自閉スペクトラム症

精神科

自閉スペクトラム症

どんな病気?

自閉スペクトラム症(ASD)は発達障害(神経発達症)の一つとされています。他者とのやり取りの困難さ、強いこだわりが特徴的であり、感覚過敏など感覚の特異性を持っていることも多いです。成長に伴ってこれらの特性が変化することもありますが、基本的には生涯にわたってその特性は見られます。また、特性の強さや現れ方は個人差が大きく、乳幼児健診でその可能性を指摘されることもあれば、成人になって初めて気づかれることもあります。以前は10000人に数人とされていましたが、最近では100人に2,3人と報告されることが増えています。

症状

やり取りの困難さ、こだわり、感覚の特異性が特徴的

自閉スペクトラム症(以下、ASDと略します)は、人付き合いに関わる神経回路(社会脳)などの反応特性がユニークな脳タイプであり、いわば「脳の個性」と考えられます。そして、①他者とのやり取りの困難さ、②強いこだわり、③感覚の特異性といった症状が見られます。

①の具体例としては、他者の気持ちや考えを推し量り適切に反応することの困難さ、他者との関わりを開始し維持することの困難さ(過度に受け身、一方的になりやすい)などがあります。言葉の使い方も特徴的で、話し言葉の遅れやオウム返し、説明の苦手さなどがよく見られます。言外のニュアンスを察知し、言葉を文脈に応じて解釈することも苦手です。自分の置かれた環境に不釣り合いな丁寧すぎる言葉遣いや言葉の選択をすることもあります。また、身振りや視線の使い方、表情などもコミュニケーションには重要な役割を果たしますが、これら非言語コミュニケーションの意味合いを正確に察知することが困難で、使用に際してもぎこちなさが目立ちやすいです。

②もASDで見られる特徴的な症状です。特定の手順や日課を繰り返すことへのこだわり、常同的な動作(手をひらひらさせるなど)、普段どおりの状況や手順が急に変わった時の強い戸惑いや混乱、興味や関心の偏りなどがよく見られます。興味を持った領域に関しては膨大な知識を持つ反面、ごく当たり前のことを知らなかったりすることもよくあります。

③としては、特定の音を過度に嫌がるなど感覚刺激に敏感な「感覚過敏」がよく知られていますが、痛みや熱さなど特定の感覚刺激に気づきにくい場合もあります。また、水遊びなどの感覚遊びに没頭してなかなかやめられないなど、感覚的側面に対する並外れた興味を示す「感覚探求」が見られることもあります。特に、「感覚探求」はASDに特徴的だと言われています。

検査・診断

問診、行動観察、心理検査、医学的検査などをもとに診断

ASDを疑われて病院を受診した場合、まず、受診に至った経緯と受診時点での気がかりについて具体的に確認します。次に、妊娠中の様子や発達の経過、成育歴、集団生活における様子などの詳細な問診と行動観察を行います。母子手帳や連絡帳、通知表などの客観的な情報があればそれも参照します。そのようにして社会性の発達の様相や症状に関する情報を集めていきます。さらに心理検査、必要に応じて脳波検査などの医学的検査も実施し、①他者とのやり取りの困難さ、②こだわりの強さ、③感覚の特異性が診断基準を満たすか否かを確認します。そして、発達水準や適応状況も考慮し、診断基準を満たした場合にASDと診断します。知的障害の有無やその程度、学習障害や注意欠如多動症など他の神経発達症、てんかんなどの併存症に関する評価も併せて行います。社会性の発達に関して乳幼児のASDに見られやすい兆候を表に示します。

表

治療と経過

環境調整、特性に応じた対応、療育などで育ちを支援

ASDはユニークな脳タイプであり、目で見て理解し覚えることが得意、パターンとして捉え覚えるのが得意といった強みを持つ一方で、注意の向く範囲が狭く切り替えが困難、明示されていない情報の理解が困難、重要な情報の弁別や要点の把握が困難、状況に合わせた行動の組み立てや柔軟な調整が困難といった特徴を有しています。
また、人よりものに注意が向きやすく、その場で期待される行動や相手の気持ちを「自然に」察することも困難です。
そのため、生活に必要なさまざまなことを、周囲の人たちとやり取りしたり、観察したり真似したりしながら「自然に」学ぶことが難しいと推察されます。また、得意なことと苦手なことのばらつきが大きく、勉強などはよくできる場合も多いです。そのため、特性が目立ちにくい子どもの場合、期待される行動を自発的に起こせず、ずれた行動をしてしまうと「気が利かない、わがまま」などと誤解されやすいです。そして、頭ごなしに叱責されることが重なると、「自分はいつも否定される」、「嫌われている」などと誤解し、自信を失い、周囲への不信感が強まるなど、二次障害に発展してしまうことがあります。
従って、ASDの支援では、早期の段階でやり取りの苦手さやこだわりの強さ、感覚の特異性や情報処理の特徴を周囲が認識し、環境調整や特性に合わせた支援や療育を継続することが望まれます。幼少期には、療育により日常生活スキルの獲得やコミュニケ―ションスキルなどの発達を促していきます。養育者に対しても、子どもの特性や好ましい関わり方のガイダンスなどを通して、良い親子関係が育めるように支援していきます。
そして、幼稚園、保育園、学校などでも特性や発達段階に応じた肯定的で一貫した支援を継続し、成人期の安定した生活に必要なスキルを伸ばし、人と経験を共有することに少しでも喜びを感じられるように、肯定的な自己像を描けるようにサポートしていくことが望まれます。医療機関では、診断ならびに医学的な観点からの支援を行いますが、不眠や情緒・行動上の問題、さまざまな併存症に対して薬による治療が検討されることもあります。

