本態性振戦
概要
本態性振戦(ほんたいせいしんせん)は、手や腕、場合によっては頭や声などに小刻み振戦というふるえが起こる病気です。脳や神経の働きに何らかの原因があると考えられていますが、明確に原因を断定できていないのが特徴です。加齢にともなって発症しやすくなる傾向があり、日本においては、高齢化の進行によって将来的に患者数が増える可能性が指摘されています。高齢者では手のふるえを自覚する人が増えるとされ、そのうち一定数には本態性振戦が含まれるとみられています。本態性振戦は命にかかわる病気ではありませんが、コップを持つ、字を書く、料理をするなどの日常動作に支障が出る場合があり、生活の質(QOL)を下げる原因となります。周囲の目が気になって外出しづらくなるなど、心理的な負担が大きくなる人もいます。
本態性振戦の原因
本態性振戦は、脳の運動を調整する部分や神経のはたらきのわずかな乱れによって起こると考えられています。遺伝と関連があるケースも多く、家族のなかに同じような震えを持つ人がいる場合は発症リスクが高いことが知られています。
ただし、原因となる遺伝子が特定されているわけではなく、はっきりとした理由がわからないケースも少なくありません。脳の中で情報を伝え合う神経のつながりが、うまく働かなくなる状態が主な要因ではないかという説もありますが、個々の患者さんによって状況は異なるため、いまだ研究が続けられている段階です。
本態性振戦の症状
- 1.手や腕のふるえ
- 最も多く見られるのが、手や腕のふるえです。日常的にペンを持つ、箸を使う、コップを口へ運ぶなどの動作でふるえが目立つことがあります。ふるえの振幅や速さは人によって異なります。
- 2.頭や声のふるえ
- 人によっては頭が前後や左右に細かく揺れることや、声が震えることもあります。ただし、手のふるえほど多くはありません。
- 3.姿勢や動きでの変化
- 本態性振戦は、じっとしているときよりも、なにか物を持とうと手や腕を動かすときにふるえが強まる「動作時振戦」や、腕を前方に水平に伸ばしたまま保とうとしたときに震える「姿勢時振戦」が特徴です。緊張したときや疲れているとき、カフェインを多くとったときなどに症状が強く出ることがあります。

本態性振戦の検査・診断
- 1.問診と神経学的検査(※1)
- 本態性振戦の診断には、まず医師が、いつごろから症状があるか、家族に似た症状があるかなどの問診を行います。同時に、手や腕の動き、姿勢などを見て神経学的検査を行います。
- 2.画像検査
- 必要に応じて、MRI検査やCT検査で脳や神経に他の病気が隠れていないかを調べます。パーキンソン病など、別の神経系の病気との鑑別が重要です。
- 3.血液検査
- 甲状腺機能亢進症(こうじょうせんきのうこうしんしょう)のように、ホルモンバランスの乱れで手がふるえる場合もあります。そのため、血液検査を通してほかの原因がないかを調べる場合があります。
※1:神経のはたらきを評価する検査
本態性振戦の治療
- 1.薬物療法
- 本態性振戦の治療としては、症状を抑える薬がよく使われます。例えば、β遮断薬(※2)や抗てんかん薬(※3)が処方されることがあります。これらの薬はふるえを完全に止めるものではありませんが、日常生活に支障をきたすほどのふるえを軽減する目的があります。
- 2.生活習慣の見直し
- ・カフェインを控える
- コーヒーや緑茶などに含まれるカフェインは、神経を刺激してふるえが悪化することがあります。
- ・ストレスの軽減
- 緊張やストレスによってもふるえが出やすくなるため、適度な休息やリラクセーション法を取り入れると効果的です。
- ・適度な運動
- ウォーキングなどの軽い有酸素運動は、体力や筋力を保つ上で役立ちます。急に激しい運動を始めるのは避け、無理のない範囲で続けることが大切です。
- ・アルコールとの付き合い方
- 少量の飲酒でふるえが一時的に軽減することがありますが、お酒が切れると逆にふるえが強まることがあり、根本的な解決にはなりません。ふるえを止めるために飲酒を繰り返すと、アルコール依存症を招く危険があるため、治療の代わりにお酒を利用することは避けてください。
- 3.リハビリテーション
- 作業療法士などの専門家に相談し、ふるえがあっても道具を使いやすくする工夫を教わったり、箸の持ち方やペンの持ち方などを調整したりすることで日常生活が楽になる場合があります。
- 4.切らない手術(集束超音波治療:MRgFUS)
- 近年、頭蓋骨を切らずに、MRIで確認しながら超音波を脳の特定部位(視床)に集中させて焼き切る「集束超音波治療(しゅうそくちょうおんぱちりょう)」が保険適用となりました。体にメスを入れないため、高齢の方でも受けやすい新しい選択肢となっています。
- 5.手術
- 薬物療法が十分な効果を示さない重症例では、脳の特定の部位に電極を埋め込み、刺激を与える「脳深部刺激療法(のうしんぶしげきりょうほう、DBS)」などが検討される場合があります。外科手術にはリスクも伴うため、医師とよく相談し、慎重に判断することが必要です。
※2:心拍数などを抑える薬
※3:けいれんを抑える薬
本態性振戦の合併症
本態性振戦そのものが直接重大な合併症を引き起こすことは稀ですが、次のような面で注意が必要です。
- ・転倒や怪我
- ふるえによってバランスを崩すと、転倒するリスクが高まる場合があります。特に高齢者では骨折につながるおそれがあります。
- ・精神的ストレス
- ふるえが気になって外出を控えたり人前での作業を避けたりすると、孤立感やうつ状態、さらには「社交不安障害(人前で極度に緊張する状態)」につながるリスクがあります。
本態性振戦の予防
本態性振戦は、明確な原因がわからない部分も多く、完全に防ぐ方法が確立されているわけではありません。ただし、以下のことに気をつけると症状の悪化を抑えられる可能性があります。
- 1.ストレス管理
- ヨガ、深呼吸、趣味の時間などを取り入れ、過度な緊張やストレスを減らす工夫をする。
- 2.カフェインの摂取を控える
- コーヒー、エナジードリンク、緑茶を大量に飲む習慣がある人は、徐々に減らしてみる。
- 3.定期的な運動と休養
- 軽い運動を適度に行い、体力を維持しながら質の良い睡眠を確保することで全身の調子を整える。
- 4.定期的な受診
- 症状が気になり始めた段階で医療機関を受診し、対策をとることで生活の質を向上させやすくなる。
更新:2026.05.13
