えんしょうせいちょうしっかん

炎症性腸疾患

基礎情報

概要

炎症性腸疾患(IBD)は、腸の内側に慢性的な炎症が起こる病気の総称です。代表的な病気として、潰瘍性大腸炎やクローン病が挙げられます。

潰瘍性大腸炎は、大腸の粘膜に連続的に炎症が起こるのが特徴ですが、クローン病は口から肛門までの消化管のあらゆる場所に飛び火するように(非連続的に)炎症が起こる という違いがあります。

日本では、潰瘍性大腸炎の患者数は潰瘍性大腸炎の患者数は166,060人(平成25年度末の医療受給者証および登録者証交付件数の合計)、人口10万人あたり100人程度であり、米国の半分以下です。

わが国のクローン病の患者数は特定疾患医療受給者証交付件数でみると1976年には128人でしたが、平成25年度には39,799人となり増加がみられています。それでも、人口10万人あたり27人程度、米国が200人程度なので、欧米の約10分の1でしたが、現在も増加傾向は続いており、令和元年度医療受給者証保持者数は44,245人に達しています。

これらの病気はいずれも若い年代から発症することが多く、長くうまく付き合っていく必要がある病気として知られています。

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図:潰瘍性大腸炎医療受給者証交付件数の推移
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図:クローン病医療受給者証交付件数の推移
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図:潰瘍性大腸炎
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図:クローン病

炎症性腸疾患の原因

炎症性腸疾患のはっきりとした原因は、完全には解明されていません。一般的には、次のような要因が複雑に絡み合って発症すると考えられています。

1.自己免疫機能(*1)
本来は体内に侵入してきた細菌やウイルスを攻撃する免疫システムが、誤って自分の腸の細胞や組織を攻撃してしまうことで炎症が起こると考えられています。
2.遺伝
家族の中に潰瘍性大腸炎やクローン病にかかった人がいると、同じ病気になる可能性が高くなるという研究結果があります。ただし、遺伝だけが原因ではなく、環境やほかの要素も影響しているとされています。
3.環境要因
食生活の変化やストレス、喫煙などが影響を与える可能性があるといわれています。

※1:体に侵入した病原体を見つけて攻撃する仕組み

炎症性腸疾患の症状

炎症性腸疾患の代表的な症状は、以下のとおりです。ただし、人によって現れ方や重さに違いがあります。

1.腹痛・下痢
腸に炎症があるため、しつこい腹痛や下痢が続くことが多いです。クローン病では口から肛門(こうもん)まで、潰瘍性大腸炎では大腸を中心に炎症が起こります。
2.血便
特に潰瘍性大腸炎では、大腸の粘膜に潰瘍(かいよう)ができるため、便に血が混ざりやすくなります。
3.体重減少
腹痛や下痢が続くことで食欲が落ちたり、腸の吸収力が低下したりすることで、体重が減る場合があります。
4.倦怠感(けんたいかん)や疲労感
長期間にわたって下痢や腹痛が続いたり、栄養が十分に吸収できなかったりすることで、体が疲れやすくなります。

炎症性腸疾患の検査・診断

炎症性腸疾患を診断するときは、以下のような検査が行われます。これらの検査結果を総合的に判断し、潰瘍性大腸炎なのかクローン病なのか、あるいはほかの病気なのかを見極めます。

1.血液検査
貧血があるかどうかや、炎症の程度を示すCRP(*2)などを調べます。
2.便検査
便に血液や細菌が混ざっていないかなどを調べます。
3.内視鏡検査
カメラの付いた細い管を使って、大腸や小腸の粘膜の状態を直接観察し、必要に応じて組織を少しだけ切り取る「生検」を行います。
4.画像検査
CTやMRIなどを利用し、腸の炎症や狭くなった部分がないかを確認します。

最近では、内視鏡検査の回数を減らすためのモニタリングとして便中カルプロテクチン検査が普及しています。これは、便の中のタンパク質を測ることで、腸の炎症の程度を数値化できる画期的な検査です。

※2:血液中に含まれる炎症の指標

炎症性腸疾患の治療

炎症性腸疾患の治療は、症状を落ち着かせる「寛解(*3)」と、再び悪化しないようにする「維持」を目指します。これらに加えて、現在の治療の目標は、単に症状がない状態(臨床的寛解)だけでなく、内視鏡で見ても炎症が消えている粘膜治癒(ねんまくちゆ)を目指すことにあります。これにより、将来のがん化リスクや手術のリスクを大幅に下げることができます。

主な治療法は以下のとおりです。

1.薬物療法
アミノサリチル酸製剤
炎症を抑えるはたらきがあり、軽症から中等症の潰瘍性大腸炎の患者によく使われます。
ステロイド
強い抗炎症作用を持ち、症状が重い場合に使用されます。長期間使うと副作用が出やすいため、医師の管理のもとで慎重に行われます。
免疫調節薬
免疫の過剰反応を抑え、炎症をコントロールします。
生物学的製剤
体の中で特定のタンパク質をターゲットにし、炎症を抑える薬です。これまでの治療で効果が不十分な場合などに使われることが多いです。
2.食事・栄養管理
腸に負担をかけない食事を心がけることが大切です。医師や管理栄養士と相談しながら、症状に合わせて食事内容を調整します。クローン病の場合、炎症が強い時期には低脂肪・低残渣(ていざんさ:カスが残らない)の食事が基本となります。一方、潰瘍性大腸炎では過度な食事制限は不要とされることが多いですが、個々の自分に合う・合わない食品を見つけることが大切です。
場合によっては、専用の栄養補助食品や経腸栄養(*4)を使うことがあります。
3.外科手術
薬で症状が十分に改善しない場合や、腸に穴が開いてしまうなど重い合併症が生じた場合は、炎症のある部分を切除する手術を行うことがあります。

※3:症状がおさまったが、まだ治っていない状態
※4:チューブなどを通して栄養をとること

炎症性腸疾患の合併症

炎症性腸疾患が長く続いたり、コントロールが不十分だったりすると、以下のような合併症が起こる場合があります。

腸の狭窄(きょうさく)・閉塞
クローン病などでは、腸の内側が厚くなり狭くなることがあります。重症になると、腸が完全につまる、閉塞を起こすこともあります
瘻孔(ろうこう)
腸の壁に穴ができ、ほかの臓器や皮膚とつながってしまうことがあります。
大腸がん
潰瘍性大腸炎で長期間にわたり炎症が続くと、大腸がんのリスクが一般の人よりも高くなります。そのため、定期的に内視鏡検査を受けることが勧められます。

炎症性腸疾患の予防

はっきりとした原因がわかっていないため、炎症性腸疾患そのものを完全に予防することは難しいとされています。しかし、次のような生活習慣を意識することで、症状の悪化を防ぐことや、ほかの病気を予防することにつながります。

バランスのよい食事
脂肪や食品添加物の多い食事を避け、野菜や果物などを適度に取り入れましょう。
ストレス管理
ストレスがかかると体調を崩しやすくなるため、適度に体を動かす、趣味を楽しむなど、自分に合った方法でリラックスすることが大切です。
禁煙
クローン病は喫煙によって症状が悪化しやすいといわれています。周囲の受動喫煙(じゅどうきつえん)にも注意しましょう。

更新:2026.09.25