潰瘍性大腸炎
概要
潰瘍性大腸炎は、大腸の粘膜に炎症が起きる病気のことで、厚生労働省によって定められた、指定難病(難病情報センター https://www.nanbyou.or.jp/entry/62)の一つです。小児から高齢者まで、幅広い年代で発症しますが、発症年齢のピークとなるのは30歳以下の成人です。年々増加傾向にあり、日本における患者数はおよそ18万人といわれており、全体の9割が軽症あるいは中等症の患者さんです。
原因
消化管は、口から食道、胃、小腸、大腸、肛門とつながっている器官です。口からさまざまな食べ物が入って、肛門まで運ばれていくわけですが、腸内では常に、無害なものはそのまま、有害なものは排除するという高度な防御の仕組みが働いています。これを腸管免疫といい、実に多くの腸内細菌が関わっています。潰瘍性大腸炎は、この免疫の仕組みが壊れて、自分の腸を攻撃してしまう病気とされています。
潰瘍性大腸炎を起こしている人は、腸内細菌の種類と量が、健康な人とは違うと報告されていることから、発症には腸内細菌が関係していると考えられています。また、親から子に遺伝する性質の病気ではありませんが、発症しやすい遺伝子があるといわれています。
このように、免疫の異常、腸内細菌、遺伝、食事など、複数の要素が関係していることがわかっていますが、すべては解明できておらず、今も研究が続けられています。
症状
もっとも代表的な症状は、軟便、下痢(血便を含む)、腹痛で、体重減少、発熱などの症状を起こすこともあります。症状が進行すると排便の回数も増え、粘液と血を含んだ粘血便が出るようになり、さらに重症化すると、真っ赤な血便や倦怠感(けんたいかん)、貧血などが見られることがあります。
病変は、直腸の一部から大腸全体にまで及ぶことがあり、直腸炎型(直腸の一部)、左側大腸炎型(直腸から下行結腸まで)、全大腸炎型(大腸全体)に分類されます。
炎症が悪化すると、大量に出血したり、大腸穿孔(せんこう/大腸の粘膜に穴が開くこと)や、大腸狭窄(きょうさく/腸管が狭くなること)などを起こします。目や皮膚、関節など、腸以外の部位にも合併症を起こすことがあります。
長期にわたって潰瘍性大腸炎を患っていると、発症から10年で2%未満、10年以上で5%前後、21年以上は10%以上と、大腸がんになるリスクが高まるといわれています。
症状が起こったり治まったりを繰り返すケースがしばしば見られますが、慢性的な症状が6カ月以上続く人や、突然強い症状が起こる人など、患者さんによって、その病態はさまざまです。
下痢が治まらない場合、便に血が混じる場合は、医療機関を受診することが大切です。
検査と診断
下痢が2〜3週間続くようなら、潰瘍性大腸炎の可能性を考えます。いつごろからどのような症状を自覚して、日常生活にどのくらい影響があるのかなどを、問診の際に医師に詳しく説明します。ほかの疾患や感染症によるものではないとの鑑別診断を行うため必要です。
- 血液検査
- 炎症、貧血、栄養状態、全身状態、薬剤の副作用などを調べます。
- 内視鏡検査
- 肛門から内視鏡を入れて行う、大腸内視鏡検査が行われます。この検査によって、病状の評価や治療方針が決定されます。大腸の粘膜の一部を採取して、病理検査を行うこともあります。
- 便検査
- 感染症など、ほかの疾患によるものではないことを確認します。
- X線検査
- 腹部に腸管合併症がないかどうか確認します。
- CT検査、MRI検査
- 腸管の詳細な様子を、CTによる断層の画像、MRIの磁気を使った画像によって確認します。
治療
炎症を抑える薬によって治療します。潰瘍性大腸炎は完治しませんが、多くの患者さんが薬物療法によって、健康な人と変わらない生活を送っています。ただし、再発することも多いため、定期的に内視鏡検査を行うことが大切です。
- 薬物療法
- アミノサリチル酸製剤/軽症から中等症の基本的治療薬です。腸の粘膜の炎症を抑えます。
- ステロイド/炎症を抑える薬です。効果が強いため、必要な期間だけ使います。
- 免疫調節薬/リンパ球の増殖を抑え、腸内の免疫異常を調節します。症状の再発を防ぐために用いられます。
- 抗体製剤/リンパ球の増殖を抑える薬で、中等症以上の再発防止のために使います。血中濃度を確認し、血液中の薬の量を確認する必要があり、長期間の投与はできません。
- 血球成分除去療法
- 薬物療法の効果が見られない場合に検討されます。血液を抜き取って、外部装置で活性化している血中の白血球を取り除き、体内に戻す方法です。
- 外科手術
- 重症や劇症の場合に検討されます。大腸に穴が開いたり、大量に出血したりした場合には、大腸をすべて摘出する手術を行うことがあります。
予防
潰瘍性大腸炎を発症した人のうち、ごく一部の人が、外科手術によって大腸を摘出したり、大腸がんを発症したりしますが、ほとんどの人は健康な人と変わらない生活を送ることができます。ただし、症状が治まったからといって、自己判断で薬の服用をやめると、症状が再発するケースも多いため、医師からの指示に従って薬を継続して服用する必要があります。
更新:2024.10.25