肺結核
基礎情報
概要
肺結核は、肺や気管支に結核菌が感染して起こる病気です。
かつては、日本人の死亡原因の1位でしたが、BCGワクチンの予防接種、健康診断による早期発見に加え、完治が見込める治療薬の普及を背景に、肺結核の感染者数や死亡者数は大きく減少しています。しかし、新たに結核患者として報告されている人の数は2020年には年間で1万2000人以上となっており、感染症として撲滅されたわけではありません。
結核菌に感染しても、私たちの体には免疫力が機能しているため、ほとんどの場合は発症しません。結核菌が増殖してすぐに発症するのは1割ほどと考えられています。免疫力が低下している子どもや高齢者などが発症しやすい傾向にあり、ほかにも、糖尿病の患者さん、リウマチなどの膠原病(こうげんびょう)で免疫抑制剤を服用中の患者さん、免疫力が低下するHIV感染症の患者さんは、特に発症しやすいようです。
また、結核菌が免疫によって押さえ込まれてはいるものの、体の中に残っていることがあります。そうしたケースでは、高齢になったり、ほかの病気にかかったりすることで免疫力が低下すると、体内の結核菌が増殖して、結核を発症します。感染してから発症までの期間は1年以上で、20〜30年かかる例もあるといわれています。
検査によって、咳(せき)やたんに結核菌が混じっていることがわかったら、入院して隔離された環境で治療することが法律によって定められています。
原因
結核菌は、土の中や水中に存在する細菌と違い、感染している人の体の中で増殖し、咳などによって空気中に滞留することで、それを大量に吸い込んだ人の肺や気管支に感染します。したがって、ほとんどのケースでは肺結核となりますが、首の脇のリンパ節、背骨などの骨関節、胸膜、腎臓、腸、皮膚など肺以外の部位に結核を起こすことがあります。結核菌が脳にたどり着いて、結核性髄膜(ずいまく)炎を起こすと重症化し、血液に入って全身にばらまかれると粟粒(ぞくりゅう)結核という病態になりますが、健康な成人がかかることはほとんどありません。
症状
結核の初期症状は、咳、痰、微熱などで、風邪(かぜ)と似ており、やり過ごしてしまうことも多いため、知らない間に進行します。進行すると、血の混じった痰を吐いたり、大量に血を吐いたり、呼吸困難を起こすようになります。重症化すると、ほかの臓器へ感染することもありますし、重い後遺症のために呼吸不全に陥ることがあります。何より、周囲にいる人を感染させる可能性もありますから、早めに医師の診断を受ける必要があります。早期に治療すれば、後遺症もなく、軽症のうちに完治でき、家族や友人など周囲の人への感染を防ぐことが可能です。2週間以上咳が続いたら、必ず医療機関を受診してください。
検査
感染や発症の有無、他人に感染させる可能性など、複数の検査を行って調べます。
- 胸部X線検査
- 発症しているかどうか、肺のX線撮影によって調べます。
- CT検査
- 肺のX線撮影で陰影が映った、結核が疑われる部分の断面を撮影します。
- インターフェロンガンマ遊離試験
- 感染しているかどうかを調べる血液検査です。
- 喀痰(かくたん)検査・気管支鏡検査
- 結核菌が咳や痰に混じっているかどうかについて検体を採取し、PCR法を用いて調べます。
治療
基本は薬物療法で、抗結核薬を6カ月間服用する方法がWHO(世界保健機関)によって推奨されています。4種類の抗菌薬を2カ月間、そのあと2種類の抗菌薬を4カ月間服用します。
結核菌は薬剤耐性といって、薬に対する抵抗力をつけてしまって抗菌薬が効かなくなることがあります。そのため、効き方が違う薬を組み合わせて、6カ月間継続して服用することが決められているのです。6カ月間の治療中に、症状がなくなることがありますが、決して自己判断で中断せずに服用を続けることが大切です。
抗結核薬は、神経や視力、聴力、肝臓、腎臓などに副作用が起こる可能性がありますから、症状が現れたら、すぐに医療者に伝えてください。
検査によって咳や痰に結核菌が混じっていることがわかった場合、入院隔離して治療しますが、この場合、国や自治体から医療費助成を受けることができます。
予防
乳幼児が感染すると、髄膜炎など起こして重症化しやすいため、1歳未満で結核に抵抗力をつけるためにBCGワクチンの接種を行います。10〜15年効果が持続するといわれていますが、成人にはあまり効果がありません。
成人が結核を予防するためには、免疫力を高めるために健康的な生活を送ることが重要です。生活習慣を改善して、栄養バランスの良い食生活と、日々の生活に運動の習慣を取り入れることが予防効果につながります。さらに、定期的に検診あるいは人間ドックを受けると、胸部X線検査によって早期発見が可能です。
更新:2022.05.26