ALS
概要
筋萎縮性側索硬化症(きんいしゅくせいそくさくこうかしょう)(ALS)は、体を動かすための神経細胞である、運動ニューロンに障害が起こり、筋肉が徐々に衰えていく病気で、国の指定難病となっています。最初は手足や喉の筋肉が動かしにくくなることから始まり、進行すると呼吸に必要な筋肉にまで影響が及ぶ場合があります。ALSは現在の医療では完治が難しいとされています。しかし、進行をゆるやかにし、症状による負担を軽くする治療法がいくつか開発されています。適切な治療やケアを行うことで、生活の質をできるだけ高く保ちながら過ごすことも可能です。
ALSの原因
ALSの原因は、いまだ完全には解明されていません。以下のような要因が関係していると考えられています。
- 1.遺伝子(※1)
- ALS患者のおよそ一部は家族性ALSと呼ばれ、遺伝子変異が関わっています。このタイプのALSでは、特定の遺伝子に異常があるケースが多いとされています。
- 2.環境要因
- 農薬や特定の化学物質への長期間の暴露(ばくろ)(※2)、激しい運動歴など、生活環境や習慣が原因として疑われる例もあります。しかし、これらははっきりした証拠が十分に得られていないため、まだ研究中です。
- 3.異常なタンパク質の蓄積
- 脳や脊髄で、本来分解されるべきタンパク質が蓄積して神経細胞を傷つける可能性が指摘されています。こうしたタンパク質の異常も、遺伝や環境要因によって引き起こされると考えられています。
多くの研究者がこれらの要因が複雑に絡み合って発症すると考えていますが、依然としてはっきりとした答えは出ていません。
※1:遺伝情報をつかさどる物質
※2:さらされること
ALSの症状
ALSで見られる症状は、運動ニューロン(※3)が徐々に壊れていくことによって起こります。以下のような経過をたどることが多いですが、個人差があります。
- 1.手足の筋力低下
- はじめは片側の手や腕、足が動かしにくくなり、つまづいたり、箸やペンを持つ、ボタンを留めるなど細かい動作がしづらくなります。その後、両側に広がっていくことが多いです。
- 2.痙縮(けいしゅく)(※4)
- 痛みを伴う場合があるほか、つっぱり感などを感じることがあります。
- 3.構音障害
- のどや口の筋肉がうまく働かなくなるため、ろれつが回りにくくなったり、声が出しにくくなったりします。
- 4.嚥下(えんげ)障害
- 食べ物や飲み物がうまく飲み込みにくくなり、むせやすくなります。
- 5.呼吸困難
- 進行すると、呼吸をつかさどる筋肉も弱くなる場合があり、呼吸が苦しくなることがあります。
これらの症状はゆっくり、または比較的速いスピードで進行し、個人差が大きいのも特徴です。
※3:筋肉や腺に対して運動指令を伝える役割を担う神経細胞のこと
※4:筋肉のこわばり

ALSの検査・診断
ALSの診断には、他の病気を除外する作業が欠かせません。そのため、さまざまな検査を組み合わせて行います。
- 1.神経学的診察
- 医師が筋力や反射を調べ、筋肉の萎縮(※5)や力の入りにくさ、線維束性収縮(※6)などを確認します。
- 2.筋電図検査(EMG)
- 電極を筋肉に刺したり皮膚に貼ったりして、筋肉や神経の電気的活動を調べます。ALSでは運動ニューロンの変性に伴う特徴的な所見が見られることがあります。
- 3.神経伝導速度検査(NCS)
- 末梢神経(※7)の伝導速度や信号の大きさを測定することで、どの部分に問題があるのかを調べます。
- 4.MRI検査
- 脳や脊髄の画像を撮影し、他の病気(たとえば脳梗塞や頸椎症など)が原因ではないかを確認します。
- 5.血液検査・髄液検査
- ビタミン不足や、感染症による症状ではないかを確認するために行われます。
ALSは血液などで簡単に測定できる生体マーカーがまだ確立されていません。そのため、複数の検査結果と症状から総合的に診断が下されます。
※5:筋肉がやせ細ること
※6:筋肉のピクつき
※7:手足に伸びる神経
ALSの治療
ALSを完全に治す方法は現時点で確立していません。しかし、症状の進行を少しでも遅らせたり、QOL(生活の質)を高めるための治療法がいくつかあります。
- 1.薬物療法
- リルゾール(リルテック):ALSの進行をわずかに遅らせるとされる薬です。運動ニューロンを傷つけるグルタミン酸(※8)の作用を抑える効果があると考えられています。
- エダラボン:神経細胞を酸化ストレス(※9)から保護することで、病気の進行を抑制する可能性がある薬です。
- 2.リハビリテーション
- 筋力を保ち、関節が固くならないようにするため、理学療法士や作業療法士の指導のもとで適切な運動やマッサージを行います。ただし、過度な運動はかえって負担になることがあります。
- 3.呼吸管理
- 進行して呼吸が苦しくなってきた場合は、在宅酸素療法(酸素吸入)や非侵襲的陽圧換気(NPPV)(※10)などでサポートします。重症化すると気管切開(※11)を行うこともあります。
- 4.栄養管理
- 嚥下障害(えんげしょうがい)(※12)があると、栄養不足になりがちです。医師や管理栄養士と相談しながら、食事の形状を工夫したり、経管栄養(※13)を行うことがあります。
- 5.コミュニケーション支援
- 話しづらくなったり、声が出しにくくなる場合には、パソコンやスマートフォンを使った会話支援装置を利用することが有効です。
※8:脳内の神経伝達物質
※9:酸素による細胞へのダメージ
※10:気管挿管を行わずにマスクなどを使い陽圧で呼吸を補助する方法
※11:気管に穴を開けてチューブを入れる処置
※12:飲み込みにくさのこと
※13:チューブで栄養を補給する方法
ALSの合併症
ALSそのものが引き起こす合併症として、呼吸不全や誤嚥(※14)による肺炎が挙げられます。誤嚥性肺炎は特にリスクが高いため、食べ物の形状や口腔ケアに注意が必要です。
また、病気の進行による長期的な介護や不自由さから、抑うつ状態(※15)になることもあります。医療スタッフや家族が連携し、患者本人の心のケアにも配慮することが大切です。
※14:飲食物が気管に入ること
※15:精神的に落ち込み、無気力になる状態
ALSの予防
ALSを確実に防ぐ方法はまだ見つかっていません。原因が多岐にわたることや、発症メカニズムが完全には分かっていないことなどが理由です。ただし、次のようなポイントが研究では注目されています。
- 適度な運動習慣
- 極端な負荷をかける運動ではなく、ウォーキングなど軽い有酸素運動を続けることで、体全体の健康維持に努めることが推奨されています。
- 栄養バランスの良い食事
- 抗酸化作用のある食品(たとえば緑黄色野菜や果物)をとり入れたり、たんぱく質や良質な脂質の不足を避けるように心がけます。
- ストレス管理
- ストレスが続くと免疫力の低下が起こるといわれています。ストレスをためこまない生活習慣をつくることも大切です。
これらの取り組みが直接ALSを予防する証拠はまだ十分ではありませんが、健康全般によい習慣として推奨されることが多いです。
更新:2026.02.04
