基礎情報
概要
認知症は、さまざまな原因で認知機能が低下し、日常生活や社会生活に支障をきたすようになった状態のことで、病名ではありません。加齢によるもの忘れとは違い、主に脳の働きの低下によって起こる中核症状と、さらに中核症状にさまざまな要因が追加されることによって引き起こされる二次的な症状を行動・心理症状といいます。中核症状は、認知症の症状として一般的なものですが、行動・心理症状は、その人の性格や生活環境によるものなので、すべての人にあてはまる症状ではありません。
認知症は高齢になるに従って増加し、日本では65歳以上の認知症の人の数は約600万人(2020年時点)と推計され、2025年には約700万人(高齢者の約5人に1人)が認知症になると予測されています。
さらに、最近では、認知症の前段階としての軽度認知障害(MCI)も注目されています。これは、正常な状態と認知症の中間であり、記憶力や注意力などの認知機能に低下が見られるものの、日常生活に支障をきたすほどではない状態を指します。認知症への進行を予防するには、早い段階から適切な対策をとることが有用とされています。
原因
認知症の原因となる病気としてもっとも多いのがアルツハイマー病で、認知症全体の約6割以上を占め、次いで血管性認知症が約2割、レビー小体型認知症が1割弱となっています。このほかに、アルコール性認知症、甲状腺機能低下症や脳腫瘍、慢性硬膜下血腫、多発性硬化症など認知症の原因には多くの病気がありますが、最近では、難病指定されている前頭側頭葉変性症(https://www.nanbyou.or.jp/entry/4841)も認知症の原因の一つに加えられ、アルツハイマー病、血管性認知症、レビー小体型認知症と並んで4大認知症と呼ばれています。
アルツハイマー病
原因はまだ解明されていませんが、脳にアミロイドβとタウと呼ばれるタンパク質がたまり、神経細胞が障害され数が減っていきます。遺伝的な素因と生活習慣などの後天的な因子が複合的に重なって発症すると考えられています。
血管性認知症
脳出血、脳梗塞(のうこうそく)、くも膜下出血など脳の血管障害によって、脳の神経細胞が損傷されることで起こります。
レビー小体型認知症
脳の神経細胞の中に、αシヌクレインというタンパク質が固まってレビー小体と呼ばれる構造をつくり、これが記憶と関係する部分などに出現することで起こります。
前頭側頭葉変性症
脳の前頭葉や側頭葉で、神経細胞が減少して脳が萎縮する病気です。萎縮の原因として、脳に異常なタンパク質が蓄積されることが分かってきましたが、まだ詳細なメカニズムは解明されていません。ピック病と呼ばれることもあります。
症状
アルツハイマー病では、初期から記憶力の低下(記憶障害)が目立ちます。特に最近の出来事についての記憶が著しく低下することが特徴です。アルツハイマー病は数年から十数年かけてゆっくりと進行し、日時や自分のいる場所が分からなくなったり(見当識障害)、物事の進め方や段取りを考えて行動できなくなったり(実行機能障害)します。さらに、不安、幻覚、妄想、うつ症状などの心理症状、不穏、興奮、暴言・暴力、徘徊(はいかい)などの行動症状も見られるようになります。
血管性認知症では、症状がまだらに現れる「まだら認知症」が特徴で、周囲の人が気づかないうちに進行していることがあります。
レビー小体型認知症では、多くの場合、手足が震えたり歩幅が小刻みになったりするパーキンソン症状を伴うこと、実際にはいない人などが見える「幻視」が現れるのが特徴です。
前頭側頭葉変性症は、感情の抑制ができなくなったり、社会のルールを守れなくなったりといった症状が特徴です。
検査・診断
認知症が疑われるときには、以下のような検査を実施します。
認知機能検査
記憶、注意、計算、言語などの認知機能を調べるための検査です。長谷川式認知症スケール(HDS-R)やミニメンタルステート検査(MMSE)などで評価を行います。
血液検査
ホルモン異常、ある種のビタミンや葉酸などの栄養不足、肝臓や腎臓の病気、感染症などによって認知機能が低下することがあります。それらを血液検査によって調べます。
画像検査
脳の状態を調べるために、頭部CT検査、MRI検査などを行い、脳の萎縮や梗塞、出血などの異常がないかを確認します。
治療
残念ながら、認知症を完全に治す方法はまだありません。しかし、症状を軽くし、進行を遅らせることは可能です。
アルツハイマー病やレビー小体型認知症などでは、残っている神経細胞を活性化して症状を改善させる治療薬を使用します。また、回想法や音楽療法、運動療法などのリハビリが有効とされています。
血管性認知症では、脳血管障害の原因となる高血圧、糖尿病、脂質異常症などの病気をコントロールし、脳血管障害の再発を防ぐことが重要です。
周辺症状は不安や恐怖感などから引き起こされることも多く、慣れた環境に戻したり、接し方を変えたりすることで改善することがあります。場合によっては、症状を軽減させる薬物(精神科の薬など)の投与を行うこともあります。
認知症は早期に発見し、適切な治療を開始することが大切です。まずはかかりつけ医に相談し、もの忘れ外来や認知症外来などがある専門医療機関を受診することが重要です。
更新:2022.08.22