はいそくせんしょう・はいけっせんそくせんしょう

肺塞栓症・肺血栓塞栓症

概要

肺血栓塞栓症は、心臓から肺に血液を送る肺動脈に血栓(血の塊)が詰まって引き起こされる疾患です。多くの場合は、下肢(かし)のふともも、ふくらはぎの不快ところを流れてる静脈でできた血栓(深部静脈血栓)が肺まで運ばれることから発症します。肺動脈が詰まって発症する疾患は肺塞栓症と呼ばれますが、そのうち血栓が詰まるものが肺血栓塞栓症です。

特に飛行機などの乗り物などで、長時間同じ姿勢でいると血の流れが悪くなり血栓ができやすくなります。できた血栓が血管からはがれ、血流に乗って肺まで運ばれ、詰まった状態を急性肺血栓塞栓症といい、エコノミークラス症候群としても知られる疾患です。急に立ち上がったときなどに発症することが多いのも特徴とされています。

エコノミークラスの座席のように身動きが取りにくい状態でいると血栓ができやすくなりますが、寝たきりの状態など、ずっと同じ姿勢で動かないことも発症の危険性があります。東日本大震災の際には、避難所や自動車の中で生活していた被災者が発症したために注意喚起が行われました。

図
図:肺血栓塞栓症の仕組み

原因

深部静脈血栓は、血流が滞って血栓ができやすい状態が長時間続くことで発生します。たとえば、長時間同じ姿勢で座っていたり、術後に腹部が圧迫され続けたりするほか、ギプスによる固定や脱水状態も原因となります。そもそも足は、重力の関係で血液の流れが悪くなりやすく、血栓ができやすいといわれています。

また、血液が固まりやすい体質などが挙げられますが、これは、生まれつきの体質と後天的な理由によるものがあります。さらに、足の筋肉が弱くなり、ふくらはぎなどのポンプ作用が働かなくなったことによる血流の悪化も要因とされます。

血栓以外で起こる肺塞栓症の原因としては、がんなどの腫瘍、真菌感染、骨折などの外傷で生じる脂肪組織などがあります。

症状

足の静脈にできた血栓が何らかの要因により血管の壁からはがれ、肺動脈まで到達して詰まった場合に急性肺血栓塞栓症となり、突然の胸の痛み、息切れ、呼吸困難、冷や汗、動悸(どうき)、めまい、失神などが起こり、詰まった血栓が大きいものであるほど症状は重く、命に関わることもあります。血栓が小さい場合は無症状、あるいは軽い症状が出るだけのことがあります。

血栓が足の静脈にとどまっている状態を深部静脈血栓症と呼びますが、特に片方の足だけにむくみや腫れ、痛みなどが起こります。それまで歩いているときや階段を上っているときには感じなかった息切れや、胸や背中の痛み、動悸などは、発症の前兆とされます。

検査

意識を失うなど重症化している場合は、呼吸管理や血液中の酸素量を確認し、血圧の確認などの管理が優先されます。その後に、心筋梗塞や肺気胸などの似たような症状が出る疾患と区別をつけるために、以下のような検査が行われます。

胸部造影CT検査

急性肺血栓塞栓症の診断の際に用いられます。血管が映りやすいように造影剤を入れてCT検査を行います。肺動脈に血栓が詰まっているかどうかを調べます。

心臓超音波検査/足の血管超音波検査

肺動脈に血栓が詰まったときには心臓に大きな負担がかかるため、心臓超音波検査を行って心臓の状態を調べます。足の血管超音波検査では、足の静脈の形や血液の流れを確認して、血栓(深部静脈血栓)があるかどうかを調べます。

血液検査

Dダイマー(血栓の中の物質が溶けた時に生じる物質のひとつ)検査で、血栓があったかどうかを推定することができます。

治療

重症化している場合は、命を維持するための緊急措置が行われます。その上で、次のような治療が検討されます。

薬物療法

血液が固まるのを防ぐための薬剤の点滴や服用を行います。詰まった血栓を溶かすためには、ウロキナーゼなどが投与されます。ただし、血栓を溶かすことによって体の状態が悪くなることがあり、また、ほかの疾患がある場合には適さないこともあるため、慎重に進める必要があります。

外科手術/カテーテル治療

重症化して一刻を争う場合や、血栓が大きく薬物療法では改善が見られない場合には、開胸手術により直接血栓を取り除きます。カテーテル治療では、足の付け根などからカテーテル(細くて柔らかい管)を入れて詰まっている部分まで到達させ、血栓を取り除きます。

下大静脈フィルター

足の静脈にまだはがれていない血栓が残っている場合、下大静脈フィルターというフィルターを胸や腹部の血管に入れ、血栓が流れていくのを防ぐこともあります。

更新:2022.08.22