基礎情報

概要

常に体重を支えている膝(ひざ)は、体を動かすために重要な部位で、大腿骨(だいたいこつ)、脛骨(けいこつ)、腓骨(ひこつ)、膝蓋骨(しつがいこつ)の4つの骨で構成されています。膝には、関節が曲がったり外れたりしないよう固定する働きを持つ靱帯(じんたい)と筋肉、関節の動きを滑らかにする滑液(かつえき)を分泌する滑膜(かつまく)、骨と骨の連結部分にある関節軟骨や半月板があります。関節軟骨と半月板は、骨と骨が直接ぶつからないようにクッションのような役割をします。膝の痛みは、こうした膝の組織が損傷することによって起こるものと、ほかの病気によって起こるものがあります。

図
図:膝の構造

原因

膝の痛みのもっとも大きな原因となるのは、変形性膝関節症(へんけいせいしつかんせつしょう)です。膝の軟骨がすり減り、強い痛みを感じる病気で、高齢になるほど罹患率が高いといわれています。外傷や肥満、膝の使い過ぎも原因になりますが、加齢による劣化が多くを占めています。高齢の女性によく見られるのは、筋肉量が男性に比べて少ないことに加えて、閉経後の骨粗鬆症による骨量の減少が関係しているようです。

膝の痛みの原因となるほかの病気には、以下のものがあります。

半月板損傷

半月板に損傷を起こすと、膝を動かしたときに引っかかるような違和感が生じたり、強く曲げたときに激しい痛みを感じたりします。最近、中高年(50~60歳代)の女性によく発生し、急激に膝関節の機能の悪化を招く半月板の特殊な断裂を原因とする、内側半月板後根断裂(ないそくはんげつばんこうこんだんれつ)が増加傾向にあります。階段を踏み外したり、段差を飛び越えるなどしたときに膝の裏側に痛みが生じるのが特徴です。

前十字靱帯損傷(ぜんじゅうじじんたいそんしょう)

ジャンプして着地したとき、スポーツなどで急に左右に膝をひねったときなど、大きな衝撃を受けると損傷します。靱帯の断裂によって、膝が抜けるような感覚を起こし、放置すると変形性膝関節症を併発して、進行を早めます。

大腿骨顆部骨壊死(だいたいこつかぶこつえし)

膝関節の上に接している、大腿骨のふくらんでいる部分が壊死する病気です。骨の一部が陥没し、激しい痛みが起こります。就寝時など、安静にしているときにも痛みます。

関節リウマチ

自己免疫疾患と呼ばれる病気の一つです。免疫の異常によって全身の関節が破壊されていきます。

痛風(つうふう)

血液中の尿酸が過剰にたまって、関節に炎症が生じる病気です。通常、足指の付け根に激しい痛みを感じますが、膝関節にも痛みが起こります。

症状

歩くときに痛い、膝を深く曲げられない(正座できない)、動き始めるときに痛い、階段の上り下りの際に痛みがある、と感じたら、変形性膝関節症の疑いがあります。軟骨がすり減っている場所や程度によって症状は違い、例えばO脚の場合、膝の内側に負荷がかかるため、膝関節の内側が痛みます。

変形性膝関節症が進行すると、膝を動かせる範囲が狭くなっていき、激痛で歩行が困難な状態になります。また、患部に熱を帯びているときは、関節リウマチ痛風による炎症を起こしている可能性があります。

検査と診断

問診によって、膝のどの部分がどのように痛いのか、どんなときに痛いのか、いつから症状を感じているのかに加え、現在までにかかったことのある病気や、服用している薬などを明らかにします。次に、膝を実際に触って、熱があるかどうか、水がたまっているかどうか、動く範囲はどのくらいか、押してみて痛いかどうかを調べ、関節リウマチが疑われる場合には、血液検査や関節液検査を行います。

膝関節の状態は、X線検査によって調べます。骨の部分がすり減っているかどうかはX線検査でわかりますが、半月板や靱帯を詳しく調べるには、MRI検査が必要になります。

治療

膝の痛みを治すには、膝に負担のかからない姿勢を心がける、強い痛みを感じるような動きを控える、適正な体重を保つといった日常生活の改善が第一歩です。散歩や水中ウォーキングなど、膝に負担のかからない運動や、軽い筋トレも効果的です。それでも痛みが治まらないときは、鎮痛剤などの薬物療法、リハビリテーションや温熱によって痛みを和らげる理学療法を行います。膝関節への潤滑剤の役割をするヒアルロン酸の注射によって、炎症が治まり、痛みが軽減するケースも多く見られます。痛みが強い場合は、神経ブロックという、麻酔薬の注射を行うことがあります。

変形性膝関節症の手術

痛みによって日常生活に支障が出る場合には、画像診断の結果や患者さんの年齢などを考慮した上で、手術が検討されます。以前は、半月板損傷の治療には半月板部分切除術が選択されてきましたが、半月板はできる限り温存するという考え方が定着しつつあります。そのため、損傷した半月板を可能な限り縫い合わせて修復する半月板縫合術を行うケースが増えています。手術方法の工夫や器具の進歩によって、修復が困難とされていたケースでも縫合して修復できるようになりつつありますが、そのためには、やはり早期診断と早期治療が鍵となってきます。

軽度から中程度の場合は、関節鏡視下手術(内視鏡を膝に入れて、変形した滑膜や軟骨をきれいにする)や高位脛骨骨切り術(膝関節の下にある脛骨の一部を切り取って、膝関節にかかる力が均等になるように調整する)が選択されるケースが多いようです。重度の場合は、人工膝関節置換術(変形した膝軟骨の表面を薄く削って、人工関節に置き換える)が検討されます。しかし、これはあくまでも目安であり、患者さん本人の意思や年齢、生活環境などにより、手術方法は変わってきます。医師の説明を受け、十分に理解した上で、治療法を選択することが重要です。

更新:2022.08.22