あるこーるいぞんしょう

アルコール依存症

概要

アルコールは程よい高揚感などをもたらしてくれますが、麻薬と共通する作用がある依存性薬物の一種です。長期間にわたってアルコールを大量に摂取し続けることで脳に異常が起こり、アルコールを摂取せずにはいられない状態に陥ります。そして飲むのはよくないと分かっていても、自分でお酒の飲み方をコントロールできなくなってしまいます。これがアルコール依存症です。

厚生労働省の患者調査によると、2017年にアルコール依存症の治療を受けている総患者数は4.6万人と推計されています。しかし、専門的な治療を受けている人は5%程度に過ぎず、実際にはアルコール依存症の人は100万人以上いるといわれています。

近年、国内のアルコール消費量は減少傾向にあり、とくに若い世代では習慣的に飲酒する人は減ってきています。その一方で、コロナ禍でそれまであまり飲まなかった人が依存症に陥るということも問題になっています。できるだけ症状の軽いうちに専門医療機関を受診し、回復をめざすことが重要です。

原因

アルコール依存症になる人は、意志が弱くてだらしないといったイメージで見られることがありますが、そんなことはありません。アルコール依存症は、習慣的に多量飲酒をしていれば誰でもなる可能性があるのです。アルコール依存症になってしまうのは、長期間にわたる飲酒によりエチルアルコールという依存性薬物を過剰に摂取してきたことが原因です。

アルコールは適量であれば、深刻な健康被害を引き起こすことはありません。しかし、大量に摂取し続けると、アルコールが常に体内に存在することが正常な状態と認識され、脳の神経細胞の性質が変化していきます。そして、さまざまな離脱症状やアルコールへの強烈な欲求が現れます。

多量飲酒をする人のほか、生まれつきアルコールを分解する能力が高い人、未成年から飲酒を始めた人などは、アルコール依存症になりやすいといわれています。そのほか、精神的な苦痛を和らげようと飲酒をするうち、飲酒量が増えてアルコール依存症につながることもあります。

症状

アルコール依存症の症状は、精神面なものと身体面なものがあります。血液中のアルコール濃度が低下すると、イライラ感、集中力の低下、幻覚・幻聴、不眠などの精神的な症状、手や全身の震え、動悸(どうき)、発汗、吐き気、頭痛などの身体的な症状が現れます。これらは離脱症状と呼ばれ、その不快感から逃れるために、さらにアルコールを飲み続けることになってしまいます。重篤な場合は、幻覚や幻聴、痙攣(けいれん)発作などが生じて命を脅かすこともあります。

また、アルコールへの欲求が過剰に高まると、朝から飲酒をする、仕事中に隠れて飲酒をするなど社会生活に支障をきたすこともあります。その結果、仕事や人間関係のトラブル、家庭崩壊、飲酒運転などさまざまな問題を引き起こし、社会的に孤立してしまい、さらなる飲酒行動につながるといった悪循環に陥るケースも珍しくありません。

さらに依存状態が重度になると、体内にアルコールが存在しない時間を作ることができない連続飲酒と呼ばれる状態に陥ります。そのような状態では、肝臓や脳などにも大きなダメージを生じやすくなります。

検査・診断

アルコール依存症は、日頃の飲酒量や飲酒にまつわる行動などを総合的に判断したうえで診断が下されます。受診には、その人の普段の状況をよく知る家族などの協力が不可欠です。

日本では主にWHO(世界保健機関)が作成した診断基準(ICD-10)が使われており、①飲酒への渇望、②飲酒コントロール喪失、③耐性、④離脱症状、⑤飲酒中心の生活、⑥否認のうち、過去1年間に3項目以上を同時に満たす場合を依存症と診断しています。

アルコール依存症になると、大量のアルコール摂取による肝臓や脳への障害、栄養失調といった問題を抱えやすいため、必要に応じて血液検査、画像検査などを行い、体の状態を調べることもあります。

治療

アルコール依存症の治療の目標は断酒(アルコールを一切断つこと)ですが、軽症で合併症がない場合は飲酒量の低減を目標とすることもあります。治療の方法としては、正しい知識を身につけ、これまでの生活や考え方を振り返り、対処方法を続けられるようにするための心理・社会的治療が中心となります。カウンセリングを受けたり、誤った飲酒行動を正すための認知行動療法を実施したり、同じアルコール依存症を抱える人たちの自助グループや断酒会などに参加したりすることも効果的と考えられています。

補助的に薬物療法も行われることが多く、初期には離脱症状を緩和するための抗不安薬を投与します。離脱症状が落ち着いた後は、アルコールを摂取すると不快になる抗酒剤や、飲酒欲求を抑える断酒補助剤を使うこともあります。

日本人には、もともとお酒が弱い人が多いことが分かっています。適量とされている1日当たりの純アルコール量は、成人男性で1日約20g、女性はその半分程度です。お酒が好きな人にとっては物足りないかもしれませんが、適量を楽しむことを心がけましょう。

図
図:純アルコール量算出方法

更新:2022.05.16