当院の治療の特色

子ども専用の診療エリア
多職種で包括的に支援

当院では、お子さんにも安心して受診してもらえるよう、子ども専用の診療エリア「子ども外来」を設けています。また、医師と心理療法士、児童指導員などのコメディカルスタッフがチームで診療にあたり、医師による診察に加え各種心理検査や行動観察などを行い、精神状態を多角的に評価します。そして、医師による精神療法、家族ガイダンス、薬物療法、心理療法士や児童指導員による心理面接、プレイセラピー(遊戯療法) などを行います。必要に応じてソーシャルワーカーも介入し、教育機関や福祉機関などと連携しながらその子どもらしい育ちを包括的に支援します。親御さん向けのペアレントトレーニングなどの外来プログラムも実施しています。また、必要に応じて児童精神科専門病棟での入院治療も行っています。入院中は中原特別支援学校(小学部、中学部)の訪問教育を受けることもできます。

よくある質問

ASDは親の育て方が原因ですか?

ASDの原因はまだ解明されていませんが、これまでの多くの研究から、親の育て方やしつけ方が原因ではないことがわかっています。ASDは遺伝的な素因と環境的な要因が複雑に影響し合い、人付き合いに関わる神経回路(社会脳)などの配線や反応の仕方が多数派の人たちとは異なるパターンを示すようになったものと考えられます。

ASDの治療ではどのような薬を使いますか?

薬物療法でASDの特性を根本的に治療することは難しいとされていますが、症状が落ち着くことで生活が送りやすくなる可能性があります。具体的には、睡眠障害に対するメラトニン、かんしゃくや激しい興奮などに対する抗精神病薬(リスペリドン、アリピプラゾール)、てんかんや注意欠如多動症などの併存症に対する治療薬などを使用することがあります。

ASDの支援のポイントを教えてください

ASDの支援では、①目で見て理解し覚えることが得意、パターンとして捉え覚えるのが得意といった強みを生かすこと、②刺激や情報が多い、見通しが持ちにくい状況では混乱しやすい点に配慮することが望まれます。
具体的には、苦手な感覚刺激や余計な刺激を減らすなどの「環境調整」や、今・ここで何をしたらいいのか、どのようにすればいいのか、どれくらいすればいいのか、どうなれば終わりか、次は何をするのかを手順書やスケジュールなどで明確に示す「構造化」、具体的で明確な手がかりを視覚的に示す「視覚支援」などを行います。これらの工夫を行うことにより、気持ちが落ち着き、集中しやすくなります。
また、今何をすればよいかわかりやすくなります。その結果、自発的な行動が起こりやすくなり、自己効力感も高まりやすくなります。さらに、適切な行動に注目し具体的にほめるなど肯定的で一貫した対応を心掛けること、やり取りが成立しやすいように工夫しながらソーシャルスキルや自発的に人に関わろうというマインドを育てていくこと、感情や衝動の調整の仕方などセルフコントロールの技術を教えていくことなども重要です。

最後に、ASDの子どもと話す時の留意点を挙げておきます。参考にしてみてください。
①低めの落ち着いたトーンでゆっくり話す
② 具体的に簡潔に話し、指示は一つずつ伝える
③否定形、皮肉、曖昧な表現は避ける
④選択肢の提示、はい/いいえ式質問を心がける。

症状をCHECK
※症状は人によりさまざまです

  • □ 視線が合いにくい
  • □ マイペースな行動や場違いな対応が目立つ
  • □ 人の気持ちや意図が分かりにくい
  • □ 言葉の遅れなど、言葉での意思疎通が難しい
  • □ 言われた言葉をオウム返しする
  • □ 会話が一方的でやり取りが続かない
  • □ どのように、なぜ、といった説明ができない
  • □ 言われたことの場面に応じた理解が難しい
  • □ 冗談や皮肉がわからず、文字通り受け取る
  • □ 物を同じやり方で繰り返しいじる
  • □ 普段通りの状況や手順の変更を嫌う
  • □ 勝ち負けや順位・独自のルールにこだわる
  • □ 特定のテーマに関する知識獲得に没頭する
  • □ 感覚刺激に過敏/鈍感、感覚遊びへの没頭

症例 PICK UP!

粗暴な言動を主訴に受診。特性に合わせた対応により行動が改善した小1男児のケース

小学1年生(7歳)男児/自閉スペクトラム症
通常級在籍/乳幼児健診での指摘なく未診断

症状

一人遊びを好み、予定の変更が苦手だが、乳幼児健診での指摘はなく、マイペースでこだわりが強い子と両親は捉えていた。通常級に就学したが、小学1年の6月頃より、他児が笑うと馬鹿にされたと殴り掛かる、大きな音や大声での注意に立腹し物に当たるなどの粗暴な言動が目立つようになったため、学校からの勧めで当院を受診した。

治療

発達歴、行動観察所見、心理検査の結果よりASDと診断。そして、粗暴な言動と関連した本児の課題をASDの観点から整理し、両親、担任教師と共有し、ASD特性に合わせた支援を開始した。

経過

環境調整(大きな音など苦手な感覚刺激の調整)、構造化・視覚支援(手順やスケジュールの呈示、変更の予告など)、粗暴な言動への対応(落ち着きやすい場所に穏やかに誘導、落ち着いたところで気持ちを切り替えられたことを具体的にほめるなど)、意図や気持ちの読み違いへの対応(視覚化し分かりやすく解説するなど)を継続する中、イライラすることが減じ、粗暴な言動は見られなくなった。ASD特性に合わせた支援により、本児の情緒のベースラインが安定し、本来の力が発揮しやすくなり、感情や衝動を調整するスキルも増したと思われる。

図

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更新:2026.08.14