に引き出し、脳と体に「新しい動きのルール」を再教育することです。また、現在はロボットスーツを用いた歩行訓練など、失われた機能を補完する技術も進化しています。
5.心理的サポート
けがや麻痺によるストレス、将来への不安など精神的な負担が大きいため、臨床心理士やカウンセラーがメンタル面のサポートをすることが重要です。

現在、失われた神経機能を回復させるための再生医療の研究が国内外で進められています。患者さん自身の細胞(幹細胞など)を移植して脊髄の修復を促す治療法などが一部で実用化され始めており、将来的にさらなる回復の可能性を広げることを期待されています。

脊髄損傷の合併症

脊髄損傷は、下記のような合併症を引き起こすことがあります。

1.褥瘡(じょくそう)(※3)
長時間同じ姿勢でいることが多いため、皮膚に圧力がかかりつづけ、傷になりやすくなります。
2.肺炎や呼吸器系のトラブル
呼吸筋の動きが弱まると、咳がうまくできず、肺炎になりやすくなります。
3.血栓(けっせん)や循環器系の合併症
動けない時間が長いことで、足の静脈に血のかたまりができたり、血圧の調整がむずかしくなる場合があります。
4.尿路感染症
自力で排尿しづらくなると、カテーテル(※4)を使うために感染症が起こりやすくなります。

これらを防ぐためにも、適切なリハビリテーションや看護が欠かせません。

※3:床ずれのこと
※4:体内に挿入して、検査や治療などを行うための柔らかい細い管

脊髄損傷の予防

脊髄損傷を防ぐためには、日常生活で安全対策を行うことが大切です。

1.交通ルールを守る
シートベルトやヘルメットを正しく着用し、速度を出しすぎないなど安全運転を心がけましょう。
2.転倒防止
家の中や外の段差をなくし、床に物を散らかさないなど、転ばない工夫をすることも重要です。
3.スポーツ時の注意
激しいスポーツや格闘技などの場合は、専用のプロテクターやヘルメットを着用し、正しいフォームを習得して安全性を高めます。
4.定期的な健診
加齢や病気による脊椎の変形や腫瘍などを早期に発見するために、定期健診を受けることも予防につながります。

更新:2026.10.30