かびんせいちょうしょうこうぐん(あいびーえす)

過敏性腸症候群(IBS)

概要

過敏性腸症候群とは、血液や腸の検査で明らかな異常が認められないにも関わらず、おなかの痛みや張り、便秘や下痢などが数カ月以上にわたって続く状態のときに考えられる病気です。英語表記のIrritable Bowel Syndromeの頭文字をとって「IBS」とも呼ばれています。

日本人の10%程度は過敏性腸症候群であるとされており、決して珍しい病気ではありません。発症は20~40代に多く、男女比は1対1.6で、女性にやや多く見られます。

命に関わるものではありませんが、不快な症状によって生活の質が著しく低下してしまうため、適切な治療が求められます。また、目に見える異常が認められないため、周囲から病気のつらさが理解されにくく、悩みを抱えることも多いと考えられています。

原因

過敏性腸症候群の多くは、精神的なストレスや自律神経バランスの乱れによって、腸の粘膜から分泌されるセロトニンというホルモンのバランスが崩れることで引き起こされるとされています。原因は一つではなく、さまざまな因子が関係していると考えられていますが、はっきりとした発症のメカニズムは分かっていません。

食べ物を消化・吸収し、不要なものを便として体の外に排泄する機能を持つ小腸や大腸には交感神経と副交感神経が分布し、バランスを取り合いながらそれぞれの動きを調節しています。しかし、ストレスなどによって不安定な状態になると、腸の動きに異常が生じて過敏性腸症候群の症状を引き起こしやすくなります。

そのほか、細菌やウイルスによる感染性胃腸炎にかかると、回復後に過敏性腸症候群を発症しやすいことも分かっています。これは炎症によって腸の粘膜が弱くなるだけでなく、腸内細菌のバランスが崩れ、腸の働きに異常が生じてしまうためといわれています。

図
図:ストレスと腸

症状

過敏性腸症候群はおなかの痛みや張りなどの不快な症状とともに、便秘や下痢などの排便の異常を引き起こします。症状の現れ方や重症度は人によって異なり、排便の回数と便の形状から「便秘型」「下痢型」「混合型」「分類不能型」の4つの型に分けられます。

便秘型
腸が過剰に動くことで狭くなり、便が通りづらくなって便秘になります。長い間、腸内に便がとどまるため、水分のないコロコロとした形状になります。女性に多く見られます。
下痢型
腸の動きが激しくなり、便が水分を保ったまま素早く腸内を通り過ぎてしまうため、下痢の症状が出ます。一日に何度も水のような便が出たり、下痢の便に粘液がついていたりします。男性に多いのが特徴です。
混合型
下痢型と便秘型の両方の特徴を併せ持ち、ストレスを感じると、頻繁に下痢と便秘を繰り返します。
分類不能型
上記3つの型に分類されない症状が現れます。

また、過敏性腸症候群の患者には、胃の痛みや胃もたれ、胸やけや胃食道逆流症を合併する人も多くいます。重症の場合には、通勤・通学時に電車に乗れないなど日常生活に支障をきたすことも珍しくありません。

どの型もストレスや疲れなどがたまると症状が悪化し、就寝中や休日などは症状が出にくいとされています。また、排便で一時的に症状が改善することも特徴です。

検査・診断

医療機関での過敏性腸症候群の診断には、「RomeII Ⅳ(ローマⅣ)基準」という国際的な診断基準が多く用いられています。

RomeII Ⅳ基準とは、「腹痛あるいは腹部不快感が、最近3カ月の中の1カ月につき少なくとも3日以上は生じ、その腹痛あるいは腹部不快感が、①排便によって軽快する、②排便頻度の変化で始まる、③便形状(外観)の変化で始まる、の3つの便通異常の2つ以上の症状を伴うもの」と定義されています。

大腸がん潰瘍性大腸炎クローン病など、過敏性腸症候群と似たような症状が出る病気があるため、検査を行ってほかの病気でないことを確認することが大切です。血液検査や尿検査、便潜血検査をはじめ、大腸内視鏡検査や大腸造影検査、腹部超音波検査などで、実際に腸の粘膜に炎症や腫瘍などがないことを確認して初めて、過敏性腸症候群の診断を下すことができます。

治療

過敏性腸症候群の発症や悪化には、暴飲暴食、ストレス、疲れ、睡眠不足、運動不足など生活習慣の乱れが大きく関わっていると考えられています。胃腸の負担を減らすため、刺激物やアルコール、脂肪分の多いものなどを控え、栄養バランスの良い食事をなるべく規則正しくとるのがよいとされています。また、十分な睡眠と休養をとり、適度な運動や趣味などでリフレッシュしてストレスをためないようにすることも大切です。

軽症の場合は、生活改善を行いながら経過を見ていき、なかなか症状が改善しないときには薬物療法を行います。便秘型に対しては便を軟らかくする薬や下剤など、下痢型に対しては腸の運動を改善させる薬や下痢止めなど、腹痛が強い場合には胃腸の痙攣(けいれん)を抑える薬などが用いられます。腸の運動を助けるビフィズス菌や乳酸菌、漢方薬などが処方される場合もあります。精神的な症状が強いときは、抗うつ薬や向精神薬などが用いられたり、カウンセリングなどの精神療法が行われたりすることもあります。

更新:2022.05.26