排尿障害
基礎情報
概要
尿は、体内で循環した血液が、腎臓で濾過(ろか)されて膀胱(ぼうこう)にたまり、尿道を通って排出されるものです。
膀胱は、尿がたまると膨らみ、尿を排出すると縮むという収縮を繰り返していて、普段は締まっている尿道括約筋が緩んで、膀胱から尿が排出される仕組みです。尿道括約筋は、脳からの指令や自律神経によってコントロールされています。
排尿機能が正常なときは、一定量を超える尿が膀胱にたまったら尿意を感じて、違和感なく排尿でき、尿意を感じてからも、ある程度の時間は我慢できます。
尿を膀胱にためる機能を蓄尿(ちくにょう)、尿を膀胱から排出する機能を排尿(はいにょう)といい、排尿障害は、この機能が低下して起こり、高齢になるほど起こしやすくなります。
症状
排尿機能は加齢とともに低下するため、男女ともに中高年になると、以下にあげるような排尿障害の症状を訴える人が多くなります。生命に危険を及ぼすものではありませんが、放置すると日常生活に支障をきたし、次第に生活の質を低下させていきます。中には重大な疾患のサインとなる症状もありますから、少しでも違和感を感じたら、恥ずかしいと思わずに早めに医療機関を受診することが、症状の改善には有効です。
蓄尿症状
- 尿意切迫感:突然、強い尿意を感じる
- 頻尿(ひんにょう):頻繁に尿意を感じる
- 夜間に尿意を感じて起きてしまう
- 尿失禁:尿意を感じてから排尿が間に合わずに、漏れてしまう
- 腹圧(ふくあつ)性尿失禁:咳(せき)やくしゃみなど腹部に力が入ると、漏れてしまう
排尿症状
- 尿が出にくい
- 腹部に力を入れないと尿が出ない
- 尿の勢いが弱い
排尿後症状
- 残尿感(ざんにょうかん):尿を出しきれず残った感じがする
- 排尿後尿滴下(はいにょうごにょうてきか):出した後に漏れてしまう
原因
排尿障害でもっとも多い原因は過活動膀胱という病気で、40歳以上の8人に1人にこの病気があるといわれるほど、多くの人が悩んでいます。排尿する仕組みには、たくさんの神経、筋肉が連動しています。その仕組みのどこかに障害が起こると、過活動膀胱になります。
過活動膀胱
男性に比べると、女性の方が尿道が短く、筋力が弱いので尿失禁を起こしやすいのですが、出産や加齢によって、骨盤底筋と呼ばれる、骨盤の中で臓器を支える筋肉がさらに弱くなり、尿道や膀胱が支えられず、尿漏れや頻尿などを起こしやすくなります。
一方、男性は、前立腺の肥大によって尿道が圧迫され、頻尿や尿が出にくいなどの症状を起こします。
また、男女ともに生活習慣病や加齢によって、膀胱の血流障害を起こすと、筋肉の収縮がうまくできなくなります。骨盤内臓器の手術後や、出産後の骨盤底筋の損傷で起こることもあります。
過活動膀胱以外の原因
膀胱や尿道が十分に働かなくなる低活動膀胱、脳卒中、パーキンソン病などの脳や神経の障害、脊髄損傷(せきずいそんしょう)、多発性硬化症(たはつせいこうかしょう)、脊柱管狭窄症(せきちゅうかんきょうさくしょう)、糖尿病、ストレスなどによる心因性頻尿が原因となります。
診断
問診、尿検査、血液検査、腹部エコー検査によって診断を行います。
また、一日の尿の記録をつけることが有効です。排尿障害の発症にはさまざまな原因が複合していることが多いため、排尿時刻、尿の量、尿意(強弱、突然起こったかどうかなど)、水分摂取量を詳しく調べることが、診断の際に大きな役割を果たします。
診断結果によって、さらに、排尿後の膀胱内の尿量を測定する検査、膀胱内圧検査、膀胱造影検査などが、必要に応じて行われます。
治療
生活習慣の見直し、筋力トレーニング、行動療法といった治療法があります。日々の生活に取り入れられる心がけですが、こうした治療法だけで十分に効果を発揮しますから、医療機関で診断を受け、専門医の指導の下に正しく行うことが重要です。
それでも効果が見られないケースには、薬物療法で対処します。難治性の場合には手術も選択肢の一つになりますが、排尿障害の原因や、患者さんの年齢によっては選択できないこともあります。
生活習慣の見直し
過剰な水分の摂取を避けます。寝る前の数時間は飲食を避けることも有効です。内臓脂肪や代謝の異常も膀胱に負荷がかかるため、バランスのとれた食生活を心がけ、規則正しい生活を送るとともに、運動習慣などを取り入れるのも効果的です。
筋力トレーニング
肛門や膣を締める運動を行って、弱った筋力を強化します。
行動療法
尿意を感じても5分間我慢して、その後10分、15分と徐々に我慢する時間を長くしていきます。ただし、前立腺肥大の場合にはこの療法は効果がありません。
薬物療法
過活動膀胱や前立腺肥大症に対しては、薬剤が効きます。下剤による便秘解消も効果があるようです。
手術
ほかの治療法で改善が見られない難治性の排尿障害の場合に検討します。前立腺肥大症や骨盤底障害など、原因となる病気に応じた手術法を適用します。過活動膀胱に対しては、仙骨神経刺激療法という術式が、2017年から保険適用になっています。これは、体内植込み型の刺激装置を臀部に植込み、排泄に関係する神経に持続的に電気刺激を与えて、過活動膀胱の症状改善を図るための治療法です。
更新:2022.05.16