精神療法:抱える問題をじっくり聞きだし回復に向けて共に歩む
精神科

それぞれの患者さんが持っている問題に対して、特別な治療をする前に(あるいは、やりながら)、よくお話を聞いて、問題を整理し、目標を共有していくことが必要です。
初めて受診するときの精神療法
精神科を受診する患者さんはそれぞれ、いろんな問題を持っています。「このような症状があるのでこのような治療(もしくは検査)をしてほしい」と、具体的に説明できる方もいます。一方で「何が問題なのかがよくわからないけど、とにかく苦しくてたまらない」とか、「理由はわからないけど死にたい」という患者さんもいます。初回の診察では、現在どんなことで困っているのかについて、まずはゆっくり時間をかけて教えてもらうことから始めます。
お尋ねするのは、現在のことだけではありません。"こころ"の問題は、生まれ持った体質、幼い頃の環境、その後の、さまざまな成長段階での経験、そして現在の環境など、さまざまな要因が影響しあってもたらされると考えられています。ですから、一見すると、あまり関係ないようなことまで質問させていただくかもしれませんが、できる範囲で教えていただければ結構です。答えたくないときには「そのことはあまり話したくない」と言っていただいて結構です。

"こころ"のトラブルには、とてもたくさんの種類があります。眠れない、という人もいれば、起きられない、という人もいて、食べられない、という人もいれば、食べ過ぎてしまう、という人もいます。気分が落ち込んだ人もいれば、気分が高ぶりすぎる人もいます。覚えられない、という人もいれば、忘れられない、という人もいます。人前で話せない人もいれば、話しすぎて困るという人もいます。掃除ができない人もいれば、一日中掃除ばかりしている人もいます。自分を傷つけてしまう人もいれば、他人を傷つけてしまう人もいます。結局、私たちの心は、どのようにできているのでしょうか。それはあまりに複雑であり、まだ誰もうまく説明できていないのですが、ともあれ、私たちはたくさんの方のお話を聞かせていただくことによって、心のトラブルについて、ある程度のパターンを知っており、それを手がかりにして一人一人の患者さんの問題を理解し、治療へとつなげていくことが出来ます。特別なことをするわけではないのですが、お話を聞いて問題を整理し、どのように問題に対処すればよいのか、とりあえずの方針を示すだけで、ある程度回復する場合もあります。
他の治療をしながらの精神療法
問題の種類によっては、認知行動療法のような心理療法、あるいは薬物療法やその他の医学的療法を開始することになります。ですがその場合でも、ただ機械的に、そのような治療を実施するわけではなく、予想される効果や副作用を説明し、不安の訴えを傾聴し、経過についてフィードバックを行いながら、治療を進めていきます。これらの話し合いも、それぞれの治療の一部ではありますが、見方によっては、それ自体が一種の治療、精神療法であるともいえるでしょう。そのような話し合いを通じて、患者さんはご自分の問題のことをよりよく理解できるようになり、より上手に対処できるようになっていくのが一般的です。
応援としての精神療法
事故でけがをして病院に搬送された場合、あるいは、がんなどの病気になり入院して手術を受ける場合、患者さんは治療者の技術と善意を信頼して、身を任せるのが普通でしょう。けれども精神科の治療では(激しい興奮を伴う急性期を別にすれば)、対等な立場でお互いの考えを伝えあいながら、回復に向かって共に歩んでいくことになります(体の病気でも、慢性的な病気の場合、このような関係により近くなります)。麻酔をかけた患者さんの体を、メスを持つ医師が治療するような関係とは違い、私たち精神医療スタッフは、患者さん自身の歩みを応援しながら、共に歩んでいく存在です。精神科の病気についてはよくわかっていないことが多く、また同じ病名でも一人一人の違いも大きいため、私たち専門家が持っている知識と、患者さん本人だけが知っている固有の体験とを見比べながら、ひとりひとりに合わせた治療を進めていく必要があります。私たちは専門家として、一般的な知識を持ってはいても、その知識が一人一人の患者さんにどのように役立つのかを考えるためには、それぞれの患者さんの価値観を教えていただくことが必要です。専門家が提供する知識と、患者さんが語る価値観とを見比べながら、今どのような問題があるのか、それをどのようにして解決することを目指すのか、について、よく話し合って共通の認識をつくっていきます。そのようにして生まれるのが「治療同盟」と呼ばれる、患者さんと治療者の同盟なのですが、治療同盟が形成されたときには、回復に向かう大きな一歩が、すでに踏み出されているのです。
初回の診察の時にはできるだけ時間をかけてお話を聞くようにしていますが、2回目以降については、面接の時間が限られているのが現状です。心理士によるカウンセリングを希望される方も多いのですが、スタッフ数が限られているために、皆さまのご要望にはお応えできておりません。限られた時間で効率よく情報を伝えあうためには、一日一日の調子や睡眠時間、活動内容を含む生活記録をつけていただいたり、ゆっくり考えてほしいことをノートにまとめてきていただいたり、あるいは手紙の形で渡していただいたり、といったようにして、工夫を重ねているところです。

更新:2026.08.14
