空腸がん
概要
小腸とは、十二指腸、空腸、回腸のことを指します。胃と大腸の間にあり、約6~7mある臓器で食物を消化、吸収する役割があります。小腸がんのうち、およそ45%が十二指腸、35%が空腸、そして20%が回腸に発生するとされます。小腸がんは、患者数が少ない希少がんの1つで、人口10万人に対して1年間に新たに小腸がんを発症する人は、男性2.61人、女性1.77人という推計値もあります。同じ消化器の胃がんや大腸がんと比べると、とても少ないのは、小腸が胃と大腸の間に存在するため、細菌やウイルス、飲食物などによる外からの刺激を受けにくい臓器であることが原因として考えられます。また、早期発見が難しいとされるのは、胃や大腸に対する通常の内視鏡検査では観察が不可能である点が原因で、大半の患者さんは、便潜査陽性や貧血の進行、腸の狭窄による腹痛や腸閉塞といった症状を契機に、進行した状態で発見されることが多く見られます。
小腸がんのタイプで多いのが、神経内分泌腫瘍と腺がんです。神経内分泌腫瘍は、小腸の粘膜に存在し、消化を助けるためのさまざまなホルモンを分泌している内分泌細胞から生じるがんで、腺がんは小腸の表面・粘膜の層から生じるがんです。神経内分泌腫瘍は、「NET」と、悪性度がより高い「NEC」の2つに大きく分かれ、特徴や治療法が大きく異なります。
小腸がんは、多くの場合、早期においては無症状です。進行すると、腹痛や腹部膨満感(お腹が張った感じ)、悪心や嘔吐、がんからの出血に伴う症状(貧血、便に血が混じる)などが起こります。また、十二指腸がんの場合、がんが胆汁の出口を塞いでしまうことによる黄疸おうだん(皮膚や体の組織が黄色になること)が起こることがあります。
NETは、ほかのがんに比べて進行が緩やかであること、また一部の患者さんに、腫瘍が分泌するホルモンによって、ホルモン産生症状が現れることが特徴です。ホルモン産生症状とは、血管に作用するセロトニンなどのホルモンが過剰に分泌されることで起こる症状で、顔の紅潮やほてり、下痢や腹痛などさまざまな症状があります。また、肝臓に転移しやすいため、その場合は肝機能の数値の異常をきっかけに見つかることもあります。
一方、NECは、悪性度が高く腫瘍が大きくなるスピードが速いため、多くの場合進行した段階で見つかります。また、腫瘍が小さいうちからほかの臓器に転移してしまうことが珍しくありません。ホルモン産生症状が起こることはまれです。
腺がんは、初期には症状が現れにくく、進行することによって起こる腸閉塞や、下血、貧血などをきっかけに発見されるケースが多く見られます。悪性度が高く、約半数の患者さんが、診断時にすでにほかの臓器へ転移しているとされています。小腸がんの中でも腺がんは、非常に情報が少ないために治療法が確立していないため、課題の多いがんといわれています。
原因
小腸がん全体の原因はいまだ解明されていません。ただし、腺がんのリスク因子としては、クローン病や潰瘍性大腸炎などの自己免疫疾患、家族性大腸腺腫症などの腸に炎症が起こる病気や、腸に無数のポリープができるポリポーシス、腸からの栄養の消化・吸収がうまくいかなくなる吸収不良症候群、大腸がんなどを発症しやすい遺伝性の病気であるリンチ症候群といった病気があると、発症リスクが高くなるとされています。
検査・診断
通常の内視鏡では観察ができないため、カプセル内視鏡による検査を行います。さらに、小腸がんが強く疑われる場合にはダブルバルーン内視鏡による観察や組織の採取を行います。内視鏡検査の結果、NETの疑いが強い場合には、ソマトスタチン受容体シンチグラフィーなどの検査が行われます。
カプセル内視鏡検査
小型カメラが付いたカプセルをのみ込み、4時間から8時間かけて小腸を通過していく間の映像を記録します。カプセル内視鏡の検査は、がん専門病院や大学病院などで受けることができます。
ダブルバルーン内視鏡検査
2つのバルーンを膨らませる特殊な内視鏡を小腸に入れて病変を観察する方法で、カプセル内視鏡で病変が見つかった場合に行われます。腫瘍の組織を採取して、がんのタイプ・悪性度などを診断できます。
ソマトスタチン受容体シンチグラフィー検査
NETの場合、腫瘍の細胞にソマトスタチンというホルモンに対する受容体が現れます。その仕組みを利用した検査を、ソマトスタチン受容体シンチグラフィーといいます。ソマトスタチンに似た構造の薬を注射して、それを画像に映し出し、その位置や大きさを調べます。
治療
NETに対する治療
ほかの臓器への転移がなければ、外科手術が行われ、がんとその周囲のリンパ節を含めて切除します。腫瘍が小さい場合は、内視鏡で行われることもあります。手術でがんが取りきれない場合は、薬による治療が中心となります。
NECに対する治療
病気の初期からほかの臓器に転移している可能性が高いため、抗がん剤による治療が基本になります。がんの広がりが小腸とその周囲のリンパ節のみに限られている場合は、手術と抗がん剤を組み合わせた治療が行われます。
腺がんに対する治療
がんの深さや転移の有無などによって治療法が異なります。がんが比較的浅い部分にあり、小腸の入り口部分である十二指腸で内視鏡が届く範囲にある場合は、内視鏡による切除が行われることがあります。内視鏡が届かない範囲や、深いところに入り込んでいる場合には、がんの周囲のリンパ節も含めて外科手術で切除します。がんがほかの臓器に転移している場合は、手術は行わず、抗がん剤による治療が中心となります。
更新:2022.08.22