いっかせいぜんけんぼう(てぃーじーえー)

一過性全健忘(TGA)

概要

一過性全健忘は、突然発症する一時的な記憶喪失です。具体的には、最近の出来事や会話を覚えられなくなったり、何度も同じ質問をしてしまったりするのが特徴です。通常は24時間以内、特に多くの場合は6時間程度で症状がおさまります。脳卒中(※1)やてんかん(※2)などとは異なり、「脳の細胞が死んでしまったり、傷跡が残ったりすること(後遺症)」はありません。いわば「脳の記憶のスイッチが一時的にオフになった」ような状態です。

一過性全健忘は比較的まれですが、40歳以上の成人で起こることが多いとされています。症状が治まると普段の生活に戻れますが、突然発症すると周囲も驚き、本人も強い不安を感じることがあります。ただし、再発は多くありません。

※1:脳の血管がつまったり、出血したりする病気
※2:脳内の異常な電気活動による発作

一過性全健忘の原因

現在のところ、一過性全健忘が起こる正確な原因は明らかになっていません。ただし、以下のような要因が重なって、脳の一部に一時的な血流不足や異常な働きが生じることがきっかけになるのではないかと考えられています。

  1. 血管攣縮(けっかんれんしゅく)(血管が急に縮むこと)
  2. 激しい運動やストレス
  3. 温度差の激しい環境下での急な動き。たとえば、寒い場所から急に熱い風呂に入るなど。
  4. 頭部への軽い外傷(ぶつける、しめつけられるなど)
  5. 強い感情の動き(悲しみ、怒りなどによるストレス)
  6. 静脈還流(じょうみゃくかんりゅう)の障害:重いものを持ち上げる、排便時に強く力む、激しく咳き込むといった動作(バルサルバ手技)がきっかけとなります。胸の圧力が高まることで、脳から心臓へ戻るはずの静脈の血液が一時的に逆流し、記憶を司る「海馬」にうっ血や負荷をかけるという説が有力です。

脳卒中やてんかんのような病気と区別するため、医師は詳しい検査で原因を探りますが、多くの場合、脳組織に大きな損傷や異常は見つかりません。

一過性全健忘の症状

一過性全健忘の主な症状は、突然起こる「新しいことを覚えられない」記憶障害です。以下のような特徴がみられます。

  • 最近の会話や出来事を思い出せなくなる
  • 「今どこにいるのか」「何をしているのか」といった状況を把握しにくくなる
  • 同じ質問を何度も繰り返す。「ここはどこ?」「どうしてここにいるの?」など。
  • 自分の名前や家族、過去の大切な出来事など、昔から覚えていることはそのまま保たれる
  • 意識ははっきりしているように見えても、最新の記憶を形成できないので混乱しているように見える

これらの症状は通常、数時間から長くても24時間以内に改善します。周囲の呼びかけに反応できないほどの意識障害が起こるわけではないため、一見すると元気そうに見える人もいるかもしれませんが、本人は大きな不安を感じています。

図
図:一過性全健忘(TGA)

一過性全健忘の検査・診断

一過性全健忘かどうかを判断するには、脳卒中やてんかんなどの他の脳の病気と区別する必要があります。医師は以下のような方法で検査・診断を行います。

1.症状と経過の確認
  • いつから症状が始まったのか、どのくらいの間続いているのか
  • 繰り返し質問をしているか、最近の出来事を覚えているか
  • 他の病気の症状(頭痛、めまい、手足の麻痺(まひ)など)はないか
2.身体検査と神経学的検査
  • 血圧や脈拍、体温などの基本的な身体状態をチェック
  • 医師が簡単な質問をすることで記憶状態を評価し、意識レベルや神経の働きを調べる
3.画像検査
  • MRIやCTなどで脳の状態を確認し、出血や血管のつまりなど異常がないかを調べる
  • 脳波(脳の電気活動を調べる検査)が行われる場合もあり、てんかんとの区別に役立つ

これらの検査で脳卒中やてんかんなどが否定され、なおかつ一時的な記憶障害が主症状の場合は、一過性全健忘と診断されることが多いです。

脳梗塞のように脳の組織が壊れてしまう異常は見つかりません。ただし、精密なMRI検査(DWI:拡散強調画像)を適切なタイミングで行うと、記憶を司る「海馬(かいば)」という部分に、ごく小さな「一時的なむくみ」のような白い点が見つかることがあり、これが診断の決め手となることがあります。

一過性全健忘の治療

一過性全健忘は、多くの場合、特別な治療を行わなくても症状が自然に回復します。数時間から24時間以内には新しい記憶が再び形成できるようになり、元の生活に戻ることができます。医師の管理下で脳卒中やてんかんなどの合併を除外したあとは、経過観察が中心となります。

まれに、他の病気が見つかることもあるため、症状が改善した後でも通院し、追加の検査や診察を受けることがあります。高血圧や動脈硬化など、脳の血管に関係する持病が疑われる場合は、それらの治療が必要になることもあります。

一過性全健忘の合併症

一過性全健忘そのものは、長期的な後遺症を残すことはほとんどありません。ただし、症状が起きた直後は本人が混乱や不安に襲われるため、外出先で発症した場合などに転倒や事故につながる可能性はゼロではありません。そのため、周囲の人は安全を確保し、必要に応じて医療機関へ連絡しましょう。

一過性全健忘の予防

一過性全健忘を確実に防ぐ方法はわかっていません。ただし、脳の血管に負担をかける要因を減らすことは、脳卒中や他の血管障害を防ぐうえでも大切です。具体的には、以下のような生活習慣の改善が推奨されます。

  1. 適度な運動をする(ウォーキングなど無理のない範囲で)
  2. バランスの良い食事をとる
  3. 十分な睡眠を確保する
  4. ストレスをためすぎないようにする
  5. 喫煙や過度の飲酒を避ける
  6. 高血圧や糖尿病などがある場合は適切に治療する

更新:2026.05.13