下垂体機能低下症
概要
下垂体機能低下症(かすいたいきのうていかしょう)は、脳の下の方にある下垂体(※1)が何らかの理由でうまく働かず、必要なホルモンを十分に作り出せなくなる状態を指します。
下垂体は、脳の底部にあるわずか1cmほどの小さな器官ですが、「ホルモンの司令塔」として、甲状腺や副腎、性腺などの他の臓器に命令を出し、全身の機能をコントロールしています。そのため、下垂体の機能が低下すると、連鎖的に全身のホルモンバランスが崩れてしまいます。成長や代謝(※2)、ストレスに対する反応、性ホルモンの調整などに影響し、子どもの場合は身長が伸びにくくなるなどの成長障害が出ることもあります。
世界的には比較的まれな病気ですが、日本を含め、どの年代にも起こり得ます。原因によっては早期に発見・治療することで症状を抑えられることも多いため、気になる症状がある場合は医療機関での検査をおすすめします。
※1:ホルモンを分泌する重要な器官
※2:食べ物からエネルギーを作る働き
下垂体機能低下症の原因
下垂体機能低下症の原因はさまざまですが、主に以下のようなものが考えられます。
- 1.下垂体の腫瘍(しゅよう)
- 良性のものも悪性のものも含まれます。腫瘍が大きくなると下垂体を圧迫し、ホルモンを作り出す働きが弱まる場合があります。
- 2.頭部外傷や脳の手術
- 転倒や事故などによる激しい頭部外傷や、脳や下垂体付近の手術によって、下垂体が傷つくことがあります。
- 3.炎症や免疫の異常
- 下垂体やその周囲の組織が炎症を起こしたり、自己免疫反応(※3)が起こったりすることで、下垂体の細胞がダメージを受ける場合があります。
- 4.血流障害
- 出産時などに大量に出血して血圧が極端に下がると、下垂体に十分な血液が届かなくなり、組織が壊れることがあります(シーハン症候群(産後に起こる下垂体の障害))。
- 5.先天的原因
- 生まれつき下垂体が小さい、あるいは正常に発達しないなどの理由でホルモン分泌が不十分になることがあります。
原因が特定できない場合もあり、そのようなときは特発性(※4)と呼ばれます。
※3:自分の体を異物とみなして攻撃してしまう反応
※4:原因不明のこと

下垂体機能低下症の症状は、どのホルモンがどれくらい不足しているかによって異なります。主に見られる症状としては、以下のようなものがあります。
- 成長ホルモン不足:子どもの場合、身長が伸びにくくなる。大人では筋力が低下し、疲れやすくなる。
- 副腎皮質刺激ホルモン不足:疲労感が強くなり、血圧が下がりやすく、ストレスに弱くなる。極端に不足すると血圧低下や意識障害を起こす『急性副腎不全(副腎クリーゼ)』に陥り、命に関わることがあります。強い吐き気や激しい倦怠感が出た場合は、直ちに医療機関を受診してください。
- 甲状腺刺激ホルモン不足:寒がりになったり、体重が増えやすくなったり、皮膚が乾燥したりする。
- 性腺刺激ホルモン不足:女性では月経不順や月経が止まる、男性では性欲が低下する。
- プロラクチン(※5)不足:産後の母乳分泌が減る。
- バゾプレシン(※6)不足:尿がたくさん出る(尿崩症(にょうほうしょう))ことがある。
これらの症状はゆっくりと進行することもあれば、原因によっては急に現れる場合もあります。症状があいまいでほかの病気と似ていることがあるため、注意が必要です。
※5:母乳を出すためのホルモン
※6:抗利尿ホルモン
下垂体機能低下症の検査・診断
下垂体機能低下症の疑いがある場合、医療機関では以下のような検査が行われます。
- 1.血液検査
- 血液中のホルモン濃度を測定します。成長ホルモンや副腎皮質刺激ホルモン、甲状腺刺激ホルモン、性ホルモンなどが基準値より低いかどうかを調べます。
- 2.刺激試験
- ある種の薬剤を使って、下垂体や副腎などがどれくらいホルモンを作れるかを調べる検査です。たとえば成長ホルモン刺激試験や副腎皮質刺激試験などがあります。
- 3.画像検査
- MRIなどで脳の下垂体の様子を確認します。腫瘍や損傷の有無、炎症などがないかをチェックします。
- 4.その他の検査
- 必要に応じて、視野検査や頭部CTなどを行うこともあります。
これらの検査結果を総合的に評価し、どのホルモンが不足しているか、原因は何かなどを調べて診断を行います。
下垂体機能低下症の治療
下垂体機能低下症の治療は、不足しているホルモンを薬で補う「ホルモン補充療法」が中心となります。また、腫瘍が原因の場合は、腫瘍を取り除く手術や放射線治療が検討されます。主な治療法は以下のとおりです。
- 1.ホルモン補充療法
- 副腎皮質ホルモン:副腎(※7)の働きをサポートするためにステロイド薬を使います。
- 甲状腺ホルモン:甲状腺機能を補う薬を服用します。
- 性ホルモン:女性にはエストロゲン、男性にはテストステロンの補充が行われます。妊娠を望む場合は、排卵誘発薬なども検討されます。
- 成長ホルモン:成長期の子どもや必要がある大人には、成長ホルモンの注射での補充が行われます。
- 2.手術・放射線治療
- 下垂体に腫瘍がある場合は、脳神経外科や耳鼻咽喉科などの専門医と相談し、手術で取り除くか、放射線を当てて小さくする治療を検討します。
ホルモン補充療法は、適切な量を保つために定期的な検査と診察が必要です。自己判断で薬の量を変えると症状が悪化する恐れがあるため、医師の指示に従いましょう。
本疾患は厚生労働省の『指定難病』に定められており、重症度などの条件を満たせば医療費助成を受けられる可能性があります。
※7:ストレス対応などを担う臓器
下垂体機能低下症の合併症
下垂体機能低下症が治療されずに放置されると、以下のような問題が起こる可能性があります。
- 副腎不全:副腎がホルモンを十分に作れず、低血圧や重度の疲労、ショック状態などを引き起こすことがある。
- 重度の甲状腺機能低下:体温調整や代謝が大きく乱れ、心拍数の低下、むくみなどを招くことがある。
- 性ホルモンの低下による骨粗しょう症(こつそしょうしょう):骨が弱くなって骨折しやすくなるリスクが高まる。
適切な時期に治療を受けることで、これらの合併症を予防・軽減できる場合が多いです。
下垂体機能低下症の予防
下垂体機能低下症を完全に防ぐ方法はありませんが、頭部外傷を避けるよう注意する、早期に腫瘍を発見するなどでリスクを減らすことは可能です。定期的な健康診断や、何らかの症状が出たときに早めに医療機関へ相談することが大切です。特に女性の場合、出産に関する異常出血があったときは、産後の体調変化にも注意して早めに受診しましょう。
更新:2026.05.13
