基礎情報

概要

加齢黄斑変性とは、網膜の中心部にある黄斑(おうはん)という組織が変性し、視力の低下を引き起こす疾患です。かつてはアメリカに多く、日本では比較的少ないとされていましたが、近年は国内の患者数が増加の傾向にあります。

九州大学大学院が行った、福岡市に隣接する久山町(ひさやままち)の住民を対象とした1998年と2007年の調査を比較すると、50歳以上の加齢黄斑変性の患者数は、9年で約2倍に増加しています。調査地に久山町が選ばれたのは住民の年齢・職業の分布が全国平均とほぼ同じだからです。このことから、久山町の調査結果を全国に当てはめると、2007年の推定患者数は約69万人ということになります。高齢化のスピードが著しい日本では、今後さらなる患者数の増加が予想されます。2013年、再生医療への応用が期待されたiPS細胞(人工多機能幹細胞)の初めての臨床試験に加齢黄斑変性が選ばれたのも、今後の患者数増加を見込んでのことと推察されます。

原因と症状

眼の組織は、水晶体をレンズに、網膜をフィルムに例えられます。視神経が集中している網膜の中心部が黄斑で、中央には中心窩(ちゅうしんか)と呼ばれる直径2mm程度の浅い凹みがあります。視力検査の「視力」とは、この中心窩の「視(み)る力」を指します。

加齢黄斑変性は、黄斑の変性原因によって、2つのタイプに分けられます。

加齢黄斑変性の種類

黄斑の組織が加齢とともに萎縮するタイプを萎縮型(または非滲出型〈ひしんしゅつがた〉)といいます。このタイプの進行は遅く、萎縮部分が中心窩に及ばなければ深刻な視力障害には至りません。

もう1つは滲出型で、国内では患者の多くがこのタイプです。滲出型の原因は、正常な網膜には存在しない異常な血管=新生血管の発生です。新生血管は、網膜の外側で発生し、網膜の中で成長します。その血管壁は非常にもろいため、血液や成分が漏れ出し、それによって黄斑に障害が起こります。

黄斑組織がダメージを受けると、ものがゆがんで見える、視野の中心が暗くなる・欠ける、視力が低下するなどの症状が現れます。こうした症状を自覚したら、即座に眼科を受診して検査を受けましょう。

検査

診断に向けては、自覚症状や喫煙習慣、ほかの疾患などについて聞き取る問診に始まり、「視力検査」、網膜の状態を詳しく観察する「眼底検査」、格子状の図を見て、中心がゆがんだり、欠けたりしていないか調べる「アムスラー検査」、蛍光色素の入った造影剤を腕の静脈に注射して新生血管を観察する「蛍光眼底造影検査」、黄斑部の断面を調べる「光干渉断層計(OCT)検査」を行います。

アムスラー検査は、加齢黄斑変性の特徴的な検査ですが、自己診断にも有効です。

A4程度の紙に定規で1㎝間隔の格子を書き、中央に黒点を書き込み、30㎝程度の距離を置いて片目ずつチェックしてみましょう。

図
図:アムスラー検査での加齢黄斑変性の代表的な症状

治療

萎縮型の場合は特に治療は行われませんが、滲出型に移行する場合があるので、定期的に観察することが必要です。

滲出型の治療の中心となるのが、薬物療法、レーザー光凝固、光線力学的(こうせんりきがくてき)療法です。

薬物療法では、新生血管の成長を促す「血管内皮増殖因子(VEGF)」の働きを抑える抗VEGF薬を眼球に注射します。4週ごとに3回注射し、その後も経過を観察しながら長期的に治療を継続します。

薬物療法と組み合わせて行われるのが、光線力学的(こうせんりきがくてき)療法です。光に集まる性質を持つ薬剤を肘(ひじ)の静脈から点滴し、薬剤が新生血管に到達した時点で、弱いレーザーを当てて、血管を閉塞させる治療です。標的にのみレーザーを当てるので周辺組織への影響はほとんどありませんが、治療後48時間以内に強い光に当たると光線過敏症などの合併症が起こることがあるため注意が必要です。

新生血管が中心窩から離れた場所にあるときに適用になるのがレーザー光凝固です。レーザーを当てることで血管は破壊されますが、周辺組織を傷つけてしまうというマイナス面もあります。

予防

喫煙が発症の危険因子であることが世界各国の調査研究で明らかになっています。緑黄色野菜や魚を中心とした食事やビタミンC、ビタミンE、βカロテン、亜鉛などを含んだサプリメントの有効性も報告されています。

禁煙とバランスの取れた食生活、網膜を紫外線から守る生活習慣を取り入れることが、加齢黄斑変性の予防につながります。

更新:2022.07.25